2021年上半期(3月〜8月)、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。サッカー部門の第2位は、こちら!(初公開日 2021年6月9日/肩書などはすべて当時)。

世界No.1プレーヤーになると期待されたはずのネイマールに、醜聞が続いている。そこでネイマール本人と父親に取材経験のあるブラジル在住ライターが全3回にわたり分析する。(第1回/第2回はこちら)

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 選手としてのネイマールの総合的な評価は、すでに概ね固まっていると考えていいだろう。2010年代から20年代前半にかけて、世界で最も優れた選手の1人だったのは間違いない。2017年に史上最高の移籍金でバルセロナからパリ・サンジェルマン(以下、PSG)へ移ったことがそれを証明している。そして、25歳のこの年、キャリアのピークに到達。その後は、緩やかな下降線を描いている。

ロシアW杯以前は「3人目のスーパースター」として期待されたが……©Getty Images

 持っていた才能は、申し分がなかった。人一倍、努力もした。順調に成長すれば、メッシ、クリスティアーノ・ロナウドと同レベルの選手になれていた可能性があった。しかし、そうはならなかった。なぜか。

 いくつかの理由が思い浮かぶ。

バルサ→PSGの移籍は失敗だったと感じるワケ

 まず、バルセロナからPSGへ移籍したのは失敗だったのではないか。

 バルセロナでメッシの引き立て役に甘んじるのを嫌ったようだが、メッシより4歳若い。かつてバルセロナのエースの座がロナウジーニョからメッシへ"禅譲"されたように、バルセロナでタイトルを取り続けながらチームへの貢献度を高めていけば、いずれメッシからエースの座を譲り受けることもできたはずだ。しかし、それを待てなかった(それと同時に、息子を移籍させることで代理人として巨額のコミッションを稼ぎたい父親が移籍を促したと思われる)。

2019-20シーズンのCL決勝では優勝を逃して涙した©Getty Images

 とはいえ、今年5月、ネイマールがPSGとの契約を延長したのは正しい選択だっただろう。バルセロナへ復帰しても、一部のサポーターは彼が4年前に退団したときの怒りを忘れておらず、必ずしも居心地は良くなかったはずだ。また、もしレアル・マドリーへ移籍していたら、バルセロナのサポーターから「裏切り者」の大合唱が起きていたに違いない。

 ただし、彼がPSGとの契約延長を決断したのは、新型コロナウイルスの感染拡大で欧州ビッグクラブの経営状態が悪化しており、現実問題としてPSGを満足させるオファーはどこからもなかった、というのが真相かもしれない。

2人に追いつけなかったもう1つの大きな理由

 ネイマールがメッシ、クリスティアーノ・ロナウドに追いつけなかったもう1つの大きな理由は、度重なる故障である。

 2009年に17歳でデビューして以来、右足首を二度骨折し、背中、ハムストリング、内転筋などを度々故障している。13シーズンで13回故障し、718日休み、101試合欠場している。これに対してクリスティアーノ・ロナウドは実働20シーズンで、12回故障して244日休み、欠場したのは37試合。1シーズン当たりの故障回数、休んだ日数、欠場した試合数は、ネイマールの4分の1程度でしかない。小柄なメッシですら、これらの数値はネイマールの半分程度だ。

 あまりにも故障が多いので、重要な試合を欠場することが多い。

ブラジルW杯での負傷離脱は不運だったが……©Getty Images

 ブラジル代表では、2014年ワールドカップ(W杯)の準々決勝コロンビア戦で負った背中の故障は相手選手のラフプレーによるものだから仕方がないが、2018年W杯では右足首の故障が完治しておらず、不本意なプレー内容に終始した。

 パリ・サンジェルマンでは2017〜18年の欧州CLラウンド16のレアル・マドリー戦第2レグ、2018〜19年の欧州CLラウンド16のマンチェスター・ユナイテッド戦2試合でプレーできなかった。とりわけ2018年以降、故障が激増しており、その理由として睡眠不足や不摂生を疑う専門家もいる。

