勝つべくして勝ち、負けるべくして負けた。

 セ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージは巨人が連勝で阪神を破り、ファイナルステージへと駒を進めた。

 なぜ巨人は勝ち、阪神は敗れたのか。

 もちろんやるべきことをやり切った巨人と、細かなミスが出た阪神の違いは大きい。

 象徴的だったのは守備力の差だ。

 巨人は第1戦の3回にメル・ロハス・ジュニア外野手の三本間のファウルゾーンへの小飛球をギリギリのところでスライディングキャッチした廣岡大志内野手の守備や第2戦の4回1死一塁では近本光司外野手の中前へのライナーを丸佳浩外野手がダイブしてキャッチするなど、随所で好守が光った。

 その一方で第2戦の阪神の失点はいずれも守りのミスからだ。

監督のゲームプランニングの差

 2点を先制した直後の3回には遊撃の中野拓夢内野手が吉川尚輝内野手のゴロをファンブル。これでリズムを崩した先発・青柳晃洋投手が捕まりあっさり逆転を許した。

初戦の3回、吉川の打球をファンブルした中野 ©️Sankei Shimbun

 そして8回の巨人の追加点も阪神の守備のミスからだった。

 この回先頭の坂本勇人内野手の三塁線への当たりを、三塁手の大山悠輔内野手がお手玉。そこから丸には無警戒の三塁線にセーフティーバントを決められ、送りバントと犠飛で決定的な1点を奪われることになる。

 短期決戦に於けるこの守備力の差が1つの象徴的な出来事だったが、戦いの中で決定的な違いとしてあったのが、巨人・原辰徳監督と阪神・矢野燿大監督のゲームプランニングの差だった。

 初戦の勝敗を分けたポイントとして指摘されるのは1点を先制された直後の5回裏、無死一塁からの一塁走者、ジェフリー・マルテ内野手の盗塁死だった。マルテが左前安打で出塁した直後、次打者の糸原健斗内野手の2球目におそらくエンドランのサインだったのだろう。マルテが走ったが、巨人バッテリーが外角に大きく外してマルテをあっさりと刺した。

「あれを外すっていうことは何か根拠が……。

 かなり高い確率でなければ外せないと思うんでね。こっちとしては対策していきます」

 試合後の矢野監督はこうその場面を振り返った。

 三塁コーチャーのサインを見破られていたのか、それともベンチから三塁コーチャーに送ったサインが筒抜けだったのか……。試合中に原監督は独特の勝負勘で「ここは1球外そう」と指示を出すケースがあるとも聞いたこともある。

なぜここでエンドランだったのか?

 いずれにしてもこのワンプレーが初戦の流れを決めるポイントだったが、1つ、それ以前になぜここでエンドランだったのかということも疑問に思ったところだった。

「試合に向かうときには全ての準備を整えて、最後にどんな試合になるのかをシミュレーションする。そこでこうなったらこう動く、あるいはこう違う流れになったら、こう対処するとしっかり準備をする。ゲームプランをしっかり練ってグラウンドに立つのが自分のルーティンです」

 原監督から以前にこんな話を聞いたことがある。

 この第1戦のシミュレーションはどんなものだったのか? 巨人の先発はエースの菅野智之投手で、阪神の先発は9月25日の完封負けを含めて、巨人が2試合16回で1点も奪えていない左腕・高橋遥人投手である。おそらく多くて2、3点の勝負、場合によっては1点勝負にすらなる可能性を想定して、そういうゲームプランで臨んだ試合だったはずである。

ウィーラーに迷うことなく送りバントのサイン

 だから采配も1点にこだわった。

 案の定、立ち上がりから高橋の前になかなか走者を出せずに迎えた5回。先頭の丸が内野安打で出塁すると、続くゼラス・ウィーラー外野手に迷うことなく送りバントのサインを出したのだ。

