移籍市場が活発化の一途をたどるBリーグは、このオフもファンを驚かせるサプライズ移籍が例年以上に続出した。

 自身も「ここでキャリアを終えると思っていた」という故郷のクラブ、新潟アルビレックスBBを離れた五十嵐圭は、B2から昇格したばかりの群馬クレインサンダーズに加入。同様に多嶋朝飛も地元のレバンガ北海道から、やはり昇格組の茨城ロボッツに新天地を求めた。

 宇都宮ブレックスからはライアン・ロシターとジェフ・ギブスというインサイドの二枚看板が去り、中でもロシターはBリーグで過去2度の優勝を誇るアルバルク東京に移籍。A東京は昨シーズン王者の千葉ジェッツからもセバスチャン・サイズを獲得するなど、優勝どころかチャンピオンシップ進出も逃して迎えたこのオフに目の色を変えて補強に動いた。

 例年はビッグネームが東地区の強豪クラブに移籍するケースが目を引いたが、今シーズンは西地区のクラブも意欲的な補強を見せた。昇格1シーズン目は最下位に沈んだ広島ドラゴンフライズが辻直人(前・川崎ブレイブサンダース)や昨シーズン得点王のニック・メイヨ(前・レバンガ北海道)らを獲得すれば、初めてCSに進出した大阪エヴェッサも長く日本代表を支えた竹内譲次(前・A東京)の獲得に成功している。

今オフ最大のインパクト

 その中でも特にリーグ全体を揺るがす大型補強を断行したのが島根スサノオマジックだ。これまでの島根はジョシュ・スコット(現・宇都宮ブレックス)を筆頭に外国籍選手のリクルートではスマッシュヒットを飛ばしてきたが、日本人選手に関しては大きなインパクトのある補強は少なかった。それがこのオフは一転、日本代表クラスを一度に2人もロスターに加えてみせたのだ。

 安藤誓哉はBリーグ初年度を秋田ノーザンハピネッツで過ごした後、その潜在能力を見込まれてA東京に移籍。当初は期限付移籍だったが、加入1シーズン目に正司令塔の座に定着してチームの優勝に貢献すると、翌2018-19シーズンは完全移籍して連覇の立役者となった。連覇を果たした直後の2019年夏には日本代表の一員としてFIBAワールドカップにも出場。今夏の東京オリンピックは最終メンバーから外れたとはいえ、29歳という年齢を考えれば今後再び日本代表でプレーする可能性は大いにあり、島根にとってはこれまでにない実績の持ち主であることも間違いない。

 そして何より、Bリーグファンを一様に驚愕させたのが金丸晃輔の加入だ。パナソニックに入団した2011-12シーズンに旧JBLの新人王に輝くと、その後移籍したアイシン(現・シーホース三河)では得点源の1人としてリーグ・天皇杯ともに優勝。Bリーグ以降は優勝から遠ざかっているものの、個人では5シーズン全てベスト5に選出され、フリースロー成功率も初年度から4シーズン連続でタイトルを獲った。昨シーズンはついにレギュラーシーズンMVPに選ばれているが、過去4シーズンの受賞者はいずれも地区優勝クラブからの選出。西地区3位の三河から選ばれた金丸が、いかに個人として優れた技量を備えているかということがわかる。

 そんな金丸は、今回の移籍にあたって「挑戦」というワードを強調している。9月22日に行われたクラブの新体制記者会見では「チームとしても個人としても挑戦のシーズン。挑戦し続ける上ではうまくいかないこともあるが、継続することを第一に考えたい」と語り、同28日のBリーグ開幕前取材会でも「新しい環境なので今シーズンは刺激的なシーズンですし、1年1年が大事ですが今シーズンは特に大事になると思います」と、淡々とした口ぶりながらも決意を感じさせた。

 過去に在籍した2クラブはいずれも数々の栄光に彩られた強豪だったが、島根はBリーグ5シーズンのうち2シーズンをB2で過ごした、これからのクラブ。「新しい挑戦をしたかった」という金丸は今、「何事にもフレッシュな気持ちを持って臨めている。毎日が楽しく、新鮮です」とモチベーションが高まっているようだ。

