佳境を迎えつつある各大陸のカタールW杯予選。コロナ禍においてどのように開催されているのか。感染爆発に苛まれたフットボール王国ブラジルのW杯予選に足を運んだ現地在住記者が、写真とともに突撃レポートする。

 ブラジルは、今月中旬までの累計の死者が61万人余りで世界で2番目、感染者が約2200万人で世界で3番目に多い新型コロナウイルスの“超大国”だ。人口100万人当たりで日本と比べると、死者が約207倍、感染者が約138倍と、2桁違う。

 昨年2月に欧州からの帰国者がウイルスを持ち込むと、感染が急拡大。3月中旬から事実上のロックダウンが敷かれ、すべての試合が延期された。

 5月に始まって年末まで行なわれる予定だったブラジルリーグは、8月に無観客で開幕。全日程を終えたのは、今年の2月末だった。

 今季は1月中旬に各地で州選手権が始まり、5月末にブラジルリーグが開幕。やはり無観客で行なわれていたが、ワクチン接種が進んだことから、ようやく10月、ブラジルサッカー連盟(CBF)は以下の条件を満たす観客の入場を認めた。

 1)ワクチンを2度接種し、14日以上経過している者
 2)ワクチンを1度接種し、試合開始の48時間以内にPCR検査を、もしくは24時間以内に抗原検査を受けて陰性だった者

 当初は収容人員の30%前後に制限されていたが、今月初めから50%前後へ増え、今月中旬から制限がなくなった。

声出しOK、マスク着用義務なし

 ただし、観戦中、日本のように声を出しての応援が禁止されているわけではない。観客全員がワクチンを一度は接種している、もしくは検査で陰性が証明されていることに加え、禁止しても遵守されるとは思えないからだろう。

 また、スタジアム内ではマスクの着用が推奨されているが、強制されているわけではない。

 2022年ワールドカップ(W杯)南米予選は、昨年3月に始まる予定だったが、実際には10月に始まった。しばらくは無観客だったが、今年9月以降、ブラジルを除く南米各国で収容人員の50%程度の観客を入れるようになった。

 ブラジルでは、10月14日のウルグアイ戦(試合地はマナウス)で初めて観客を入れることになり、チケット以外にCBFが発行する「パスポート」(ワクチンの接種証明や検査の陰性証明、健康診断問診票などをインターネットで送って取得)と身分証明書の提示を義務付けた。

悠観客で行われたブラジルvsウルグアイ ©Getty Images

 この試合は、スタジアムの収容人員の30%弱の1万3000人が観戦。ブラジルが4−1で宿敵に快勝して観衆を喜ばせた。

22大会連続のW杯出場を懸けた一戦

 そして、今月11日、僕が住むサンパウロでコロンビア戦が行なわれる。CBFは、スタジアムの収容人の約74%に相当する3万5000枚のチケットを販売すると発表。入場に関する条件は、ウルグアイ戦と同じだった。

 南米予選は、参加10カ国が総当たりのホーム&アウェーで対戦し、各々18試合を行なう。上位4カ国がW杯出場権を獲得し、5位は大陸間プレーオフに回る。

 試合前の時点で、ブラジルは10勝1分の勝ち点31で、2位アルゼンチンに勝ち点6差をつけて首位。コロンビアは、3勝7分2敗の勝ち点16で5位。この試合でブラジルが勝ち、コロンビアが5位のままなら両国の勝ち点差が18に広がり、コロンビアは残り5試合に全勝してもブラジルを上回ることはないので、ブラジルの22大会連続のW杯出場が決まる。

 コロンビアは、スピード豊かで決定力が高いFWルイス・ディアス(ポルト)、大柄で屈強なCBダビンソン・サンチェス(トッテナム)、経験豊富なGKダビド・オスピナ(ナポリ)らを擁するタレント軍団だ。10月10日、ホームでブラジルと引き分け、今予選で唯一の勝ち点を奪っている。面白い試合になるのは確実で、是が非でも見たい。

