10月11日に行われたドラフト会議では、第103回夏の甲子園で活躍した選手たちも数多く指名されました。大会直後にプロスカウトに聞いた「評価を上げた選手」の記事を再公開します(初公開:2021年9月2日)

 智弁和歌山の優勝で幕を閉じた第103回夏の甲子園。プロ野球スカウトの目で中谷仁監督の采配や評価を上げた選手について分析してもらった(全2回/中谷監督の采配編も読む)。

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 新型コロナウイルス感染による出場辞退や、雨による過去最多となる7度の順延。選手にとって、今夏の甲子園はコンディションやモチベーションの維持が難しい大会となった。大会を終え、次の関心は10月に行われるプロ野球のドラフト会議へと移る。

 異例続きの甲子園で、成長や能力の高さを見せた選手がいた一方、期待通りの活躍ができなかった選手もいる。プロ野球のスカウトが、特に評価の上がったという選手を挙げてもらった。※以下、スカウトの一人称の発言

ロッテ4位:二松学舎大付・秋山正雲投手

 身長170センチと小柄だが、直球の質は今大会ナンバーワンと感じた。強いバックスピンがかかっているため、ストライクゾーンで勝負できる。

 直球を待っている打者に対しても、ファウルや空振りを取れていた。左腕で140キロを超える直球は魅力で、内外角に投げ分けるコントロールもある。やはり、投手の基本は直球。秋山投手の直球はチェンジアップやカーブ、スライダーといった変化球も生きる。ソフトバンクや巨人で活躍した杉内俊哉さんと重なる。

 投球技術以外もプロ向きと感じさせる。口調は穏やかだが、ピンチや勝負所になると投手の本能が覚醒するように気持ちが入る。臆せず内角を攻め、力を入れるが力まない。ピンチでも動じないタイプに見えた。延長戦で敗れた京都国際戦では3本の本塁打を許したが、そのうち2本のソロは強く吹いていた甲子園の浜風がなければスタンドには入らない打球だった。

 完封した初戦の西日本短大付戦では、雨で柔らかくなったマウンドに対応するため、軸足で踏むプレートの位置を変えて比較的固いところで投球した。プレートの位置が違うとボールの軌道も変わるが、微調整できる器用さと対応力は高校生とは思えない。

 プロもビジターや地方球場では普段のマウンドと違うので、こうした対応力が必要となる。質の高い直球と制球力に、試合終盤でもあまり球威が落ちないスタミナ。計算できる左投手はどこの球団もほしい。確実にドラフトで指名されるだろう。

ホークス3位:北海・木村大成投手

 二松学舎大付の秋山投手とタイプは違うが、もう1人目立ったのが北海・木村投手だった。身長180センチ、76キロと恵まれた体格で、直球の最速は150キロ。球威のある直球と組み合わせるスライダーもキレがあり、高校生ではなかなか打てない。

 コントロールにばらつきがあって四球で走者をためるのは課題だが、決して制球力が悪いわけではない。直球でもスライダーでも三振が取れる、奪三振率の高さは大きな魅力。指導や練習では身に付けられない潜在能力や伸びしろを感じさせる。

 今大会は初戦で神戸国際大付に1-2で敗れて、1試合だけの登板となったが、センバツからの成長は示した。投球フォームのバランスやリリースポイントが安定していたし、直球の平均球速も上がっていた。

 それから、センバツでは投げていなかったチェンジアップを覚えていた。格段に良くなった直球とスライダーに加えて、チェンジアップを操れるようになれば投球の幅が広がる。順調にプロの階段を上っていけば、3年から5年後にローテーションの一角を担える投手になる可能性が十分にある。

阪神4位:智弁学園・前川右京外野手

 プロ注目と言われる重圧や相手チームの警戒がある中で、評判通りの打撃だった。計6試合で打率.455、2本塁打、7打点は立派な数字。スイングスピードが速く、本塁打は2本とも高校生とは思えない打球だった。前川選手の長打力は今さら言及する必要はないが、対応力の高さにプロで成功する資質を感じた。

プロスカウトからも高い評価を受ける前川 ©Hideki Sugiyama

 今大会は8月9日の開幕が、いきなり順延され、その後も雨による日程変更が続いた。決勝戦は29日まで延びたが、これだけ長い期間、選手が調子を維持するのは難しい。実際、前川選手も準々決勝の時には調子のピークを過ぎているのが明らかだった。自分のイメージと体の動きが一致せず、内角への反応が遅れたり、打ち損じが増えたりしていた。

 それでも、決勝では3安打を放った。長打を警戒する智弁和歌山バッテリーの組み立てを読んで、バットをコンパクトに振っていた。低めの変化球にもうまくバットを合わせ、調子が上がらない中でのバッティングを見せた。

 プロ野球の長いシーズンでは必ず調子の波がある。調子が悪い時にも最低限の結果を出すことや、スランプの時期を短くすることが、レギュラー定着の条件となる。豪快な打撃、長打が魅力の前川選手だが、それだけではないところを証明した。うちのチームは長打力のある左打者は厚くしたいポイントなので、ドラフトのリスト上位に入ってくる。

巨人7位:広島新庄・花田侑樹投手

 スカウトが、この他に印象に残った選手として挙げたのが、投手では広島新庄・花田侑樹と日大山形・滝口琉偉だった。花田については「高校生としては完成度が高い。手足が長く、理にかなった投球フォームなので、制球が安定している。特にカットボールが良かった」と評価した。

広島新庄の花田 ©Kyodo News

 一方、課題にはスタミナを挙げ「器用なタイプなので無難にまとまらないように気を付けてほしい」と語った。

 滝口には、素材の良さと可能性を感じたという。

 甲子園では自己最速を更新する球速150キロをマーク。腕のしなりと体の柔らかさが魅力で「今は力任せに投げているが、投球フォームを固めて体をつくれば、まだスピードは出る。現時点でドラフト上位候補とは言えないが、気持ちも強そうで、セットアッパーとして起用したくなる」と成長に期待した。

 野手では、智弁和歌山・宮坂厚希にセンスを感じたという。

 甘いボールは長打にする力があり、内角・外角・変化球にも対応する打撃についても評価している。「バットコントロールと選球眼に優れ、相手投手は神経を使うだろう。しかも俊足なので、塁に出れば得点チャンスが広がる。木製バットへの対応さえ問題なければ、走攻守がそろった選手は、どの球団も興味を示すはず」とドラフト候補に挙げた。

 プロのスカウトは当然ながら、甲子園のパフォーマンスだけで選手を評価するわけではない。継続的に選手の能力や将来性を見極める。チームの編成・戦略も関わってくる。ただ、甲子園という大舞台で力を発揮できるのかは、プロで生き残る技術やメンタル、それらを超えた何かを持っているのかを判断する材料となる。

<中谷監督の采配編に続く>

文=間淳

photograph by Hideki Sugiyama