雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は渋野日向子にまつわる3つの言葉です。

<名言1>
ボギーを打っても切り替えて笑えていた。
(渋野日向子/Number983号 2019年7月25日発売)

◇解説◇
 日本人女子42年ぶりとなるメジャー優勝で一躍、時の人となった渋野。

 才能ひしめく1998年度生まれの「黄金世代」の1人で、2019年5月の国内ツアー初制覇でもトレードマークの笑顔は輝いていた。そのプロ初勝利後に「賞金女王」を目標と掲げたものの、「それからの1カ月でやっぱり実力の差を感じたというか、賞金女王と言えるレベルじゃないな」と、周囲の期待とプレーのギャップに悩んでいた。

2019年資生堂アネッサレディス優勝時の渋野 ©Getty Images

 そんな渋野は、「素直にゴルフを楽しむしかない、打った結果を受け止めるしかない」と切り替え、7月の資生堂アネッサレディスオープン制覇、そして全英女子オープンでの快挙につなげていった。

<名言2>
みんなスマイルシンデレラとか言っているけど、別にシンデレラでもないしなと。
(渋野日向子/NumberWeb 2019年8月22日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/840463

◇解説◇
「しぶこフィーバー」が起きたのは2019年夏のこと。全英女子オープンで日本人42年ぶりとなるメジャー優勝を果たして以降、「渋野日向子」の文字を見ない日はなかった。

全英女子優勝時の渋野 ©Getty Images

 全英から帰国後もツアーに出場し続けた渋野。NEC軽井沢72ゴルフトーナメントではギャラリーが満員に膨れ上がり、コース周辺では“渋野渋滞”が発生、テレビでも高視聴率をたたき出すなど、まさに「シンデレラ」のような人気の駆け上がり方だった。

 果敢なプレーぶりとともに、屈託のないキャラクターも彼女の魅力として伝えられた。

「ンフフフ! ンウワハハハ! エッヒャッヒャ!」

 と、“サザエさんみたいな笑い声”で会見の場を和ませてたり、ラウンド中に駄菓子をほおばる場面がスポーツニュースだけでなくワイドショーでも取り上げられた。このフィーバーについて渋野の母親も「普通の娘なので、もちろんいろいろと葛藤はあると思います」と話していたほどだ。

2019年NEC軽井沢72ゴルフトーナメントでの渋野のショット ©Takuya Sugiyama

 ただ、渋野自身は「シンデレラ」という表現に対して冷静に向き合い、そしてゴルフへの誠実さを感じさせる言葉と振る舞いを残している。

「プレッシャーって勝たなきゃいけないみたいな感じですよね。まあ特に勝っても勝たなくてもいいと思ってましたけど、最後のボギーの打ち方がやっぱり悔しかったかな」

 このトーナメント、渋野は1打差2位タイで最終日を迎えた。14番、15番と連続バーディーで優勝争いに加わり続けたが、首位タイで迎えた最終ホールで決めたら優勝のバーディーパットを外すなど、3パットをたたいて3位に後退。プレーオフにも残れず、足早にクラブハウスに引き上げるとそこで静かに涙を流したという。

 表彰式では“いつも通り”の笑顔で対応していたが、プロゴルファーとして戦う渋野のプライドが垣間見えた。

2021年スタンレーレディス ©Getty Images

松山さんは10年出続けてやっと勝った

<名言3>
松山さんは10年出続けてやっと勝った。自分もメジャーに勝ったけど、いろんなことを経験したり、苦しんでいた人が勝つのは全然違うなって。
(渋野日向子/Number1026号 2021年5月6日発売)

◇解説◇
 メジャー制覇に獲得賞金1億円突破など、旋風を巻き起こした2019年。その後は新型コロナウイルス禍による開幕延期などが影響し、周囲が期待するような結果を残していなかった。それでも2020年12月の全米女子オープンでは優勝争いに加わるなど、ここ一番での勝負強さはさすが、というものを見せていたのだが。

「気落ちしていたわけじゃないんです。でも何を目指して頑張っていこうかなとは考えていました。かなり最近まで無理だなと思ってたんです。5大メジャー制覇するって言ったけど、あれ無理だなあって」

 このように正直な気持ちを吐露している。畑岡奈紗や勝みなみ、原英莉花に小祝さくらといった「黄金世代」と呼ばれる面々に加えて、東京五輪メダリストとなった1歳年下の稲見萌寧、さらには古江彩佳や西村優菜、吉田優利ら2000年度生まれの「プラチナ世代」も台頭する女子ゴルフ界は群雄割拠だけに、自身の現状をしっかりと把握できていたのだろう。

 競争が激しい中で2021年春、渋野の心に勇気を与えたのはオーガスタでの出来事。そう、松山英樹のマスターズ初優勝だった。「私とは全然ストーリーが違いますよね。私は初出場で『行ったら勝った!』みたいな感じで」と自分との境遇を比較していたが、松山の快挙によって“挑戦し続ける”ことの価値について再確認したようだ。

「5大メジャーというよりも、もう1回メジャーに勝ちたい。それが目標になりました。これからもっと苦労してメジャーを勝てた時、たぶん全英で勝った時とは全く違う感情になると思うから。そうしたらもっといいことが喋れそう(笑)」

 そんな渋野は自らのスイング、ゴルフ内容について考え続け、鍛錬を続けていた。

 10月1週目の日本女子オープンでは通算2アンダーで5位となり、翌週に行われたスタンレーレディスでは2日目終了時点で首位と2打差の5位タイにつけると、6バーディー2ボギーで4つスコアを伸ばして10アンダーとし、4人でのプレーオフへ。2ホール目でバーディーを奪って2019年11月以来となるツアー通算5勝目を果たすと、“しぶこスマイル”とともに涙をこぼした。

©Getty Images

亡き恩人が語っていた「岡山県、日本の宝ですから」

 なお渋野は会見で前所属先である岡山のテレビ局RSK山陽放送社長で、恩人の桑田茂さんが急逝したことについても触れ、感謝の念を口にしていた。桑田さんは高校時代から渋野の実力を知る人物だった。プロテストに合格後、渋野は同局のテレビ番組に出演し、その後には所属契約を結ぶという縁も生まれたほどだ。

プロテスト合格時の渋野(右) ©Getty Images

「岡山県の宝、日本の宝ですから、所属選手として引き続き応援していければ、という思いがあります」

 桑田さんは生前、渋野についてこう評していた。この優勝が再び世界の頂点を目指すターニングポイントになるか――22歳の渋野は確実にたくましさを増している。

文=NumberWeb編集部

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