東京五輪が幕を閉じ、季節はすっかり秋。あと4カ月あまりで北京冬季五輪がやってくるのだから、時間が経つのは早い。スピードスケートのエース・高木美帆(日体大職員)は、「東京五輪が終わって、急に周りの空気も冬にシフトチェンジされたという感覚があります」と気を引き締めている。

 中学3年生で2010年バンクーバー五輪に出場した天才スケーターは、14年ソチ五輪でまさかの代表落ちを経験。そして「平昌五輪は人生を懸けて挑む。自分のすべてを懸ける」と決意して18年に挑んだ。その結果、見事に金・銀・銅メダルを獲得した。

代表落ちから平昌五輪まで「走り続けた」4年だった

 ソチ五輪から平昌五輪までの4年間を、高木はこのように振り返る。

「平昌五輪の時は、そこまでずっと走り続けていたという感覚がありました。そのシーズンだけではなくて、(15年に)ナショナルチームが始動して、ヨハン(・デビット)コーチが来て、どんどん自分のタイムが伸びたり、いい順位が取れるようになったりしていった先に、平昌五輪がありました。どこまでいけるかという挑戦みたいなところがありました」

 それから4年。平昌五輪直後のシーズンは、ソチ五輪後と同じようなモチベーションを取り戻せず、苦しんでいる様子を見せることがあった。ただそれでも、気持ちに炎が灯る時に備えてやるべきことは精一杯やっていた。そのおかげで、好成績を持続したまま3年間を過ごし、良い状態で北京五輪シーズンを迎えようとしている。

北京五輪は「平昌とは全然違った大会になる」

 そして高木は今、平昌五輪前と異なる思いを抱いている。 

「北京五輪は、平昌とはまた違うと感じています。(平昌五輪後の)最初の方にあった葛藤にも向き合って、それを越えてきたという積み重ねもあります。そういう意味で、自分にとっては全然違った大会になります」

 スケートの技術やレース戦略の面でも高木は成長をはっきりと感じている。

「平昌五輪後の3年間で少しずつ積み上げてきたものがあり、自分の中でしっかりしたものが出来上がっているという感覚があります。今はそれを最高のものにして、北京五輪にぶつけてみたいという思いがあります」

金メダリスト川井梨紗子から学んだ“気持ちの持ち方”

 今の高木には北京五輪で表現したい自分の姿が明確にある。

「勝ちに行く滑りを、あの場(五輪)でしたい」ということだ。

 9月3日にあったJOCのオンライン研修会で、以前から親交があり、自身と同学年のレスリング・川井梨紗子の話から感じ取ったことがある。川井は初出場だったリオデジャネイロ五輪で金メダルを獲得し、東京五輪で連覇を達成している。

 高木はこのように言う。

「連覇を狙いに行くうえでの気持ちの持ち方に刺激を受けました。前回ある程度の成績を残している中での次の五輪ということで、改めて考えさせられたところもあります。話を聞いたことで、改めて自分はどうしていきたいかを考えるきっかけになりました」

東京五輪のレスリング57キロ級で金メダルを獲得した川井梨紗は高木の同学年 ©Getty Images

 2大会連続で金メダルを狙う中で、川井の歩みが高木と重なっている部分もある。東京五輪前、川井はこのように語っていた。

「リオデジャネイロ五輪の時は若さと勢いというか、本当にそれのみでした。今は、リオからの4年、5年で、多くのことを経験してきているので、プレッシャーや期待はリオの時よりもはるかに感じます。けれども、自分自身がそれでも耐えられるぐらいの実力や気持ちを持っていると思っているので、プレッシャーも含めてマイナスに感じることはありません」

 連覇という目標達成のために最も重要だと考えていることは何かという質問に対しては、川井は次のように語っていた。

「目標を達成したいという気持ちと、達成したいという意志をどれだけ行動に移せるかというのは別です。口で言うのは簡単ですが、それを実際どれだけ行動に移せるか。目標に伴った行動をできるのかというところが大事だと思っています」

実力的には3種目で優勝を目指せる

 東京五輪。川井は勝ちに行って勝った。今や名レスラーの風格が漂うようになったのは、胸を張って「やった」と言えるプロセスと崇高な心構えがあったからだろう。

 普段は具体的な目標を口にすることの多くない高木だが、世界での立ち位置を整理すると挑むレベルは極めて高く、女子1000m、女子1500m、女子チームパシュートの3種目で優勝を目指せる実力がある。書けばさらっとしてしまうが、とてつもないことだ。

 1000mは平昌五輪で銅メダルを獲得し、19年ワールドカップでは世界歴代2位の1分11秒71で銀メダル。平昌五輪で銀メダルだった1500mは最も思い入れのある種目であり、1分49秒83の世界記録保持者でもある。平昌五輪で金メダルに輝いたチームパシュートは19、20年の世界距離別選手権を制している。

北京五輪で「積み上げてきたことを最大限発揮できたら」

 昨シーズンの国際大会出場がなかった今、世界の動向がどのようになっているのか読めないという不安もある中、勝つためのプランを練り、自分自身を鍛え上げ、プランを完遂することは至難の業。そういう意味で、高木が言う「勝ちに行く」という心構えを持つことは、究極のチャレンジに他ならない。

「北京五輪で自分が今まで積み上げてきたことを最大限発揮できたらどうなるんだろうというような興味がありますね」

 そのように「好奇心」をふくらませる高木の今季初戦は、10月22日から長野・エムウェーブで行なわれる全日本距離別選手権。どんな滑りを見せてくれるのか、楽しみだ。

文=矢内由美子

photograph by KYODO