開幕から約1カ月経ったヨーロッパ各国リーグ。各クラブの動向を網羅したNumber PLUS「欧州蹴球名鑑2021-22」が9月14日に発売されました。その名鑑に掲載されている注目クラブの記事をNumberWebで公開していきます!

 この夏、欧州蹴球名鑑をつくりながら、ずっと頭の隅に引っかかっていたことがある。クラブ・ブルージュと、鈴木優磨のことだ。

 Numberの名鑑では、4大リーグ以外からチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージに出場するクラブを「アザークラブ」として紹介している。昨季にベルギーの国内リーグで連覇を果たしたクラブ・ブルージュは、常連と言ってもいい存在だ。

 ブルージュはさらに、「優等生」と呼びたくなる存在だ。補強は筋道が通っていて、突然メンバー表を作り直させられるようなことはない。名鑑を作成する側にとっては、非常に助けられるクラブなのだ。

 今回のCLには、「アザークラブ」として11カ国から15チームが乗り込んでくる。クラブそれぞれの性格はもちろんだが、「お国柄」も感じられる。

補強が乱暴に見えるラテン系に比べると……

 毎年、結構困らされるのが、ラテン系だ。今季の出場はなかったが、ギリシャのクラブはやや補強が乱暴な印象がある。やたら選手を多く抱え、気付くと誰かがいなくなっている。クラブからの発表は、遅れることが少なくない。

 逆に助けられるのが北欧系だ。例えば、スウェーデンから久々に出場するマルメ。春秋制の国内リーグ真っ最中であることもあるが、補強は決して多くない。また、人材を確保するにしても、適材適所な補強を慎ましやかに行う、といった印象だ。昨季にデンマークから出場したミッティランもそうだったが、北欧系の国ではイメージそのままに、理路整然とスマートに、クラブ運営されているように感じられる。

 そうした国々と遠くはないからか、あるいはリーグの規模が似ているからか、オランダやベルギーのクラブも似たような印象がある。今回オランダから登場するアヤックスは、人材を売るクラブだ。優れた育成機関が、その土台となっている。ベルギーもステップアップの場となっており、王者クラブ・ブルージュも、その例に漏れない。無謀な投資はせず、方程式に従って選手を育て、羽ばたかせていく。

優等生が豹変した駆け込み補強

 その優等生が豹変した。移籍市場終盤、ブルージュはこれまでにない駆け込み的な補強を施したのだ。

 8月中旬、現地在住のライターNさんからの原稿には、「GKからMFまでそつのない陣容がそろった。あとはFWだけ」と記されていた。その原稿に、少し書き加えた。「日本代表FW鈴木優磨を欲しがったのも、そういう事情かもしれない」と。

移籍金350万ユーロはブルージュにとって安くない

 多くの噂が飛び交う移籍市場で、鈴木の名もブルージュの獲得候補として取りざたされていた。ボーナス抜きでも350万ユーロの移籍金を用意している、というものだった。その噂の真偽のほどは分からないが、現地のメディアで報じられたことは事実だ。

 350万ユーロ+ボーナス。欧州のビッグクラブから見れば端金かもしれないが、ブルージュにとっては、決して小さくない額である。

 コロナ禍の影響か、昨季のブルージュの補強費は総額470万ユーロだった。今夏支払った最高額は、レスターのU-23チームから21歳のアタッカー、カマル・ソワーを獲得する際の900万ユーロである。移籍市場が閉まる4日前のことだった。

 8月半ば過ぎには、20歳のアメリカ代表MFオーウェン・オタソウィーをウォルバーハンプトンから400万ユーロで獲得した。残り5日となってからは、ソワーら5人を一挙に獲得している。最後の隠し玉はスターベクのワンダーキッド候補、300万ユーロで獲得した16歳のアントニオ・ヌサだった。

FWのイスは最後まで鈴木優磨に残されていたのでは

 繰り返しになるが、この400万ユーロ前後という移籍金は、ブルージュにとって小さな額ではない。だが、支払う意義があるものなのだ。

 2年前に385万ユーロでスウェーデンのクラブから獲得したオディロン・コスヌは今夏、2300万ユーロを残してレバークーゼンへと移籍していった。2年前にアストンビラに2500万ユーロで売却したウェズレイも、もともとは420万ユーロで獲得した選手だった。

 イングランドでは壁に阻まれ、今季はローンで戻ってきたが、ブルージュにとってマイナス要素はひとつもない。その24歳のFWの復帰が決まったのが、8月27日のこと。それまで、FWのイスは鈴木のためにも残されていたのではと、妄想はかき立てられるのだ。

 今回の名鑑から、選手ごとの推定市場価値が新たな項目として加えられた。面白いのは、ブルージュが閉場間際に獲得した2選手の数値だ。フェトゥ・マウアサは市場価格1200万ユーロと言われているが、移籍金400万ユーロで手に入れた。

 昨夏にはマンチェスター・ユナイテッドも興味を示したレフトバックを、最後まで粘ってバーゲン価格で手に入れたのだ。もうひとり、16歳のヌサの市場価値は40万ユーロとされている。そこに300万ユーロを投じたということは、それだけのポテンシャルがあると確信しているということだろう。

もし買い物上手なクラブに鈴木が加入していたら

 国内リーグで連覇を果たしたフィリップ・クレモン監督は今季、よりCLに注力しているという。その指揮官とクラブの野心が響き合い、移籍市場終盤の活発な動きになったのだろう。目利きであることが証明されている買い物上手のクラブに鈴木が加入していたら、お互いにどんな化学変化を起こしていただろうか。

 移籍市場は、運命が交錯する場である。鈴木獲得の可能性が報じられる際、「スズキは監督の構想外になるバス・ドストの後釜になる可能性がある」と伝えられていた。ドストは今、先発ではないものの、ベンチに入り続けている。おそらくCLでも……。

 ビッグクラブの快進撃を目にするのもいいが、チームが成長・変化していく様子を見るのも楽しいものだ。鈴木とクラブ・ブルージュは、それぞれどんな未来を切り拓いていくのか、興味は尽きない。

文=杉山孝

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