ア・リーグMVPに輝いた大谷翔平。2021年の投打にわたる大活躍を詳細に分析すると、特筆すべき進化、そして来季への課題が見えてきた(全2回/投手編も)

 常識を覆してメジャーの歴史に名を刻んだ。投手と野手、どちらか1つでもチームの主力にふさわしい成績。だが、大谷翔平は2つの役割を同時にこなした。二刀流成功の理由は、どこにあるのか。大谷はシーズンを振り返る凱旋会見で、こう話した。

「一番はフィジカルがしっかりしていた。そこが技術に一番結びつくところ。きちんとしたフィジカルがあると、できる動きが増えてくる」

©Hideki Sugiyama

「フィジカルの強さ」

 大谷が挙げた飛躍の要因をデータも証明している。メジャー4年目で初めてフルシーズンを戦い抜き、46本塁打を放った。打席数は本塁打王に輝いたサルバドール・ペレス(ロイヤルズ)より26打席、ウラディミール・ゲレーロJr.(ブルージェイズ)より59打席少ない中、2本差まで詰め寄った。

 大谷のフィジカルの強さを表す数字の1つに「打球速度」がある。

打球角度が7度以上も激変した

 スポーツ科学に基づき野球のデータを解析する「ネクストベース」によると、今シーズン、大谷の打球速度の平均は150.7キロ。メジャー全体で6位に入っている。開幕から2週間の時点では151.6キロで11位だったが、順位を上げた。

 シーズンの平均打球速度が最も速かったアーロン・ジャッジ(ヤンキース)は153.3キロ。それでも開幕当初より5キロ以上、速度が落ちていることを考えると、大谷のフィジカル面が1年を通して充実していたことが分かる。

 本塁打に必要な「飛距離」は、主に「打球速度」と「打球角度」で決まる。大谷はメジャートップクラスの打球速度を誇る。そして、ホームラン打者として覚醒した理由は、打球角度が昨年と大きく変わったところにもある。下の表(※外部サイトでお読みの方は関連記事からご覧ください)は昨シーズンと今シーズンの打球速度と角度を球種別に比較したものだ。

大谷の球種別打球速度と角度 ※データ提供:ネクストベース

 打球角度は昨シーズンの9.2度から16.8度と激変した。

 この数字は、メジャー全体の打球速度トップ5の全選手を上回り、トップ10の選手の中で2番目にあたる。飛躍的に打球に角度をつけられるようになったことが、本塁打の量産につながったといえる。大谷はメジャー平均の速度141.7キロ、角度12度をいずれも大きく超えた。

 そして、注目すべきポイントは、変化球に対する打球の角度と速度である。

 多くの投手が組み立ての軸とするスライダーに対する数字は昨シーズンより角度が15.8度、速度が12.8キロ上がっている。速球だけでなく、チェンジアップやカーブに対しても、本塁打にする速度と角度を習得した。

「ネクストベース」のトップアナリスト・森本崚太氏は、こう説明する。

「今シーズンの大谷選手は、打球速度と角度を両立する打撃ができていました。速球には元々強さがありましたが、昨年は変化球に角度をつけられませんでした。開幕当初は得意の速球を狙えるカウントで仕掛けて本塁打を放ち、その後は変化球にも角度をつけて本塁打を重ねるという進化を感じさせた1年だったと思います」

打撃内容で《著しく少なくなった》結果って何?

 森本氏の分析でもう1つ、大谷の打撃の変化を表す興味深いデータがある。

 大谷の打席内容を年度別に比較すると、内野ゴロが著しく少なくなっている。昨シーズンより割合が6%ほど下がり、最も比率が高いメジャー2年目の2019年と比べると、10%も低くなっている。森本氏は「色んな球種に対して打球の角度をつけられるようになって内野ゴロが減り、本塁打が増えたと考えられます」と語った。

データ提供:ネクストベース

 一方、割合が高くなったのは三振と内野フライを合わせた「完全アウト」。大谷は今シーズン、リーグで4番目に多い189三振を喫している。3.4打席に1度、三振している計算だ。ただ、森本氏は三振の数を気にする必要はないと指摘する。

「打球に角度をつけるためには、ボールの下にバットを入れる必要があります。空振りが増えるのは仕方ないことです。来シーズンも打球に角度をつける打撃を継続すれば、本塁打を積み重ねていけると思います」

 実際、本塁打3本とペースが大幅に落ちた9月は、内野ゴロの割合が29%まで上がり、三振は月別では最少タイの27個に減っている。

©Nanae Suzuki

本塁打王になりたければ三振を気にせずに!

 来シーズン、ファンやマスコミからは「三振が多い」、「打率を上げろ」と指摘されるかもしれない。だが、大谷の長所を消す声に耳を傾ける必要はない。もし、提言をするとすれば「本塁打王になりたいなら三振しろ!」といったところか。

 空振りや三振を気にせず、打球に角度をつける今シーズンの打撃を貫けば、タイトルも見えてくるはずだ。<投手編に続く>

文=間淳

photograph by Nanae Suzuki