多少不安だったが「マスク+フェイスシールド」なら

 例年、僕はサンパウロ州スポーツ記者協会が発行する記者証を取得しており、この記者証を元にしてCBFに申請をすれば、代表戦の取材パスがもらえる。しかし、今年はいつ試合を取材できるか見当がつかなかったので、記者証を取っていなかった。このため、チケットを購入しなければならない。

 7月に2度目のワクチン接種を終えており、CBFが発行する「パスポート」を取得する条件は満たしている。しかし、他の観衆がワクチンを接種していたりPCR検査などで陰性であっても、絶対に感染しないとは限らない。多少の不安を覚えたが、「マスクに加え、フェイスシールドを付ければ感染は防げるのではないか」と考えた。

 チケットは、今月5日にインターネットで発売が開始された。メインスタンドが800レアル(約1万7000円)、バックスタンドが600レアル(約1万3000円)、ゴール裏が300レアル(約6000円)というブラジルでは強気の値段設定。僕はゴール裏の席を買った。

コロンビア戦のゴール裏の席 ©Hiroaki Sawada

前日の試合ではほぼ誰もマスクをせず大声で……

 試合をスタジアムで観戦するのは、昨年3月、本田圭佑がリオの古豪ボタフォゴに入団した際のデビュー戦(リオ州選手権)を取材して以来で、実に1年8カ月ぶり。しかも、南米予選でも屈指の好カードとあって、胸が踊った。

 ただ――試合前夜、不吉な光景を見た。ブラジルリーグの試合をテレビで観戦していたら、スタンドが超満員で、ほとんど誰もマスクをしていない。しかも、大声で声援を送っている。

一瞬、身の毛がよだつ思いをしたが、観戦を諦める気にはなれない。「人混みを避け、それでも近くに人が来そうになったら必ずフェイスシールドをすること」と自分に言い聞かせた。

©Hiroaki Sawada

 試合が始まるのは21時半。入場に時間がかかることが予想されたので、スタジアムの最寄り駅に19時に着いた。そして、ゴール裏へ向かうゲートに着いたが、まだ開いていない。小雨が降り出し、気温も下がってきた。周囲に人が増えてきたので、フェイスシールドを装着し、なおかつ列から離れた。

 小一時間もたって、やっとゲートが開いた。その先に最初の関門があり、チケット、CBF発行の「パスポート」、身分証明書を提示。係員が「マスクを付けてくださいよ」と呼びかけていたが、装着を強制はしていなかった。

観衆の約半分はノーマスクだった

 周囲を見回すと、マスクを付けている人が約半分で、25%ほどは顎にマスクを当てており、残りはマスクをしていない。顎にマスクをしても意味がないから、観衆の約半分はノーマスクということになる。

 またしばらく歩くと、ゴール裏の座席へ向かう入口があり、そこでも同様のチェック。ここを抜けると、スタジアム内だ。

©Hiroaki Sawada

 チケットは座席指定ではなく、ゴール裏ならどの席に座ってもいい。ただ、ピッチに近いところは人が多い。人混みを避けるため、通路のすぐ手前の最後尾に座った。

©Hiroaki Sawada

 やがて両チームの選手たちがピッチに入ってきて、ウォーミングアップ。コロンビア選手に対して軽いブーイングが起きるが、強い敵意は感じられない。もしこれがアルゼンチン選手なら、痛烈なブーイングが起きるところだ。

ベトナムvs日本に比べるとレベルが……

 21時、両チームの先発メンバーが発表された。ブラジルは、FWネイマール、CBマルキーニョス(いずれもパリ・サンジェルマン)、MFカゼミーロ(レアル・マドリー)らベストメンバー。やはり、ネイマールへの拍手が一番多い。コロンビアも、ベストの布陣だった。

 21時20分、選手たちが入場し、両国国歌が流れる。新型コロナウイルスの犠牲者への1分間の黙祷の後、試合が始まった。大きな歓声が上がる。

 両チームとも、選手全員が技術があり、ボールを持てる。しっかりボールを繋ぎ、機を見てドリブルやワンツーパスで突破を図る。ほとんどミスがない。パスもクロスも、まるでシュートのように速い。しかし、マーカーが強く体を当て、パスのコースを読んでインターセプトをするので、攻防が入れ替わる……。

