最近のドイツにおいて注目と期待を集めているのが、バイエルンのドイツ代表FWレロイ・サネだ。代表に限らず、バイエルンでの活躍は特筆に値する。

 本来なら、今年のEURO2020で世代交代を象徴するドイツ代表の旗頭となるはずだった。昨年7月にマンチェスター・シティからバイエルンへ6000万ユーロで移籍。ただ移籍前に負っていた十字靱帯断裂の影響もあり、納得のいくパフォーマンスを出せず、時間だけが過ぎていった。

EURO2020で代表のレギュラー落ち

 それでも代表を率いるレーブ監督(当時)はサネへの信頼を崩そうとはしなかったが、EURO前にスペインに0-6、W杯予選で北マケドニア戦を1-2で落とすなど、歴史的な敗戦が続いてしまった。

 危機感が極限まで高まったレーブ監督がEUROで3バックを採用するなど戦い方を変更したこともあって、サネはレギュラーポジションを失った。グループリーグ3戦目のハンガリー戦こそ先発フル出場したものの、目立った活躍はできなかった。

 鬱憤を晴らす活躍を期して今季のブンデスリーガを迎えたが、イメージ通りにいかない。第2節ケルン戦ではすべてがうまくいかず、途中交代がアナウンスされた際はバイエルンファンから皮肉な拍手さえ起った。地元メディアの中には「サネはもう終わった」という論調を展開するところも少なくなかった。

 そんなサネにとって、心の支えとなったのがドイツ代表のハンス・フリック新監督とバイエルンのユリアン・ナーゲルスマン新監督だった。

右サイドでのプレーに苦しんでいたサネだが、今季は左サイドで持ち味を発揮している©Getty Images

 ナーゲルスマンはすぐサポートを明言し、その第一手としてシティ時代に輝いていた左サイドのオフェンシブな位置で起用するようにした。

左サイドでのプレーが復調への道に

 右サイドでプレーしていた頃のサネは、アリエン・ロッベンの後継者として期待される重荷があったのだろう。同じ左利きでドリブルが得意ということで、ロッベンのように右サイドで相手守備陣を切り裂き、カットインからの左足シュートでチームに勝利をもたらしてくれるというイメージで見られてしまっていた。

 ただ、サネとロッベンは違う。

 似たような特徴を持った選手ではあるが、似たようなプレーが得意というわけではない。シティ時代にサネが披露していた持ち味のひとつは、ナーゲルスマンも指摘したように、相手守備の裏を取る動き出しの巧みさだ。

 ドリブルスキルは高いが、ロッベンのような、わかっていても止められないドリブルを持っているわけではない。相手が守備を固めてきても、一瞬のスピードでギュッと身体をすべり込ませ、ゴール前へグイッと入り込んでいくロッベンスタイルをそっくりそのままコピーできるわけはない。

 サネは、右サイドから中へドリブルし切れず、かといって縦に仕掛けることもできず、結果として、相手からボールを奪われないようにボールをキープするくらいしかできない選手になってしまっていた。

「左サイドだと相手守備裏の深いところへ行きやすい。あそこのほうがやりやすそうではある。素晴らしく気持ちのこもったプレーを見せてくれていたし、守備での貢献もよかった。全力を出し切ろうとチャレンジしている。彼のプレーには満足しているよ」

 ケルン戦の3日後に行われたブレーマーSVとのドイツカップ初戦後、ナーゲルスマンはポジティブな評価を口にしていた。若き名将にはどのように復調への道を歩むべきかが見えていたのかもしれない。

フリック監督の信頼は揺らいでいない

 サネをサポートするのはバイエルンだけではない。ドイツ代表も同様だ。

 新生ドイツ代表の公開練習ではウォーミングアップでランニングを開始しようとするなか、サネに柔らかな笑顔で声をかけるフリックの姿があった。

前体制下ではレギュラー落ちを経験も、フリック新監督の下で代表でも復調の気配を見せる©Getty Images

 代表でのポジションも得意な左サイドとなり、さらに左SBは守備の負担を軽減するためCBでもプレーできるティロ・ケーラー(パリSG)を起用した。

 似たような対策はレーブ監督の時代にもあった。サネの後ろに守備力を備えたエムレ・チャンを起用し、より攻撃に専念させるというやり方だ。しかし、このときはサネ自身の調子が上がらなかったこともあり、継続的には採用されなかったという背景がある。ただ今回は、ハマった。

 フリック初戦となったリヒテンシュタイン戦では、正直絶賛されるようないいプレーを見せたわけではない。守備を徹底的に固める相手に対して何度もドリブルが引っ掛かり、ボールロストしてしまう。それでもフリックの信頼は揺るがなかった。

「足を止めることなくプレーし続けていた。全力を出し尽くそうとする意志が見られたし、ボールを奪われた後の対応もよかった」

 ナーゲルスマンとフリックのサポートが、サネを覚醒させた。

ファンもサネの変化を受け止めている

 その後アルメニア、アイスランド、ルーマニア戦では重荷を下ろしたかのような軽やかなプレーでファンを魅了。鋭いドリブルとクロス、ゴールへ向かったアクション。ボールを持つと何をするかわからないワクワクが随所に見られた。

 フリックは、手綱を締めることも忘れない。大量リードした試合でボールロストした際、足を止めたサネに猛烈な叱責を送る。するとサネは、弾かれたように走り出した。

「軽やかな動きを何度も見せてくれたのが印象的だった。自分から動く姿を嬉しく思う」

 ボールを失った後の対応のまずさを批判されていた姿はもうない。最近の代表、そしてバイエルンでは、驚くほどボール奪取頻度が高いのだ。フィジカルコンタクトを厭わず、身体をなげうって何度も守備に汗をかく。

 ファンも、そんなサネの変化をしっかり受け止めている。大拍手が起きるのは、華麗なドリブルやパスの瞬間ではない。ボールロスト後も足を止めずにダッシュで戻り、スライディングでボールを奪い返したときだ。

 その心意気に、割れんばかりの声援が送られる。

確かだったナーゲルスマンの目

 ナーゲルスマンは左サイドにこだわらず、ピッチ中央寄りにポジションを取り、そこでパスを受けることでゴールへ直結するプレーも要求する。

「指導者は選手が居心地良くプレーできる場所、ポテンシャルを発揮できるポジションを見出そうとしなければならない。レロイは、ピッチ上のどこでも重要な役割を示すことができるクオリティを持っている」

 ナーゲルスマンの目は確かだった。サネは、さらに輝きを増している。

確かな目を持つナーゲルスマン監督のサポートを受け、サネは完全復活への道を歩む©Getty Images

 ロベルト・レバンドフスキやトーマス・ミュラーとポジションチェンジしながら、常にゴールを狙い続けるようになった。ファンが選ぶ9月の最優秀選手に選ばれ、10月20日のCLグループリーグ、ベンフィカ戦では2ゴール1アシストの大活躍を見せた。

「コーチングチームが素晴らしい準備をしてくれた。我慢強くゲームをコントロールすることが大事だったけど、それを最後までやり通すことができた」

 ベンフィカ戦後、サネの表情にはサッカーを純粋に楽しむ子どものような笑顔が浮かび上がっていた。もう大丈夫。サネは間違いなく復活した。

 最後に、印象的なナーゲルスマンの言葉を紹介したい。サネがどん底に落ち込んでいた頃、次のようにファンへ訴えていた。

「彼にシンプルにサッカーをさせてやってくれ。レロイを、レロイらしくさせてくれ」

文=中野吉之伴

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