父親は金銭欲が異常なまでに強かった

 私生活上の数々のトラブルも、彼の成長を妨げたはずだ。

 ブラジル国内では、「本人もさることながら、周囲の人間が悪い」という声が多い。その筆頭が、父親だろう。幼い頃から息子の思考を完全にコントロールし、キャリアを誘導してきた。その結果、傑出した偉大な選手に育て上げた、という大きな功績はあるのだが、その一方で、いつまでも保護の元に置こうとして人間的な成長を阻げてきたのではないか。

 かつて父親にインタビューしたのだが、口が達者で、大変な負けず嫌い。最も印象に残ったのが、「息子と2人で、六代先まで経済的に困らないほどの大金を手にしたい」という言葉だった。こんなことを言う人物は初めてだったので、面食らった。「なぜ六代先までなのか」と尋ねると、「だって、金は多ければ多いほどいいだろう?」と笑う。金銭欲が異常なまでに強い人物、という印象を抱いた。

 彼は2016年末、若い愛人の存在を妻に悟られ、隠し子がいるとも報じられて、25年間連れ添った妻と離婚した。

ネイマール親子に思い出すロナウジーニョ兄弟

 ネイマールと父親の関係を見て思い浮かぶのが、ロナウジーニョと兄アシスだ。

ロナウジーニョと兄のアシス氏©Getty Images

 幼い頃に父親を亡くしたロナウジーニョは、9歳年上で、名門グレミオでプレーした兄が父親代わりだった。ロナウジーニョのキャリアはすべて兄が設計し、弟は兄の考えに盲目的に従った。これで兄が的確な判断力の持ち主であれば問題はないのだが、現実には兄の間違った指示のせいで多くの訴訟やトラブルに巻き込まれている。

 昨年3月、2人はパラグアイに入国した際、偽造パスポートを提示して逮捕された。怪しげな地元の実業家の口車に乗せられて違法行為を犯し、約半年間、留置された。兄が儲け話に目が眩み、まともな思考力の持ち主であれば絶対にやらないであろうミスをしたからだ。それと同じようなことが、ネイマールと彼の父親の間で起きている。

 サントスからバルセロナへ移籍する前のネイマールにも、インタビューしたことがある。明朗快活。フットボールが大好きで、世界の舞台で活躍することを夢見る溌溂とした若者だった。ただし、どの質問に対しても、父親ら周囲の人間が用意した模範解答を口にしているようだった。ピッチの中ではともかく、ピッチ外では取り巻き連中に操られているという印象を受けた。

2011年のクラブW杯でメッシとマッチアップするネイマール©Takuya Sugyama

父親以外も、クセの強い人物だらけな一家

 父親のみならず、ネイマール一家の他のメンバーも一癖も二癖もある人物が揃っている。

 4歳年下の妹ラファエラは、派手ないでたちと言動で知られるインフルエンサーだ。インスタグラムには、整形手術を繰り返したと噂される顔に個性的な化粧を施し、高価な服やアクセサリーで着飾った写真を投稿する。約3万人のフォロワーがいるが、「兄の名声と金を利用し、自分では何もしないで人生を渡っている」という声が少なくない。

 ブラジル代表FWガビゴール(フラメンゴ)と交際して一時は明らかに妊娠したと思われる体型だったが、父親に交際を反対されて別れ、密かに子供をおろしたと報じられた。カトリック国ブラジルでは堕胎は違法だが、闇でこっそりと行なわれている。

 母ナジーネは、ほとんどメディアの前に姿を現わさず、一家で最も地味な存在と思われていた。

 ところが、離婚後の昨年4月、自身のインスタグラムで自分より30歳若く、息子より6歳若い男性と熱愛中であることを告白。ネイマールも「お母さん、幸せに」とコメントした。ところが、その後、この男性がバイセクシュアルで、女性と交際する場合は常に年配で金持ちの人を選ぶと報じられた。これを知って、ネイマールが同性愛者を蔑む言葉を使ってこの男性を罵倒。交際宣言からわずか2カ月後、2人は大喧嘩をして別れている。

