秋の競馬シーズン真っただ中、馬ではない“意外な動物”が全力疾走するレースがあるのをご存じだろうか?

 その名も「アルパカダービー」。

 長野県の八ヶ岳アルパカ牧場で連日開催されている、モフモフ動物による癒しレースを一目見ようと、全国から多くのファンが訪れている。

レースに出走する4頭。飼育員に引かれ、ゲートへと誘導

 舞台は牧場内に設置された約90mの直線コース。生後3カ月ほどの赤ちゃんアルパカから、8歳の中堅アルパカ(人間で言うと40歳ほど)が激走する。

 競馬よろしく“ダービー”と言うからには、ただ競走を眺めるだけでは終わらない。ここでは「馬券」ならぬ「パカ券」を購入してアルパカを応援することができるのだ。一枚500円の「パカ券」はレースで一着になるアルパカを予想する方式で、見事的中すると1000円分のお買い物券として利用できる(外れても、500円分のお買い物券として利用可能)。

1枚500円の「パカ券」。ちびっこから大人まで、観客はこれを握りしめてダービーの発走を待つ

 同牧場の責任者である井手真哉さんに、レース誕生のきっかけや楽しみ方を教えてもらった。

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アルパカは最高時速60キロ!

――そもそも、なぜアルパカが走るイベントを開催しようと思ったのですか?

井手さん アルパカは本来、おとなしい、ゆったりした性格の動物です。でも実際は、時速60キロものスピードで走ることもできるんです。ただ触れ合うだけではなく、お客さんに動きのある一面を見てもらえたらと考え、2016年から開催しています。

――競走馬(一般的なスピードは60〜70キロほどと言われている)と比べても遜色ないスピードなんですね。レースをするにあたって、アルパカたちにはなにか特別な訓練をされているのでしょうか?

井手さん 実は、レースの練習をさせたことは1回もないんですよ(笑)。

15時15分、定刻通りにレース開始! 4番のエスペランサちゃんが好スタートで先頭を窺う

アルパカがゴール目がけて“激走”する理由

――ではなぜアルパカたちはゴール目がけて走り切ることができるんですか?

井手さん レースに出走するアルパカは、オスか子どものアルパカです。そしてゴール付近は普段からメスのアルパカが生活するエリアになっています。オスは「メスに近づきたい!」という一心でゴールに向かって走ります。一方、子どもには「早くお母さんの元に戻りたい!」という意識があるので、その習性を活かしてゴールまで走らせているんです。

――楽しい雰囲気のレースですが、アルパカたちはいたって真剣に、必死で走っているんですね。

井手さん そうです。ちなみにオスのアルパカたちがゴールまで駆け抜けると、柵から身を乗り出して、メスに対して自分をアピールしていることもあります。ただアルパカは季節に関係なく年中繁殖期のため、こちらの意図的なタイミングでない限りは同じ場所で生活はさせません。なのですぐに飼育員にリードを付けられて、結局メスには会えずじまいですね(笑)。

中盤は縦長の隊列に。2番の花ちゃん(メス、2歳)は後方待機(?)

「パカ券」的中のコツは?

――「パカ券」購入も醍醐味のひとつですが、的中のためのコツも教えてください。牧場内には毛の長いアルパカや、刈り取られた後のアルパカもいますが、やはり毛の短いアルパカのほうが軽い分有利ですか?

井手さん 確かに、そういう風に期待をして賭けるお客さんも多いですね。ただ……先ほども言ったようにアルパカたちはレースの練習をしたことは一回もありませんので、その日のアルパカの気分次第で、速く走るか走らないかが決まります。

 レース中に道を逸れてしまうこともありますし、立ち止まってしまうこともあります。「ダービー」というと真剣勝負と思われるかもしれませんが、そんな“グダグダ感”も含めて楽しんでいただけたらと思います。

ゴール前は大盛り上がり。子どもたちの「頑張れ〜!」の声でアルパカたちはさらに加速

「速いアルパカをつくろう」ということにはならない

――競馬の場合は、基本的には3歳〜5歳あたりの馬が中心となって活躍するイメージですが、アルパカの場合はどうなんでしょう?

井手さん 確かに、子どもより大人のアルパカのほうが体も大きく、走力自体は高いです。ただ、重要なのは能力よりもアルパカの気分ですから(笑)。幼ければ幼い赤ちゃんであるほど、「お母さんのもとに行きたい」という思いが強いので、必死な分速く走ることだってありますよ。そういう姿を見ると、本能的に走っているということがよくわかりますね。

――競馬は「ブラッドスポーツ」といわれるように、お父さんの馬やお母さんの馬、さらにそのお父さん……などと血統が重視されますが、アルパカには「速い一族」などはあるんですか?

井手さん 親の性格などは、もちろんアルパカの場合も引き継がれることがありますよ。しかしダービーが目的でアルパカを飼育しているわけではないので、速いオスと速いメスを交配しよう、ということにはならないですけどね(笑)。

来場者は倍増だけど、悩みのタネは…

――お話を聞けば聞くほど、どのアルパカに賭ければいいのか分からなくなってしまいそうですね……。

井手さん “推し”アルパカを見つけて、その子のパカ券を購入するのも一案です。「顔がイケメンだから」「見た目がシャープだから」など、それぞれの理由でお気に入りの子を見つけて、毎回“推し”の「応援パカ券」のようなイメージで買われる方も多いですよ。

 アルパカというモフモフな動物が走っているという見ごたえを味わってもらうのが第一なので、楽しんで参加していただけたらと思っています。

現在牧場には29頭のアルパカがいるとのこと。毛色から表情まで、個性豊かだ

――今や大人気の「アルパカダービー」ですが、来場者数の変化はありましたか?

井手さん SNSでの拡散などもあり、今では以前の2倍以上、週末には一日500〜600人ほどのお客さんに来ていただいています。

――今日も大勢のお客さんが「パカ券」を買って応援していました!

井手さん ありがたいですね。ただ正直に言うと、「パカ券」は外れても商品券としてご利用いただけるので、正直黒字になっているのか……? と思うこともあります(笑)。でも、多くの方がアルパカと触れ合う機会になり、楽しんでいただけることが一番ですからね。

*今年のアルパカダービーの開催は、11月いっぱいを予定している。

文=NumberWeb編集部

photograph by Takuya Sugiyama