 この日の朝、テレビで見たW杯アジア最終予選のベトナム対日本は、パス回しが遅く、トラップやパスのミスが頻発していた。あまりの違いに、眩暈がしそうになった。

周囲が大きな声を上げて「これはまずい」

 試合の序盤は、コロンビアが積極的に攻める。前半7分、コロンビアのMFウィルマー・バリオス(ゼニト)が強烈なミドルシュート。弾丸のような軌道にスタンドから悲鳴が上がったが、ゴールのバーをわずかに超えた。

 29分、この試合を象徴するシーンがあった。ネイマールがゴール前でボールを受けて突破を試みたが、前後左右から4人に囲まれ、そのうちの2人から同時にタックルを受けて倒れる。イエローカードが出て、ブラジルのFK。絶好の位置だったが、ネイマールのシュートは壁に当たった。

 その後も、ネイマールは2人がかり、3人がかりで徹底的にマークされる。

©Hiroaki Sawada ©Hiroaki Sawada

 試合が始まってから徐々に観衆が増え、僕の周囲も密集に近い状態となった。しかも、背後の通路に大勢の人が立ち、大きな声を上げる。「これはまずい」と考え、席を立って通路から見ることにした。

©Hiroaki Sawada

 前半は、0−0のまま終了。場内放送が、観客数が2万2000人だったことを告げた。パンデミックのせいで、ブラジルでも多くの人が失業したり、収入減に苦しんでいる。やはり値段が高すぎて、チケットが余ったのだ。

スタジアムには空席が目立った ©Hiroaki Sawada

ネイマールの技巧、パケタのゴールに観衆は喜び爆発

 後半、ブラジルは左ウイングのビニシウスを投入。今季、レアル・マドリーで絶好調の若武者だ。厳しいマークをものともせず、驚異的なスピードでサイドをぶち抜く。試合の流れがブラジルへ傾き始めた。

 後半27分、ブラジルの攻めをコロンビアのDFがクリア。これをブラジルのCBマルキーニョスが胸でトラップすると、ネイマールの足元へ速いパスを入れる。ネイマールが咄嗟に左足で角度を変えると、これがDF2人の間を通る絶妙のスルーパスとなった。走り込んだMFルーカス・パケタ(リヨン)が、右足で直接シュート。GKオスピナの右手を弾き、ゴールへ飛び込んだ。待ちに待ったゴールに、観衆は喜びを爆発させた。

©GettyImages

 ネイマールはドリブラーという印象が強いが、実は極めて優秀なパサーでもある。

 右斜め後方からのパスを利き足ではない左足でダイレクトで右斜め前方へ流し、DF2人のわずかな間を抜いたのだ。どうしてこんなことを瞬時に思いつき、なおかつ完璧に実行できるのか――。家へ帰ってからこの場面の録画を繰り返し見たが、どうしても理解できなかった。

ネイマールのスキルはさすがだった ©Getty Images

 パケタにしても、左右からDF2人のチャージを受けており、咄嗟の判断で利き足ではない右足シュートを選択している。

 このレベルになると、奇跡のようなプレーを少なくとも2回は続けないと、ゴールを奪うことはできない。 

 その後、コロンビアはMFハメス・ロドリゲス(アル・ラーヤン=カタール)らを投入したが、ブラジルはボールを保持して攻め続ける。コロンビアに決定機を作らせることなく、1−0で試合を終わらせた。

 互いに激しくマークし合ったが、随所に鋭い攻撃も見られ、見応えのある試合だった。

 この勝利で、ブラジルはW杯出場を決定。選手たちは笑顔で抱き合い、スタンドに手を振った。地元観衆も、誰もが笑っていた。

©Hiroaki Sawada ©Hiroaki Sawada

 16日には、アウェーでアルゼンチンと対戦する。W杯出場を決めたからといって、宿敵相手に無様な試合はできない。好試合が期待できる。

 ブラジルにとって、南米予選突破は義務でしかない。目指すのは世界の頂点であり、本当の勝負はこれからだ。

文=沢田啓明

photograph by Getty Images