 モチベーションの高さという点では、「チームに関わる方々の情熱が心に響いて、それに応えたい、このチームで優勝を目指したいと思った」と移籍の理由を述べた安藤も同じ。昨シーズンA東京でキャプテンを務めた安藤は、明治大学の先輩でもある山下泰弘らもいるなかで、島根でも移籍早々にキャプテンの大役を任された。連覇を成し遂げた高い経験値とそのキャプテンシーで、「今シーズンは優勝を目指すシーズン。良いことも悪いこともたくさんあると思うが、常に前を向いて、戦う姿勢を見せながら60試合を戦い抜きたい」と島根を高みに導く強い意志を見せる。

移籍早々キャプテンを務める安藤。大学卒業後、NBLカナダとフィリピンプロバスケットボールリーグでプレーした経験を持つ

新ヘッドコーチの戦術やいかに

 今シーズンの新戦力はその2人だけではない。過去にもベネズエラのグレゴリー・エチェニケ(現・広島)やハンガリーのロスコ・アレン(現・新潟)といった各国の現役代表選手を迎え入れてきたが、今回獲得したニック・ケイはワールドカップや五輪などの常連、オーストラリアの現役代表選手。今夏の東京五輪では6試合中4試合にスターターとして出場し、リバウンドはチームトップ、総出場時間も2番目に多かった。ペイントエリアでの力強さとシュートの上手さを併せ持ち、島根でも中軸を担うことは疑いようもない。

 そして、昨シーズンまでB2香川ファイブアローズを率いたポール・ヘナレが新ヘッドコーチに就任。かつてニュージーランドNBLで最優秀コーチを3度受賞し、同国代表の指揮官も務めたヘナレHCは、香川でも開幕してから合流した2019-20シーズンに、前シーズンの西地区最下位から同2位まで引き上げた実績がある。シーズンが途中で打ち切りになっていなければ、香川は昨シーズンをB1で過ごしていた可能性もあった。

ニュージーランド出身で42歳のヘナレHC。来日前はニュージーランド代表HCの傍ら、オーストラリアやニュージーランドのクラブを指揮していた

 メインとなる戦術はトランジションオフェンスだが、安藤が在籍していたA東京はピック&ロール主体のハーフコートオフェンスが特徴で、金丸のいた三河に至ってはリーグ最少と言っていいほど速攻を出さないチーム。オフェンスをコントロールする立場の安藤と重要なフィニッシャーである金丸が、ヘナレHCの戦術にどこまでフィットするか。そこが、今シーズンの島根の行方を大きく左右するポイントになるだろう。当然ながらヘナレHCも金丸の類稀なシュート力を生かした戦術を織り込んでくるはずであり、トランジションとハーフコートのバランスも重要なカギとなってくる。

昨季王者と対戦の開幕戦に注目

 ただ、これだけビッグネームが集ったとあって、クラブ全体が非常にポジティブなムードに包まれていることは明らかだ。「今シーズンは自分のキャリアの中でも特に楽しみなシーズン」と言う山下は、「ヘナレHCのバスケットがシンプルかつアグレッシブで楽しいし、素晴らしい選手も揃って、とても良い空気でレベルの高い練習ができている」とかなりの手応えを感じている様子。昨シーズンはB1でのクラブ史上最多となる28勝を挙げ、特に最後の10試合は8連勝を含む9勝1敗と最高の形で締めくくっただけに、否が応でも今シーズンへの期待はふくらむ。

 島根は開幕節でいきなり昨シーズンの王者、千葉と対峙する。会場はホームの松江市総合体育館。「オフェンスもディフェンスもエナジーを出して、ファンの皆さんと一緒に戦うスタイルでいきたい」という安藤の言葉通り、ホームの力も借りて千葉から1つでも白星を奪うことができれば、今シーズンの島根は一気にCS戦線に名乗りを上げてくるに違いない。

文=吉川哲彦

photograph by SHIMANE SUSANOO MAGIC