「見ての通りだと思うな。次に中島という勝負強い打撃、打者というのもあるしね。なかなか相手投手から点を取れていないというところもある。総合的にというところですね」

 こう語った原監督の期待に応えてウィーラーが来日7年目の初送りバントを一塁線に決め、巨人はプラン通りに1点を先取した。

 そしてその裏の阪神のエンドラン失敗である。

 矢野監督はここで一気に菅野を潰しにかかったわけだが、そこにはどんなゲームプランがあったのだろうか。

引き分けは阪神にとって勝ちと同じだったのだが……

 1つ、阪神にとってポイントとなるのは、CSのレギュレーションで引き分けは阪神にとっては勝ちと同じだということである。

 同点の状況は常に阪神にとっては有利であり、巨人にはプレッシャーがかかる。しかも相手の菅野は立ち上がりからシーズン中以上に気迫を見せて、そこまでの投球内容もつけ入る隙のないものだった。エンドランを決めて一気に突き放すというのは、理想的なプラニングかもしれない。しかし果たしてその理想論が、この超短期決戦のCSファーストステージで現実的な選択だったのか。サインを見破られる以前に、まず自分たちの優位性を活かせるプラニングがなかったことが、勝負を分けるポイントだったようにも見えた。

 実は阪神は第2戦でもこの上位チームの優位性を結局、活かそうとはしなかった。

 第2戦で原監督のゲームプランがはっきり見えたのは2点を先制された3回の攻撃だった。先頭の吉川が敵失で出塁すると続く大城卓三捕手も安打で繋ぎ一、二塁。ここで2番手・高木京介投手の代打に八百板卓丸外野手を起用すると、サインは「打て」だったのだ。

 第1戦の僅差の投手戦を想定した采配から、第2戦ではある程度の打ち合いを考えていた。同点は負けと同じということも考慮し、ここで一気にリードを奪うことを狙っていったのだ。

「向こうのピッチャーも苦しんでいましたし、八百板に賭けたというところですね」

矢野監督も4回に勝負をかけた

 この強行策が当たって八百板も一、二塁間を破ると松原聖弥外野手の適時打、丸の逆転タイムリーと打線がつながりプラン通りの逆転劇が生まれたのである。

 一方、矢野監督も4回に早くも勝負をかけている。

 巨人3番手の戸郷翔征投手からこの回先頭の佐藤輝明内野手が四球で出塁。すると2番手・伊藤将司投手の代打に糸井嘉男外野手を送ったのである。

 選択肢としてはそのまま伊藤を打席に立たせて送りバントという策もある。送りバントが成功すれば1死二塁で好調の近本から中野へとつなげる場面。しかもが逆転を許した直後だけに、巨人にいきかけているゲームの流れをもう1度、引き戻さなければならない。少なくとも同点に追いつければ、主導権を再び握り勝負的にも優位な立場に立つこともできる。

“一気呵成に巨人を潰しにいく”というゲームプラン

 だが、矢野監督のゲームプランは一気呵成に巨人を潰しにいくというものだったのである。

 ところが強行した糸井が初球を二飛に倒れて、一気にムードは萎んでしまった。その上、2死から中野が一、二塁間を破る安打を放ち、結果論だがもし送っておけば、という場面となってしまったのである。

 しかも伊藤に代打を送ったことで、リリーフ陣の継投も早め早めのスイッチとなった。通常は8回からマウンドに上がる岩崎優投手を、7回から投入。その岩崎が回を跨いだ8回に1死二、三塁のピンチを招くと、再び前倒しでクローザーのロバート・スアレス投手を送った。しかしそのスアレスがウィーラーに中犠飛を許して決定的な1点を奪われた。

「結果的にはミスというか、そういうところで流れを変えてしまったかなというのと、やっぱり1本が出ないなと感じました」

 ファーストステージ敗退が決まった矢野監督は試合後に、この敗北をこう振り返った。

 一方の原監督は会心の表情だ。

主力選手を含めて全員にバント練習をさせていた

 このシリーズでは第1戦のウィーラーと8回無死二塁から廣岡が犠打を決めて追加点を奪った。そして第2戦でも8回の丸のセーフティーバントに直後の一、二塁からの亀井の犠打と決めるべきところで4つのバントを決めての勝利だ。

 実は巨人はCS開幕直前の11月4日、東京ドームでの練習で主力選手を含めて全員にバント練習をさせていた。

 もちろん練習をしたから、いきなりバントがうまくなるわけではない事は分かっている。大事なのは、そういう意識づけをしっかりすることだったのである。

 だからサインが出ても廣岡はもちろん、ウィーラーも丸も亀井も戸惑うことはなかった。

 しっかりとしたゲームプランを持って、それが選手に浸透している。まさにそこが巨人のファーストステージを勝つべくして勝った、最大のポイントだったのである。

文=鷲田康

photograph by Sankei Shimbun