そんなことより日本は、と突っ込みたくなる。

 韓国がパリ五輪を目ざすチームの監督に、黄善洪(ファン・ソンホン)を指名した。元韓国代表FWで02年の日韓W杯4強のメンバーでもある彼は、セレッソ大阪や柏レイソルでプレーし、Jリーグの得点王にも輝いた。日本でもお馴染みということもあり、就任発表翌日の9月16日には広く報道された。

 韓国はともかく、日本はどうなっているのか──。

予選が始まるのに「監督が決まっていない」のはなぜ?

 慌てる必要がないのは事実である。

 韓国がこのタイミングで黄善洪の監督就任を決めたのは、10月下旬のAFC(アジアサッカー連盟)U-23アジアカップ予選が控えているからだ。日本も10月下旬にカンボジア、香港との予選を控えているが、本大会に出場できるグループ首位の確保は間違いない組み合わせである。このタイミングに合わせて監督を選ばなくてもいい、との判断が働いたと考えられる。

 ちなみに、AFC U-23選手権の名称で行われた18年大会でも、予選と本大会では監督が違った。予選が行われた17年7月当時は、20年の東京五輪を目ざす監督が決まっていなかった。このため、同年5月のU−20W杯で采配をふった内山篤監督が暫定的に指揮し、10月に就任が発表された森保一監督へつなげたのだった。

©Getty Images

 今回も同じようなケースだ。パリ五輪世代は3月にAFC U-19選手権を戦い、予選を突破すればU-20W杯に出場する予定だったが、どちらもコロナ禍で中止となってしまった。一方で強化は継続されており、3月、5月、6月、8〜9月とトレーニングキャンプを重ねてきた。

 8〜9月のトレーニングキャンプは、冨樫剛一監督が指揮した。J2の東京ヴェルディで監督経験を持つ人材で、19年から育成年代の指導に当たっている。10月下旬の予選も、冨樫監督が采配をふるうのか。あるいは、6月までチームを束ねていた影山雅永監督に任せるのか。どちらにしても、暫定的な立場となることが濃厚だ。

パリ五輪代表監督の“有力候補”たち

 では、パリ五輪を目ざすチームを誰に託すべきなのか。

 大前提としてあげたいのは、「コロナ禍での指導経験があること」だ。具体的には選手交代である。最大で5人まで入れ替えることができるようになり、選手交代が結果に与える影響は確実に増したと言える。5人交代のサッカーを実際に経験していることは、今回の監督選考の第一条件にあげてもいいぐらいだ。

 歴代の五輪代表監督は、発表のタイミングでフリーの立場だった。あるいは、翌年からフリーになることが決まっていた。そのうえで、「国内で実績を残し、将来性のある指導者」という条件が、選考のたびに輪郭を帯びていった。

候補1)宮本恒靖:「実績と将来性」は条件を満たす

 フリーの人材で考えると、宮本恒靖氏は候補に挙がってくる。

宮本恒靖氏 ©Getty Images

 現役時代に五輪とW杯に出場し、18年途中から21年途中まで4シーズンにわたってガンバ大阪を指揮した。リーグ戦の成績は9位、7位、2位と右肩上がりできたが、今シーズンは開幕から低迷してリーグ第10試合で解任された。カップ戦も含めてタイトルをつかんだことはなく、解任時はコミュニケーションに難ありとの指摘もされたが、現役時代の実績と指導者としての将来性は、五輪代表監督の条件を満たすと言える。

候補2)大岩剛氏:カップ戦に強い

 4月から日本サッカー協会のスタッフ入りした大岩剛氏は、17年から19年まで鹿島アントラーズを率いた。リーグ戦では17年に川崎フロンターレと同勝点で2位に終わり、18年と19年は3位に終わっている。

