攻めた。そして耐えた。

 10月22日から24日にかけて、フィギュアスケートのグランプリシリーズ第一戦、スケートアメリカ(ラスベガス)が行なわれた。宇野昌磨はショートプログラム2位、フリー3位、優勝したヴィンセント・ジョウ(アメリカ)に続く総合2位でグランプリ初戦を終えた。

「今日までの練習が、間違いなく生きた」

「大会で海外に行くのがすごく懐かしい感じです。試合に楽しみな気持ちもあるんですけど、自分が練習してきたものを少しでも見せられたらと思います」

 試合へ向けての心境を明かし、迎えたショートプログラムは『オーボエ協奏曲』。冒頭の4回転フリップは2回転になり無得点となったが、4回転トウループ−トリプルトウループの連続ジャンプは綺麗に決める。最後のジャンプとなる3つ目のトリプルアクセルも成功。得点は89.07点。

SPでの宇野昌磨の演技

「4回転トウループのコンビネーションも数年……2、3年ぶりにちゃんと着氷することができましたし、その後のアクセルも綺麗に跳ぶことができました。少なからず今日までやってきた練習が、間違いなくこの試合に生きた部分もあります。まだまだ自分の100%の力を発揮できなかった部分は今後の課題です」

 一定の手ごたえを得て迎えたフリーは『ボレロ』。

 冒頭から4回転ジャンプが3つ続く。最初のループは手をついた。サルコウは着氷が乱れる。

 そこから踏みとどまった。4回転トウループ−ダブルトウループ、トリプルアクセルは着氷。後半のジャンプも完璧とはいかなくとも、耐えた。得点は181.61点。総合270.68点の結果を残した。

フリーでの宇野昌磨の演技

フリーでは4回転ジャンプ4種類、計5本

 出場した選手の中には、大会5連覇のかかっていたネイサン・チェン(アメリカ)もいた。その中での成績をこう評した。

「正直、この選手たちの中で2位というのは光栄です。ただ、自分の求めているレベルには達していない、到達していないことを再確認しました」

 自分の求めているレベル――シーズン開幕を前に、宇野は語っている。

「今までスケートをやって来て、いちばん難しい構成になると思っています」

 言葉の通り、フリーでは4回転ジャンプ4種類、計5本を組み入れる構成をとる。2016−2017シーズンの世界選手権で成功させたのち、近年は取り組むのをやめていた4回転ループもその中に含まれる。

 もう一度取り戻そうと考えたのは昨シーズン終盤の出来事にあった。

「鍵山優真選手と一緒に練習をするようになったとき、彼が(4回転)ルッツとループを降りているのを見ました。4回転3種類だと時代が流れるにつれて置いていかれるのではないかと思いました。優真が僕を尊敬していると言ってくれているからこそ、期待にこたえる選手でいたいと思い、練習を始めました」

4回転ジャンプを5つ取り入れたプログラム

開幕前に語った「決して若い歳ではない」の真意

 より若い世代の台頭に刺激を受けたのをきっかけにチャレンジを再開した宇野は、グランプリシリーズ開幕に寄せたコメントでは、「挑む!」をテーマにすること、およびその意図を説明している。

「フィギュアスケーターだと23歳、24歳というのは決して若い歳ではないですが、それでも僕は挑む、挑戦する立場でいたいと思っています」

 フィギュアスケートは、宇野の言葉にある通り、他の競技と比べれば競技人生は短い方に入る。資金面など競技環境の事情もかかわってくるが、それとともに身体的な負担の大きさがある。特にシングルの場合、ジャンプの衝撃は大きい。だから足の靭帯であったり、関節であったり、さまざまな怪我を引き起こす。しかも、ジャンプの難度はより高くなるばかりだ。

 また、ほとんどのスケーターは幼少期にスタートを切るから長年の負担の蓄積もある。だから、現役選手の中には、痛みを抱えていても、あるいは多少の怪我を負ってもそれと向き合いつつ練習に励むスケーターは少なくない。そうした背景があるなかで、氷上の演技は体現される。スポーツ全般から見れば若くして競技から退く選手が多い理由でもある。

“未来を信じる”宇野の内面が表れた言葉とは?

 だが、「23、24歳というのは決して若い歳ではない」と言う宇野は、スケートアメリカ開幕直前、その年齢で引退する選手が少なくないことを前提にしながら、こう語った。

「年齢の限界というのはどれほど高い壁で、どこから体力が落ちていくのか僕には分からないですけれども、一般的なスポーツで考えれば23歳、24歳は若い方だと思います。そんなに関係ないかな、と。フィギュアスケートは技術の向上が激しいので、歳を重ねるにつれ、急な変化に追いつくことは難しいかもしれません。でも、はじめから技術が高いところにあれば、どれだけ歳をとっても維持できるんじゃないかなって。今まで経験してきたことのアドバンテージがあると思いますし、若いときは勢いというアドバンテージがあると思いますし、それぞれのよさがあると思います」

 年齢なり何なり、ある事実をどう捉えるかはその人の姿勢による。フィギュアスケートが他競技より早く引退の時期が訪れる傾向があるのは事実としても、そこにどう向き合うかはそれぞれだ。23、24歳は若くはないとしつつ、でもそれを悲観的に見ない。それは「挑む」という言葉に表れているように、より高みを目指す決意が核にあり、そしてそこに至ることができる未来を信じている宇野の内面を示している。

「(優勝した)ヴィンセント選手が練習している姿を見て、日頃からどれだけフリープログラムを練習しているんだ、というくらいの安定がにじみ出ていました。もっと練習できるんじゃないかと思いました」

 試合後に宇野は言った。新たな刺激を得て力にかえようとするのもまた、宇野の心のありようを示す。

「失敗したもの、足りなかったものを日本に持ち帰って練習を積み重ねていきたいです」

 可能性を信じ、先を見据える宇野は、次戦、グランプリシリーズ第4戦のNHK杯へと進む。

左から宇野昌磨、優勝のヴィンセント・ジョウ、3位のネイサン

文=松原孝臣

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