ネイマールと両親(2017年撮影)©Getty Images

“甘やかし放題”な幼友達の存在も

 ネイマールの幼友達の存在も、彼のキャリアを邪魔しているという声がある。

 バルセロナでもパリでも、ネイマールは常に家に数人の同世代の友人を住まわせ、彼らの生活の面倒を見ながら、ビデオゲームやポーカーやビリヤードの遊び相手にしている。当然、彼らはネイマールを甘やかし放題にする。29歳にもなって、小学生でもやらないような幼稚な友達付き合いを続けている。

 精神面の成長が遅れているネイマールを親身になって手助けしようとしたのが、ブラジル代表のチッチ監督だった。代表監督に就任した2016年以降、対話を繰り返し、彼がプレーや言動で批判を浴びると常に擁護した。ネイマールはチッチを良き理解者とみなして信頼し、アドバイスに耳を傾けるようになった。

 しかし、代表チームで選手と監督が過ごす時間は長くない。しかも、昨年は新型コロナウイルス感染拡大のため代表の活動は2週間程度で、今年も5月末まで活動が休止されていた。ネイマールがチッチの薫陶を受ける時間は急減してしまった。

ネイマールは一家にとっての金づる状態である

 今後、ネイマールが自分の能力を最大限に高めるにはどうすればいいのか。

 個人的には、私生活においては理性的で包容力がある女性と巡り合い、結婚して幸せな家庭を築くのが最良と考える。それによって精神的に安定し、父親、スタッフ、幼友達ら取り巻き連中の影響を低減することもできるのではないか。

 しかし、現実にはネイマールは一家にとっての金づるであり、父親がネイマールに対する手綱を一気に緩めるとは考えにくい。これからも、彼は父親の誤った判断や指示の犠牲となり、様々なトラブルに巻き込まれそうな気がしてならない。

 ピッチ内では、何を目指すべきか。

やはり、ブラジルをW杯優勝に導くしかない

 PSGでは、自身の活躍で欧州CL初制覇を達成できれば、クラブ史に燦然と輝く存在になれる。

 ブラジル代表では、これまでに105試合に出場して66得点を記録し、77点の歴代最多得点記録を持つキング・ペレを11点差で追う。ちなみに、3位はロナウドの62点、4位がロマーリオの55点、5位がジーコの48点である。2022年W杯南米予選は残り12試合で、早ければ予選の期間中、あるいは2022年W杯期間中にペレを追い越してブラジル代表の歴代最多得点記録保持者となる可能性がある。

 しかし、仮にペレの得点記録を超えたとしても、ペレよりも優れた選手と評価されることはありえない。W杯で一度も優勝していないからである。年齢を考えると、2022年大会が主力として最後の出場となるかもしれない。

 もし優勝すれば、ペレ、ガリンシャ、ロナウド、ロマーリオに次ぎ、ジーコ、カカ、リバウドらと同等かそれ以上の存在となれるだろう。しかし、W杯で一度も優勝できなかったら、これらの選手よりも下のランクということになりそうだ。

ブラジル、ロシアでの屈辱をカタールW杯で晴らせるのか©Kaoru Watanabe/JMPA

 現在ネイマールは29歳4カ月。近年、故障が多いことを考えると、選手寿命はあまり長くないかもしれない。これからの1、2年が最後の輝きを放つ時間となってもおかしくない。

 ネイマールに残された時間は、限られている。今後、大きな故障をせず、ピッチ外のトラブルを最少にとどめ、全身全霊を傾けてプレーしなければなるまい。

文=沢田啓明

photograph by Takuya Sugiyama