11月17日、ドラフト2巡目で指名された筑波大の佐藤隼輔が入団を内諾し、来季から埼玉西武ライオンズのユニフォームに袖を通すこととなった。1巡目の西日本工大・隅田知一郎もすでに契約内定の会見を終えており、大学生トップクラスの実力を誇る投手2名の入団が確定的となった。

 今年、ライオンズが指名した選手はドラフト指名の6名と、育成ドラフト指名の4名で、計10名のうち投手が5名、野手が5名という内訳となった。人数では半々だが、野手のうち捕手が2名、そして上位指名2名がともに左投手という点に着目すると、バッテリー強化と、左腕の即戦力を獲得したかったという球団の明確な意図が見える。

《西武ドラフト指名一覧》
1位 隅田 知一郎・投手(西日本工業大)
2位 佐藤 隼輔・投手(筑波大)
3位 古賀 悠斗・捕手(中央大)
4位 羽田 慎之介・投手(八王子学園八王子高)
5位 黒田 将矢・投手(八戸工大一高)
6位 中山 誠吾・内野手(白鴎大)
育1位 古市 尊・捕手(四国IL・徳島)
育2位 滝沢 夏央・内野手(関根学園高)
育3位 菅井 信也・投手(山本学園高)
育4位 川村 啓真・外野手(国学院大)

 その裏側にはどんな戦略があったのか。編成グループのディレクターを務める潮崎哲也氏に話を聞いた。

「ドラフト1位公表」の理由

「今ではなく、数年後に『この年のドラフトは成功だったね』と言われるのが理想なんですが」と前置きをした上で、潮崎氏はこう語った。

「現時点においては最高のドラフトだった、最高の指名ができたと思っています。その年の方針が決まるのは比較的、早い段階なのですが、今年は最終的に候補選手を決めたのはドラフトの間近でしたね」

 ライオンズは隅田の1巡目指名をドラフト3日前の10月8日に公表した。近年、ドラフト指名の公表を控えていたライオンズだけに、この行動には並々ならぬ意気込みを感じた。

「編成会議で最終的に『隅田で行こう』と決まったときに、マスコミを通じて公表することも決めました。人気のある選手だと思っていたので、いち早く公表することによって1球団でも指名が重なる確率が少なくなれば……という思いからです。

 もしかしたら5球団、6球団は指名するのではないかと考えていたので、公表した効果はあったと思いますね。4球団で済んだ。ラッキーだったと思いました」

 ただし隅田の1巡目指名が決まるまでは、大いに頭を悩ませたと潮崎氏は明かす。同じように1巡目の候補に挙がっていたもう一人の投手、筑波大の佐藤と、隅田のどちらを選ぶかで議論が重ねられていた。

「今年の春先、神宮球場で筑波大の佐藤投手を実際に見たのですが『この投手は1位じゃないと獲得できないな』と感じました。それだけの逸材だと思いました。最後まで1位指名を隅田にしようか、佐藤にしようかと迷ったことは確かです」(潮崎氏)

 では“隅田1巡目”の決め手となったのは、なんだったのだろうか。

「隅田に対する周りの評価や、九州担当のスカウトの評価が高かった。私は4年生の春のリーグ戦で初めて投球を見たのですが、まず最初にピッチングが完成されているピッチャーだという印象を受けました。コントロールがよく、変化球も扱え、頭がよくてスケールの大きな投手だと思いました」(潮崎氏)

 投手としての完成度を重視し、隅田を選択した。

「どちらか一人でも獲得できればよかったというくらい、2人とも甲乙つけがたい投手でした。佐藤もドラ1クラスの才能を持っている。そんな佐藤が、まさか2巡目まで残っているとは思っていなかったので、こうして2人が同じユニフォームを着てくれるなんて……と驚いています」

ドラフトで引かれたくじを手に写真に収まる隅田知一郎 (c)KYODO

開幕一軍は「そこまで焦っていない」

 最後まで迷った2名の投手を、1巡目と2巡目で指名することができた。同様にドラフト3巡目で指名した中央大の古賀悠斗捕手も、編成会議では高く評価されていたものの「まさか3巡目まで残っていてくれているとは思わなかった」と潮崎氏は振り返る。

 インタビューの冒頭で「最高のドラフト」と顔をほころばせたのもうなずける結果だ。

「隅田と佐藤は、能力的には2人とも先発ローテーションで回れるような投手。将来、2人が先発ローテーションで投げる姿が、私の頭には映像として思い浮かびますよ。順調に、怪我なく、プロ野球の世界に順応できれば、それも実現すると思っています。開幕一軍? そうですね。大学卒で入るので、本来であればそうなってほしいですが。ただ、我々スカウトとしてはそこまで焦ってはいないのが正直なところです」

 ここ数シーズン、ライオンズの課題として必ず挙げられるのが投手力の強化だ。

 今季は15年入団の高橋光成が11勝、17年入団の今井達也が8勝、19年入団の松本航が10勝と、ドラフト1巡目で入った投手がそれぞれキャリアハイの勝利数を残した。しかし、依然として先発ローテーションとして計算できる投手は少ないのが現状だ。

 一方、野手は昨年のドラフト上位ですでに補強しており、1巡目の渡部健人がイースタン・リーグで本塁打王を獲得し、3巡目の山村崇嘉はイースタン・リーグ85試合に出場。野手の育成が順調に進んでいることから、今年は再び投手中心の指名に戻ったと見られている。

「ここ数年、ドラ1の投手は一軍で活躍する機会が増えていますが、2位以下の投手となると、もどかしさを感じる結果となっています。潜在能力の高さに期待して獲得したものの、プロのレベルまで到達できない。1巡目に名前が挙がるような、総合力の高いピッチャーと比較すると、どうしてもまだプロには力が足らず……という現実は否めません。下位で獲得したピッチャーがもう少し活躍してくれるとチームの層が厚くなるんですけどね」

二軍・西口監督との連係「気心が知れた間柄」

 選手の能力を見極める力はもちろんだが、プロ入り後、どれだけその選手が成長できるかが重要だと潮崎氏は語る。

「これまでも当然、スカウトからコーチ陣などのチームスタッフに対しては、『こういうつもりで獲得したので、その方針を踏まえて指導していただけますか?』ということは、何度も、しっかりと伝えています。今年、指名した羽田慎之介投手(八王子高)や黒田将矢投手(八戸工大第一高)についても、将来を見据えて獲得した選手です。まだ現段階ではコーチ陣と話をするところまでは至っていませんが、追々、ミーティングを重ねる予定です。高校卒なのでたっぷり時間はあるし、大きくゆっくり育ってもらいたいと考えている投手ですから……。

 来季から二軍監督となる西口文也は、私からはいろいろ言いやすい相手。4つ年下で、現役時代は一緒に戦った仲間です。気心が知れた間柄なので、どんどん、うるさく言っていきたいですね(笑)」

 育成を重視する理由として、近年におけるスカウティングの課題を挙げた。

「昨今、アマチュアとプロの実力差がどんどん開いていっている気がします。スカウトとしては、今現在、完成されている選手ではなく、将来的に良くなる可能性を秘めた選手を重要視するようになるんじゃないかと思っています。ですから、プロに入ってから最高のパフォーマンスが出せるような選手を探したいですね」

 2021年シーズンは42年ぶりの最下位となってしまったライオンズだが、今、蒔いている種が芽を出し、丹念に手をかけ、育てることができれば、そのときチームはおのずと底力をつけているはずである。

文=市川忍

photograph by KYODO