「マスターズの優勝って、どのくらいスゴイこと?」

 松山英樹がグリーンジャケットを羽織ってから、その価値を推し量ろうとする声は多い。なにせ日本人の男子としては初めての快挙である。

 他のスポーツで言えば、比較対象としてもっともわかりやすそうなのが、テニスのグランドスラムを獲ることだろうか。同じ個人戦で、年に4回の“メジャー”がある。昨年までどちらも日本人男子に優勝者がいなかったのも同じ境遇だった。

 4年に1度の五輪のメダルだとか、別のプロスポーツとの比較でいうとこれがまた難しい。チャンピオンズリーグ優勝? バロンドール? ワールドシリーズ優勝? MVP? ホームラン王&サイ・ヤング賞のW受賞なんてのもとんでもない話だが、少し違う気もする。

 こんな調子でマスターズでさえはっきりしないのだから、“こちら”はもっと何かに置き換えるのは難しい。

「8年連続で最終戦進出」という“快挙”

 松山は9月初旬、ツアー選手権で昨季を終えた。PGAツアーに本格参戦してから8年続けてアトランタの地に到着。目下、継続中の選手で彼以上に長く最終戦進出を決めているのは同じ8年連続のパトリック・リードと、13年連続のダスティン・ジョンソンだけ。ここ数年は“快挙”を積み重ねていると言っていい。

 現行の年間ポイントレース、フェデックスカップがスタートしたのは2007年。レギュラーシーズンを終えて来季のシードを確実にした選手たちは終盤のプレーオフシリーズに進み、累計ポイントが少ない選手が試合毎にカットアウトされていく。最終戦に進めるのは毎年30人だけ。当地を踏んだ彼らこそが、世界中の男子ゴルファーのエリートと言っていい。

 過去15シーズンで最終戦に進出した選手はのべ151人いる。出場が1回という選手が2008年の今田竜二を含めてうち61人、2回が32人いる。

 ジョンソンの13回というのはすでに最多進出記録で、2番目がジャスティン・ローズの計10回。次が9回でフィル・ミケルソンとマット・クーチャーのふたり、松山を含む10人が並ぶ8回は5位タイ。その数字を本格参戦開始の2014年からずっと積み上げてきたのだから、驚異的と捉えられている。

 ジョンソン、リードと違う点でひとつ忘れてならないのが、松山は外国人選手であるということだ。生まれ育った日本を飛び出し、異国の地でこの期間を過ごしてきた。慣れない環境で、衣食住の日々のトラブルも乗り越えながら実績をつくってきたことは筆舌に尽くしがたい。

 毎年チャンピオンが出るマスターズの優勝と、史上数人しかいない連続記録。歴史、伝統の違いからこれもまた比べようもないが、群雄割拠の最高峰ツアーで彼らのように長い時間、存在感を示しているのも紛れもない価値である。

異国の地で前人未踏の戦いを続けている松山英樹 (c)Yoichi Katsuragawa

過去8年で最も少なかったトップ10入り

 そうしてまたエリート街道の歩みを進めた松山ではあるが、昨シーズンは求める結果でワーストの部門があった。トップ10入りがマスターズを含めて3回だけ。過去8年で最も少なかった。最終戦を戦った30人中、スチュワート・シンクと並ぶ最少で、トップのジョン・ラームには15回と大きく水をあけられた。

 マスターズ制覇という事実がすべてをよしとしているようで、1年を通しては結果の面で苦しんだ時間のほうが長かったともいえるのだ。

 安定感の欠如。その原因を松山は「良いものが、なかなか続かないこと」と説明した。

「数字的にもティショットもそこまで暴れていなかった。ただ、“一発の大きいミス”が出て、そこからアイアンショットでチャンスにつけることが少なくなっている」

 目澤秀憲コーチとの取り組みもあって、指針に基づいたスイングづくりを恐るべきスピードで進めてきたが、過渡期は依然として続いている印象だ。

「パットも普段よりずっと良いパフォーマンスが出るときがあっても、それがなかなか続かない。良いショットやラウンドがあって、良くなっているはずなのが、うまく結果につながっていない。自分で信じきれていない部分がまだある」

 好不調の波はゴルフにおいて避けようがないが、こと昨季についてはその波が小刻みだった。1試合ごと、1ラウンドごとにとどまらず、とくにプレーオフシリーズでは1ホールごとにアップダウンを繰り返したようでもある。

 9年目のシーズンはその波を穏やかにすることが当面のターゲットになる。そうすることでキャリアの浮沈を抑えたい。

松山にいつも漂う「焦燥感」

 ツアー選手権を終え、松山は1週のオフを挟んで開幕戦にさっそく出場した。翌週に米国と欧州の2年に1度の対抗戦「ライダーカップ」が控えていたこともあり、最終戦と開幕戦に出たのは松山のほかはジョン・ラームとケビン・ナだけである。

 日本人選手として未踏の道をかき分けてはいるが、彼にはいつも焦燥感が漂う。それは周囲の選手の動向に敏感だからこそでもある。昨季は名手アダム・スコットらがぎりぎりでプレーオフ初戦に滑り込み、一時は世界ランキングで9位にまで達したトミー・フリートウッド、松山とほぼ同時期に活躍し通算5勝を挙げているリッキー・ファウラーは出場すらかなわなかった。

「ああいうのを見ていると、自分がいつそうなるかわからないという不安が僕にはある。30人に残りたいという最低限の目標がある」

21-22シーズンの開幕戦「フォーティネット選手権」では最終日に急浮上にトップ10入り (c)AP/AFLO

 シーズン初戦は初日から中位でゲームを進めながら、最終日の上がり3ホールでプレーが突如かみ合い、バーディ、バーディ、イーグルで締めて6位タイでフィニッシュ(ラームとナは予選落ち)。昨季なかなか手が届かなかったトップ10にさっそく入れた。

 それでもここで、安堵感いっぱいというわけにもいかないのである。

文=桂川洋一

photograph by Yoichi Katsuragawa