国際サッカー連盟(FIFA)が提案しているワールドカップの隔年開催案については、12月にFIFAとして討議する会合を開くということがすでに報道された。

 ワールドカップの隔年開催案は当初、5月にサウジアラビアサッカー連盟から提案されたということだが、元アーセナル監督のアーセン・ベンゲル氏が責任者を務める「グローバル・ディベロップメント部門」が打ち出しているため、FIFAの総意としての提案と考えてよさそうだ。隔年開催にして、ワールドカップの価値が維持されるのであれば、FIFAとしては最大の収益源である大会が、2年ごとに開催されるわけだ。

 だが、このFIFAの提案に対して、世界の競技団体をはじめ、関連の組織から懸念の声が出た。サッカー界でも欧州や南米のサッカー連盟から、同意できないという見解が出され、アディダスなどの企業からも、同様の声が上がった。そういった中、ひと際はっきりした懸念の声を上げたのが国際オリンピック委員会(IOC)だ。

“二大巨頭”が歩んできた攻防の歴史

 IOCは理事会の声明として、ほかの競技団体をはじめ、世界のサッカークラブ、選手たちが、強い懸念を表明しているとしたうえで、IOCはこれらの懸念を共有していて、クラブや団体がFIFAと協議を求めていることを支持する、というメッセージを出した。2年に1度の開催など、相談もなしに独断で決めないでくれ、というIOCの思いが伝わってくるメッセージだ。

 隔年開催になれば、夏季五輪とワールドカップが同じ年に行われることになるので、五輪がこうむる影響はいろいろありそうだ。ワールドカップに出場した選手が、直後の五輪に出場する権利があったとしても、コンディショニングの面から五輪に出場するとは考えにくく、五輪のサッカーの価値は下がってしまうはずだ。

 FIFAとIOCは、五輪におけるサッカーの開催をめぐって、長い攻防の歴史を歩んできた。だがほとんどの場合、FIFAが自分たちの見解を通してきたと言えるのだ。FIFAが公認する形で最初にサッカーが五輪で開催されたのは1908年のロンドン五輪だった。当時はアマチュアのプレーヤーしか五輪に出場できなかった中で、すでにサッカーにはプロがいた。

 しかしIOCのアマチュアリズムによって、プロを五輪に出場させることができなかった。当時から両者は立場が違ったのだ。

五輪にサッカー“フル代表”が出ないワケ

 第2次世界大戦以降の五輪では、国家の援助によってサッカーに専念できた選手を擁する東側諸国のチームが勝つようになった。52年のヘルシンキ五輪から80年のモスクワ五輪まで、東側諸国が優勝を独占した。

 70年代にIOCは、アマチュアだけが出場できるという規則から、出場できるプレーヤーは、競技団体が決められるという規則に切り替えた。サッカーでは、80年のモスクワ五輪から、ワールドカップに予選を含めて出場した、欧州と南米のプレーヤーは出場できない、という規則になった。

 そうなると、五輪に出場するチームは、制限なしのフル代表ではなく、成熟する前の、アンダー世代が活躍するチームを組む傾向になったから、FIFAは88年のソウル五輪から、23歳以下のチームの大会にすることを考えた。だがIOCは年齢による制限はよしとせず、従来の規則から譲らなかった。

 FIFAはもともと、プロが出場する大会としてワールドカップを育ててきたのだから、フル代表が出場するのはあくまでワールドカップという考え。だがIOCは、プロの出場を解禁して、五輪の価値を上げていきたい、だからフル代表の出場を望むという考えだ。

 FIFAの提案に対してIOCが制限なしを求めるという、攻防になったのだ。

 その後、FIFAは92年のバルセロナ五輪から、出場は23歳以下のチームにするという制限をIOCに認めさせ、五輪は年齢制限のある大会にするという考えを通した。さまざまな競技がある中、五輪の出場に制限を加えて、フル代表が出場しないという団体競技は、サッカーだけと言っていいのだ。

 そして、96年のアトランタ五輪から、23歳以下のプレーヤーに加えて、年齢制限のないオーバーエイジを最大で3人までという規則になった。IOCの意向であるフル代表ではないものの、FIFAとIOCによるどちらにとっても認めることのできる範囲で、規則をまとめたと言えそうだ。ワールドカップの価値は維持されながら、IOCの意向にはある程度、沿う形になったわけだ。

ワールドカップの驚くべき“財政規模”

 FIFAはなぜ、自分たちの考えを通すことができたのかといえば、それは、ワールドカップという財源をもっていて、財政面で、競技団体として独立してやっていけるだけの強さがあるからだ。18年にロシアで開催されたワールドカップでは、大会の総収入に関して、さまざまな報道があったが、ひとつのメドになる金額として5890億円と報じられた。

 五輪の収入を見てみると、16年のリオデジャネイロ五輪では、IOCが公開している公式の文書によれば、組織委員会によるスポンサー収入が8億4800万ドル、チケット収入が3億2100万ドル、ライセンシングが3100万ドル、大会のテレビ放映権料が28億6800万ドルだから、合計すると40億4800万ドルになって、1ドルを110円で計算すると4474億8000万円だ。

 ただ五輪の収入は、大会時だけでなく、IOCによるスポンサー収入などもあるため、単純に比べることはできないが、単独の競技ながらワールドカップの財政規模は、夏季五輪と同じ程度と見てよさそうだ。

 財政面で強いFIFAとしては、ワールドカップを2年に1度にするという提案を、自分たちだけの決定で、なにがなんでも通すというつもりはないはずだ。最初に提案をして、さまざまな組織から出てくる懸念と、議論をすることで、自分たちの望む具体案について、認知してもらうようにするはずだ。IOCは、自分たちと同じ懸念を共有している組織と連携して、提案の問題点を認識するようにFIFAに求めていくはずで、FIFAの具体案に対して、IOCがどういった議論を展開するのかを含めて、注目されるところだ。

文=小川勝

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