大谷翔平が「満票」でア・リーグMVPに輝いた。満票受賞は21世紀に入ってから5人目で、負け越しチームから出たのは史上初の快挙だ。よかったという気持と、当然だろうという気持が交錯している。「すぐれた成績の」選手はほかにもいたが、「歴史に爪痕を残した」選手は、大谷以外にいなかったからだ。

 それにしても、近ごろのエンジェルスはMVPをよく送り出す。マイク・トラウトが2014年(このときも満票だった)、16年、19年と3度。大谷翔平が21年に初受賞。8年間でMVPを4度も送り出したチームは、近ごろでは、バリー・ボンズが全盛期だったころのジャイアンツ(2000年から04年まで5年連続)以来だ(昔は、ヤンキースとカーディナルスの寡占状態が珍しくなかったが)。

 それなのに、チームとしてのエンジェルスはさっぱりうだつが上がらない。同時期の8年間を振り返ってみても、ポストシーズンに進出できたのは14年の1度きりで(ALDSでロイヤルズに0勝3敗と敗退)、地区2位が1度(17年。首位アストロズから21ゲーム差!)、地区3位が1度(15年。首位レンジャーズから3ゲーム差)、残る5年はいずれも地区5球団中4位に甘んじている。

 要するに、16年以降のエンジェルスは、からきし弱い。6年連続の負け越しで、首位とのゲーム差は合計で128ゲームに達する。短縮シーズンを含めても、年平均20ゲーム以上の大差だ。

 これでは、メディアの耳目を集めた大谷翔平の発言(「ぼくはこのチームが好きですが、それ以上に試合に勝ちたいのです」)が飛び出してくるのも無理はない。チーム再建を促す発言とも、あるいはチームに対する最後通告とも取れる発言だったが、後者と見なすのはさすがに時期尚早だろう。

 大谷とエンジェルスとの現在の契約は22年いっぱいまで残っているし(22年シーズン終了後に年俸調停権を得る)、FA資格の取得は23年シーズン終了後のことだ。普通に考えれば、エンジェルスはその前に「あらゆる手立てを用いて」大谷の引き留めにかかるはずだ。

チーム浮上のカギはFAにあり

 仮に大谷の爆弾発言がなかったとしても、エンジェルスの弱体は歴然としている。まず、だれもが指摘するとおり、投手陣が弱すぎる。21年の先発投手平均防御率は4.78(MLB30球団中22位)だったが、20年は5.52、19年は5.64(ともに全体で29位)と、眼を覆いたくなる惨状だった。今季にしても、大谷の奮戦(130回3分の1を投げて防御率3.18)がなければ、もっと情けない数字が並んでいたにちがいない。

 GMのペリー・ミナシアンは、補強の具体策を持っているのだろうか。

 補強の要諦は、育成/トレード/FA市場の3つだ。ただ、エンジェルスのファーム・システムはけっして充実していないので、最初のふたつ(育成とトレード)にはあまり期待できない。トレードも? と首をかしげる方はいるだろうが、即戦力選手を獲得するには若手有望株との交換が欠かせないのだ。この傾向は、近年ますます強くなっている。となると、残る希望はやはりFA市場か。

 21年オフのFA市場はにぎやかだ。大物投手だけに絞っても、マックス・シャーザー、ジャスティン・ヴァーランダー(アストロズと1年2500万ドルで再契約した)、クレイトン・カーショーといった名前がずらりと並ぶ。

 それ以外にもロビー・レイやケヴィン・ガウスマン、マーカス・ストローマン、さらにはカルロス・ロドン、ジョン・グレイ、菊池雄星などがFA資格者に加わった。もうひとり、エドゥアルド・ロドリゲスという恰好の対象がいたが、こちらはタイガースと早々に契約を結んでしまった(5年総額7700万ドル)。

 エンジェルスが欲しいのは、3人のビッグネームよりもレイとストローマンだろう。ともに5年総額1億3000万ドル前後の金額を用意しなければならないが、チーム強化のためには「贅沢税だけは払いたくない」というアルトゥーロ・モレノ(球団オーナー)の意向にばかり副ってはいられない。

 ただ、レイの古巣ブルージェイズは、喉から手が出る思いで彼と再契約を結びたがっている。ストローマンにしても、21年は33先発で防御率3.02の好成績を残しているだけに引く手あまただろう。

2年で投球2回の投手に2100万ドルの賭け

 と思っていたら、ミナシアンは、手術明けのノア・シンダーガード獲得という荒技に出た。2100万ドルの1年契約という条件はいかにもギャンブルめいた印象を与えるが、29歳のシンダーガードは私も大穴と思っていた。20年3月にトミー・ジョン手術を受けた彼は、21年6月に現場復帰するはずだったのに、右肘の炎症で思うようなピッチングができていない。ここ2シーズンの投球回数は合計わずか2イニングス。

 ただし、潜在能力の高さ(99マイル超えの速球を通算で1200球以上投げている)は衆目の一致するところだ。2016年などはメッツで30試合に先発して183回3分の2を投げ、防御率2.60、奪三振218の素晴らしい成績を残している。

 たぶんエンジェルスは、22年も先発投手6人制を布くことになるだろう。大谷の使い過ぎを回避するのが主眼だが、このシステムが機能すれば、シンダーガードの投球回数も年間130イニングス程度に抑えることができる。これなら故障明けでもなんとかなるだろう、というのがミナシアンの読みではないか。ただ、それならそれで少なくとももうひとり、有力な先発投手を獲得する必要がある。

 いずれにせよ、エンジェルスは金の使い方を考えなくてはならなくなるはずだ。トラウトはまだ30歳だから十分に復活可能と見るが、慢性的な故障を抱えるアンソニー・レンドンやジャスティン・アプトンの処遇は、そろそろ真剣に考えたほうがいいかもしれない。トラウトと大谷につづく大駒のみならず、守備力と機動力もこのチームの課題だ。先発投手がそろわなければ、やや改良されてきたブルペンをさらに充実させなければならなくなる。ミナシアンは、まだしばらく頭の痛い日々を送らざるを得ないのではないか。

文=芝山幹郎

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