大岩剛氏 ©Getty Images

 一方で、18年にAFCチャンピオンズリーグを制した。リーグカップは3回出場してベスト4が2度、天皇杯は3度出場して準優勝とベスト4に1回ずつ食い込んでいる。

 五輪のアジア最終予選も本大会も、最終局面はトーナメントとなる。カップ戦で勝ち上がっている実績は、大岩氏の就任を後押しする材料になる。

候補3)鬼木達監督:選手の可能性を引き出す起用法

 Jリーグの現場に立っているなかでは、誰もがこの人を思い浮かべるのではないだろうか。川崎フロンターレの鬼木達監督だ。

 監督就任1年目の17年に、クラブ初のタイトルとしてリーグ優勝を勝ち取った。翌18年もリーグ戦を制した。19年はリーグカップを制し、20年はリーグ戦3度目の優勝と天皇杯制覇を成し遂げている。

 ベテラン、中堅、若手、外国籍をうまく使い分けるチームは、システムの多様性も持つ。FWの旗手怜央にサイドバックの適性を見出したように、選手の可能性を引き出す起用法も評価できる。

鬼木達氏 ©Nanae Suzuki

候補4)長谷部茂利監督:勝つために動ける判断力

 J1昇格1年目のアビスパ福岡で、白星先行の成績を残している長谷部茂利監督も、候補に加えたいひとりだ。

 18年と19年に采配をふったJ2の水戸ホーリーホックでは、限られた戦力のなかでJ1昇格争いに食い込んでいった。20年の福岡では、42試合29失点の守備力を強みにJ1昇格を勝ち取った。近年のJ2で飛び抜けて少ない失点数だった。

アビスパ福岡現監督・長谷部茂利氏 ©AFLO

 そして今シーズンは、J1残留争いに巻き込まれることなく戦っている。5人の交代枠を有効に活用し、ときに割り切った戦略で勝点を引き寄せる。勝つために動ける監督だ。

候補5)曺貴裁監督:遠藤航も…“若手の育成”に強い

 J2の首位を走る京都サンガの曺貴裁(チョウ・キジェ)監督は、若手の育成に定評がある。かつて指揮した湘南ベルマーレで永木亮太や遠藤航の成長を促し、京都でも20歳前後のプレーヤーが成長速度を上げている。五輪世代の監督は適任だろう。特定の個人に寄りかかるのではなく、チーム全体が攻守にアグレッシブにプレーするスタイルは、日本サッカーが目ざす方向性に合致する。

©Takuya Sugiyama

 Jクラブで仕事をしている監督の招へいには、クラブ側の理解が欠かせない。大切なのは日本サッカー協会側の熱意だろう。「この監督にやってほしい」という思いこそは、ハードルを飛び越える原動力となる。

外国人監督を選択肢に加えなくていいのか?

 ところで、先の東京五輪の戦いは、監督選考について根本的な疑問を突きつけた。

 外国人監督を選択肢に加えなくていいのか、ということである。

 短期決戦の五輪では、監督のマネジメントが勝敗に直結する。試合ごとのスタメンの選定や試合中の選手交代はもちろん、どうやって逃げ切るのか、どうやって追いかけるのかといった手立てを、即断即決で講じていかなければならない。

 決勝トーナメントでは選手一人ひとりが疲労をため込んでいき、そのなかで勝利を手繰り寄せなければならない。戦い方の幅も必要になる。

 国際試合は国内のリーグ戦とは違う。互いを知り尽くした戦いではない。事前のスカウティングとの違いを素早く読み取り、必要な情報を選手たちに伝えなければならない。さらに言えば、勝負どころで相手のベンチより先に仕掛ける、相手の動きに即応するといった決断力や瞬発力が問われる。

決勝トーナメントでスペイン、3位決定戦でメキシコに敗れ、メダルを逃した東京五輪日本代表チーム ©JMPA

 Jリーグとは違う種類の資質が問われる五輪で、自国開催ではない大会でメダルを狙うのなら──外国人指導者をスタッフ入りさせるべきではないだろうか。監督ではなく、コーチでもいい。世界で戦ったことのある人材を迎え、一発勝負の決勝トーナメントで勝負できる陣容を整えるのだ。

 五輪世代にも海外組が増えていくなかでは、強化スケジュールの確保も大きな課題だ。はっきりしているのは、「これまでどおり」ではメダルには届かない、ということである。

文=戸塚啓

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