引き続き、巨人からドラフト1位指名を受けた関西国際大4年・翁田大勢のインタビューをお楽しみください。(全2回の後編/前編へ)

 地元について尋ねると、翁田大勢は急に饒舌になった。

「野生のシカやウサギはしょっちゅう見ますよ。クマ、サル、イノシシなんかはときどきですね」

 関西国際大から巨人にドラフト1位指名された剛腕は、兵庫県多可町(たかちょう)の出身。山あいの自然豊かな環境で翁田は育まれた。

 バスの本数は限られ、最寄りの鉄道駅もない。それでも、「電車に乗らないと行けない遊びはしてなかったので、あまり関係なかったですね」と翁田は言う。どんな遊びをしていたのか聞くと、「山の中でかくれんぼしたり、川に入って泳いで魚を獲ったり」という答え。山で道に迷ったら、「とりあえず下り方面に行けば大丈夫」という知恵もつけた。下ればどこかしら集落があるからだ。

「西脇工の翁田」と言えば兄の勝基

 小学1年で野球を始め、中学は硬式クラブの氷上ボーイズへ。高校は西脇工に進学した。高校野球ファンにとっては「西脇工の翁田」と言えば、翁田大勢以上に翁田勝基の名前が馴染み深いはずだ。2013年夏の兵庫大会で7試合63回1/3を投げ抜き、西脇工を甲子園初出場に導いたエース。勝基は大勢の4歳上の兄である。

 勝基と大勢は小中高と同じチームでプレーし、高校時代の投球フォームは周囲から「さすが兄弟だね」と言われるほどよく似ていたという。

 兄の背中を追った野球人生、とまとめられればいかにも収まりがいいだろう。だが、いくら話を聞いても大勢からはそんなウェットな言葉は出てこない。かといって、偉大な兄に反発しているわけでもないようだ。

 大勢に兄弟仲について聞くと、実に微妙な答えが返ってきた。

「あんまり仲よくないですけど、お互いに気にしながら、そんなに口にしない感じですかね。姉(あかり/元天満屋の陸上選手)とはめちゃくちゃ仲がいいんですけど」

 西脇工に進学した理由を聞くと、大勢は「本当は神戸国際に行きたかったんです」と裏話を打ち明けた。

「ボーイズリーグの先輩が神戸国際で甲子園に出たので、僕も絶対に行きたいと思っていたんです。でも、小学校時代のチームメートから『一緒に西脇工業に行こう』と誘われて。それで神戸国際を断って、西脇工業に決めたんです。でも、その子は『やっぱり行かない』と別の高校に行ってしまったので、結局は一人で西脇工業に進んだんですけどね」

 もし大勢が神戸国際大付に進んでいれば、昨年の巨人のドラフト1位・平内龍太の後輩になるところだった。なお、平内とは2年夏の兵庫大会で対戦しており、西脇工は敗れたものの、大勢は平内をノックアウトするタイムリーヒットを放っている。

 西脇工に進んだ大勢に対して、兄弟とも恩師となった監督の木谷忠弘は「兄と比較されて嫌な思いをしないように」とあれこれ気を配ってくれた。だが、大勢は「比較されて嫌と考えたこともないし、何とも思ってなかったです」とどこ吹く風だった。

 酷似していた投球フォームも「似せにいっているつもりはまったくなかった」と振り返る。兄への反発心があれば、むしろまったく異なるフォームに変えていたはずで、兄を意識していない裏返しだった。

 たとえ家族であろうと、大勢には「自分は自分」という思いがある。

広島・小園に打たれた思い出も「個人での意識はない」

 メディアが好みそうな家族の温かなエピソードや、勝負のスパイスになりうる過去の因縁。翁田大勢という野球選手は、そういったものにほとんど興味を示さない。

 たとえば高校3年春にはセンバツ帰りの名門・報徳学園と対戦し、1学年下の小園海斗(広島)にめった打ちにされたことがあった。しかし、今の翁田には「プロでリベンジしたい」という思いはない。

「同じリーグですし、打たれれば負けちゃうので絶対に抑えないといけないとは思っています。でも、昔打たれたからとか、個人での意識はないですね」

 こうした言葉や思考を垣間見る限り、翁田は巨人向きの選手なのかもしれない。巨人は全国にファンがいる人気チームであり、メディアの注目度も高い。雑音が大きく聞こえる環境だからこそ、周囲に流されず「自分は自分」と動じないメンタリティーが求められる。

先発か、リリーフか…「期待に添えるよう練習するだけ」

 ただし、気になる点もある。翁田本人と球団の間で、投手適性について認識の乖離が見られるのだ。

 ドラフト会議当日、指名直後の会見で翁田は「自分はリリーフ向きだと思う」と発言している。しかし、巨人の原辰徳監督は「先発完投というスタミナも十分ある」「ジャイアンツのエースになってもらいたい」と真逆のコメントをしている。

 チーム事情としては、シーズン終盤に中4日または中5日でローテーションを回した先発陣も、「マシンガン継投」と呼ばれた矢継ぎ早の投手起用で疲労が目立つリリーフ陣もコマ不足は否めない。

 翁田が自身をリリーフ向きと考えた要因の一つに、関西国際大OBで投手としてタイプの近い益田直也(ロッテ)がリリーフとして成功している点がある。大学時代に益田を指導した野村昌裕コーチから、益田がやっていたトレーニングを教わり、取り入れたこともある。

 だが、10月13日に巨人の大塚淳弘球団副代表、水野雄仁スカウト部長らに指名挨拶を受けた際、翁田はあらためて「先発投手として勝負してほしい」という要望を受けた。翁田は戸惑うことなく、その言葉を前向きに受け止めている。

「自分はプロになったら、野球をしてお金をもらって生活する立場になります。求められるもの以上のものを残したいですし、先発として期待していただけるのであればうれしいです。期待に添えるよう練習するだけです」

 翁田は本人の考え通りリリーフ向きなのか、それとも巨人編成陣の慧眼なのか。プロ入り後にその答えは出る。

巨人ドラ1・翁田大勢の“手”

「他のドラ1に負けない活躍をしないといけない」

 最後に野球ファンに向けて伝えたいことはあるかと聞くと、翁田は少し考えてから意を決して口を開いた。

「自分は他のドラ1選手に比べて目立った実績はないんですけど、プロに入ってからが勝負だと思います。他のドラ1に負けない活躍をしないといけないと思っているので、応援をお願いします。自分のプレーする姿や取り組みで、ファンの人を魅了できるピッチャーになりたいです」

 多可町で野性的に育った剛腕は、読売ジャイアンツという伝統あるチームでもマイペースを貫けるか。その戦いは、巨人の近未来の行方をも左右する。(前編よりつづく)

文=菊地高弘

photograph by Takahiro Kikuchi