今夏、RCストラスブールが川島永嗣に2年の契約延長のオファーを出した。ベテラン選手(38歳)に複数年を提示するというのは、クラブの最高な評価に加えて絶大な信頼を感じる、価値あるものだ。

 そして何より、これはヨーロッパの5大リーグのひとつ、フランスのLigue 1でのことだから快挙である。

2021年2月のリーグ戦に出場した川島 ©Getty Images

 それにサインしたことにより、川島は40歳までフランスのトップリーグに在籍する権利を得た。日本サッカー界にとっての誇らしいニュースである。

40歳までのトップキャリア契約はGKでも珍しい

 GKは、その他のポジションよりも選手キャリアは長いと言われているが、それでも40歳までトップキャリア契約ができる選手を探すのは難しい。私も40歳までプロ選手としてプレーしたが、海外トップリーグにおいて、そこまでイメージすることはできなかった。

 おそらく、この先の10年において同じようなオファーを見ることはできないだろう。

 近年のプレミアリーグ(イングランド)や欧州のトップリーグにおいて、30歳を過ぎた選手には基本的に単年契約でのオファーが主流となっている。例外はあるが、選手はそのタイミングで大きな決断を迫られ退団に至るケースも少なくない。

 古い歴史をもつヨーロッパサッカーは当然プライドも高い。外国人にポストを渡すことを基本的に考えない。

 島国で育った私たちが文化の違う欧州の土地でプレーすることは想像以上の厳しさがある。もちろんライバルも多く、若い選手が次々に育つ環境がある。

 選手育成に関する知識も豊富で経験のある指導者も多い。

 その上、ヨーロッパの隣国には若くて才能豊かな選手が多いため、リスクを抱え日本や他のアジア諸国から選手を連れてくる必要がない現実もある。

グランパス時代から飛び抜けた意識の高さ

 そんな高いハードルを承知の上でも、川島永嗣はヨーロッパでのプレーを目指して10代から淡々と準備を進めチャンスを狙ってきた。

大宮時代の川島 ©Sports Graphic Number

 その過程においては、イタリアへのトレーニング参加や英語、イタリア語の勉強などもしていた。外国人選手たちとも積極的にコミュニケーションをとっていた。名古屋グランパス時代にチームメイトとして時間を共にしたが、飛び抜けて意識の高い選手だった。

 ピッチの外では穏やかで、食事や会話が大好きな、いわゆる好青年である。しかしピッチでは一変し、勝利を目指し強烈なエネルギーを放つ選手。そのため、時にはほかの選手との衝突もあったが、怖がらず自分の考えを強く伝えることができる選手でもあった。

名古屋時代の川島 ©AFLO SPORT

 彼との最初のトレーニングで、こんな選手がきっと日本代表になるんだろうな! と直感した。懐かしい思い出のひとつでもある。なかなかそんな選手に出会うことはないからだ。

3年前の加入時の立場は「第3GK」だった

 振り返れば3年前、ストラスブール加入時の川島永嗣は「第3GK」という立場だった。本当に厳しい状況からの挑戦を覚悟してのスタートである。そんな場所からでも、彼のフットボールへの情熱と努力で見事にスタメンの座を勝ち取った。

 川崎フロンターレからリールセ(ベルギー)に移籍した時も、順調にプレーしていたように思えたが、さらなるレベルアップを目指しリスクを承知で新天地を求めたこともあった。

川崎時代の川島 ©Toshiya Kondo

 川島永嗣の向上心は、常に新たな挑戦に向かって走り続けている。

 それがゆえに、所属先クラブが決まらないという事態に陥り、半年間を過ごすという信じ難い経験もした。それは私には想像すらできないほどの不安や孤独との戦いであったはずである。にも関わらず、欧州でのプレーを望み、その後も辛抱強くオファーを待ち続け、無所属ながらも日本代表を目指してプレーし続けた。

 もちろん、周りからの様々なアドバイスもあっただろう。それでも彼は自分の意思を貫き、海外生活を続けながら辛抱強くエージェントからの連絡を待った。

忍耐力があり、優しい男が語る「GK論」の数々

 彼のもとを訪ねる機会があるたびに、いつも忍耐力がある男であり、優しい男であると感じる。どんなに厳しい状況でもいつも穏やかに迎えてくれるからだ。

 リエージュ、メス、ストラスブールで過ごした時間は、本当に良い思い出になっている。

 いつもはホテルを予約し彼を訪ねて行くが、メスでは試合後にゆっくり話せる方がいいからと自宅に招いてくれ、泊めてもらったこともあった。

 彼から聞けるGK論、日本とヨーロッパにおけるプレーの考え方の違いなどは特に新鮮で勉強になった。『常に前に飛び出すことのできる態勢を保ちアグレッシブにプレー』『強いパスを心がけることの重要性』『シュートブロックに入るときには静態することを心がける。そこから前に出る。決して重心を後ろにしない、前で勝負すること』、その他にも『選手との関係性』など様々なテーマを話し合った。

 まだまだ成長できる、そう話す彼との時間は刺激があって楽しい。

 現状を冷静に分析し、淡々と準備する彼の姿にはいつも逞しさを感じる。

 彼の振る舞いによって、平常心を保つことの大切さも学んだほどだ。 

戦力として、将来のクラブスタッフとして

2010年南アW杯カメルーン戦でビッグセーブを見せた後の川島 ©Takuya Sugiyama/JMPA

 取り留めもなく彼について書き続けてしまったが、最後にもう一度、本題である「今回のオファーの価値」について考えてみたい。

 様々な角度から考えても、今回の契約延長オファーは過去に例を見ないもの。もっと高く評価されても良いレベルである。選手の価値を厳しく見定める基準がある欧州のフットボールクラブ。将来的なクラブの基盤作りも常に考えている。

 その点において彼は戦力として、もちろん重要である。更には若手選手へ影響力も絶大である。さらには将来のクラブスタッフ、貴重な人材として、今から確保したいとの考えもきっとあるはずだ。

 これら総合的な観点からの評価が、この2年契約延長オファーとなったのである。

現時点の実績で川島と肩を並べるGKはいないが

 現時点において、彼と肩を並べる日本人GKを探すことはできない。

 もちろん、オリンピック代表の谷晃生、大迫敬介、鈴木彩艶。すでに海外でプレーしていて将来の活躍が楽しみな小久保玲央ブライアン、長田澪などの若手選手。プロリーグにおいて経験豊富なシュミット・ダニエルや中村航輔らにとっても、川島永嗣は間違いなく素晴らしいお手本となる存在である。

 近い将来、そのような選手たちを川島永嗣が指導すことになったら最高である。

 その先において、もし彼を追い越していくような選手に育てることができれば、今回の契約延長を決断したストラスブールとしても、選手として、さらには将来的なサッカー人としての評価、そのジャッジは間違いないものだったと誇りをもてることだろう。

©Getty Images

 なによりそれは日本サッカー界にとっても明るいニュースとなる。

 2030年にはW杯ベスト4、2050年には優勝。私達、日本サッカーはこの目標を掲げている。それに向かって重要な役割を果たすことになる彼の全ての活動に、これからも注目している。

 まずは、今シーズンもピッチで躍動する元気な姿を見たい。

文=藤田俊哉

photograph by JFA/AFLO