10月17日、早くも冬の訪れを感じさせる青森の地で、1人の高校生が口にした言葉に驚かされた。

「僕には才能がないんです。だからこそ上を求めているんです」

 青森山田高3年MF松木玖生(まつき・くりゅう)。12日にJ1のFC東京への来季加入内定を発表するなど、今やユース年代のサッカー界において“顔”と言っても過言ではない存在だ。

 松木は青森山田中3年時に、ユース年代最高峰のリーグと言われる高円宮杯プレミアリーグに青森山田高のトップチームの一員として飛び級出場した。高1になると同校の伝統的な“ダブルエースナンバー”の1つである「7番」を託され、不動のレギュラーとして躍動。日本一を決めるプレミアリーグファイナルでは、名古屋グランパスU-18を相手に決勝弾を叩き込んでチームに2度目の栄冠をもたらし、同年度の選手権では4ゴールを挙げて準優勝の原動力となった。決して“名前先行”ではない、確固たる実力を全国大会の舞台で遺憾無く発揮した。

 彼が与えたインパクトはプレーだけではない。その強気な発言だ。

先輩にも叱咤、海外移籍を模索

「高校を卒業したら海外に行きたいと思っています」

「年齢は一切関係ありません。ダメだったらダメと言うのは当たり前だと思います」

©Takahito Ando

 実際にピッチ上では先輩たちを叱咤するなど、1年生とは思えない立ち振る舞いも大きな話題となった。

 高2では「10番」を背負い、選手権で2年連続ファイナリストになった。最終学年となった今年はインターハイで全国制覇を達成。さらにドイツとフランスに渡って現地クラブの練習に参加し、以前から公言していた「高卒海外」への道を模索していた。

 こうした経緯が知られていたからこそ、急転直下の決断となったFC東京加入内定の発表は少なからず驚きを持って伝えられた。

 青森山田高校グラウンドで行われた高円宮杯プレミアリーグEAST第15節・流通経済大柏戦に4−0と快勝した後、松木は「正直、気は楽になりました」と安堵感を口にしながら語り始めた。

「もちろん、高卒で海外に行きたい気持ちは強かったです。ですが、向こうでいろんな現実を見てきたことも事実でした」

 少なからず手応えはあった。海外の選手たちに混ざり、練習試合ではゴールも決めた。実際にオファーをもらったクラブもあった。だが、それ以上に自分が目指すべき場所のレベルの高さを目の当たりにしたことが、松木の考えを大きく動かした。

「リーグアン(フランスリーグ)のトップチームの試合をスタジアムで観戦して、レベルの高さをまざまざと感じました。自分があのピッチでできるか?と聞かれたら、今の段階ではできないと思いましたし、まだまだ(実力が)足りないと感じたんです。

 もともとフランスリーグには『個で這い上がる』『個で戦う』という面でのレベルの高さを感じていたリーグで、今回実際にフィジカルの強い選手が個人技で打開するシーンやCBの選手が前に持ち出してラストパスを出すシーンを目の当たりにしました。今の自分に決定的に足りないものは足元の技術。ボールを奪うまではいいのですが、そこから(相手DFを)1枚剥がしても、2枚目をうまく剥がせるかといえば、まだ判断の材料も技術も足りない」

 登ろうとしていた階段は、予想以上に高かった。多少のショックはあったとも吐露する。ただ、すぐに切り替えられることは彼の強みだ。海外での経験によって現在地を測った松木は、いくつかのJクラブを観察するうちに、FC東京のサッカーに大きな魅力と可能性を見出した。

長所を磨き、短所を克服できる

「ボランチの青木拓矢選手や安部柊斗選手のセカンドボール回収のスピードが凄く効いています。僕もセカンドボールの回収を得意としているので、そこでいいイメージを持ってプレーできるんじゃないかと思ったんです。FC東京でプロとしての土台を築いてからでも(海外挑戦は)遅くはない、と。

 セカンドボール回収、ボール奪取力、展開力という自分の長所を発揮しながら、高萩洋次郎選手、森重真人選手、三田啓貴選手などからボールを運ぶ力、局面を打開する力を学んで短所をきちんと克服する。そこから長友佑都選手、武藤嘉紀選手、青森山田の先輩でもある室屋成選手のように、世界に羽ばたきたいと思えたんです」

©Takahito Ando

 海外でプレーすることに憧れを抱く選手はたくさんいる。海を渡るハングリー精神は重要だが、若い世代ゆえ、憧ればかりが先行して周りが見えなくなるケースも増えてきたように感じる。松木のように自分の現状と実力を冷静に照らし合わせて考えられる選手がどのぐらいいるだろうか。

 もう一度自分を見つめ直し、すべき判断を下した。言葉や行動から滲み出る松木の「強気」は、決して驕りから生まれるものではない。学びと成長を求める「向上心」がそう見せているのだろう。

「世間からすれば自信満々の選手のように映るかもしれません。でも、僕は正直、自分が一番うまいとは思っていなくて、自分では課題だらけの選手だと思っています。そもそも僕は天才ではないし、もともと体も細身だった。そこから筋トレして自分を鍛えてここまできた。中2で高校のセカンドチームの一員として、中3でトップチーム(高校)の一員としてプレーをさせてもらえることができたので、周りよりも早い段階で学ぶことができた。そこで積み重ねたものが周りから『凄い』と言ってもらえているだけで、自分はズバ抜けた才能を持っているわけではない。

 他の選手を羨ましく思う時もたくさんあります。郷家友太さん(ヴィッセル神戸)は何でもハイレベルにできる選手で羨ましかったし、(ダブルボランチを組む同級生の)宇野禅斗はボールを直線的に追いかけて奪える力を持っていて、この1年間はそれをずっと真似したり、参考にしていました。でも、大事なのは『羨ましい』で終わるのではなく、それを学んで自分のものにする。それが楽しいし、まだまだ伸びるという手応えにつながるんです。ドリブルだって、今の僕には何人も抜くことはできないけど、それが少しでも上達すれば自分はもっと上のレベルにいける。学びをやめたら終わり。それを続けてきたからこそ今がある。これからも変わりません」

 進路を決めた松木はまた一段と逞しさが増していた。この日も相変わらず、ピッチ上では大きな声を張り出してチームを牽引していた。

「黙々とやるのが美学かもしれませんが、僕は何も言わないで黙々とやっていても成長しないと思っているんです。まず僕は言葉に出して、それを言ったからには責任が生まれると思うので、それを成し遂げるために練習や試合でやっていく。そこを大切にしています」

©Takahito Ando

 これからどんなキャリアを歩むのか――その道のりに誰よりも期待しているのが、松木玖生自身なのである。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando