ア・リーグMVPに輝いた大谷翔平。2021年の投打にわたる大活躍を詳細に分析すると、特筆すべき進化、来季への課題が見えてきた(全2回/打者編も)

 大谷翔平の登場でメジャーの関係者は資料を掘り起こしているだろう。本格的な二刀流を実現させた今シーズン、度々、歴史上の人物ベーブ・ルースと比べられた。それだけ、大谷が残す数字は異次元で、比較対象がないのだ。そのルース以来、103年ぶりと期待された2桁勝利+2桁本塁打にはあと1勝届かなかったが、投手としても進化を見せた。

©Nanae Suzuki

被本塁打数は右打者3本、左打者12本

 今シーズンの飛躍が申し分ないことは大前提で、来シーズンの課題を示すデータがある。「左打者への投球」だ。

 大谷が対戦したのは右打者が259打席で、左打者が274打席と大差はない。ところが、被打率は右打者.178、左打者.235。そして、被本塁打の数は右打者が3本に対して、左打者は12本と大きな差がある。その理由を、スポーツ科学に基づき野球のデータを解析する「ネクストベース」のトップアナリスト・森本崚太氏が分析する。

「右打者を抑えられた要因には、スプリットとスライダーの空振り率が非常に高いことが挙げられます。一方で左打者に対しては、この2つの球種で空振りが取り切れていません。左打者対策は、来シーズンのポイントになると思います」

投手・大谷の「右打者と左打者に対する球種別結果割合」。「FB=速球」、「CT=カットボール」、「SP=スプリット」、「SL=スライダー」、「CB=カーブ」。 ※データ提供:ネクストベース

 2021シーズンの右打者と左打者に対する球種別の投球結果を見ると、左打者への投球に課題を残したことが分かる。スライダーによる空振りの割合は右打者が18%で、左打者は9%。スプリットも右打者は31%で左打者は21%と、10%も低くなっている。

 スライダーの空振り率の差に、森本氏は「ある種、仕方ない面があります」と話す。大谷のスライダーの特徴は変化の大きさにあるという。メジャーの平均より横の変化が20センチから30センチ大きく、長所である反面、操るのが難しい。

「右打者から奪っている空振りは、ほとんどが外角のボールゾーンです。左打者にとっては内角に入っていくので、見極めや対応がされやすくなります」

 曲がりの大きさを利用して左打者の外角からストライクゾーンに入れる「バックドア」で見逃しは取れているが、空振りを奪えていない。

 スライダーで決めきれなくなれば、大谷は速球とスプリットで左打者を攻める場面が多くなる。最速160キロを超える速球と落差の大きいスプリットは打者の脅威となるが、配球が偏れば攻略の糸口はつかみやすい。球種の割合を見ると、右打者と左打者で大きく異なっている。

左打者相手にも“有効活用したい球種”とは

右打者と左打者に対する配球の比較。「FB=速球」、「CT=カットボール」、「SP=スプリット」、「SL=スライダー」、「CB=カーブ」、「2S=ツーシーム」、「CH=チェンジアップ」、「KC=ナックルカーブ」 ※データ提供:ネクストベース

 右打者への速球の割合は38%で、メジャー平均とほぼ同じ。空振りを奪えるスプリットとスライダーに加えて、カットボールも17%と打者は球種を絞りづらい。

 だが、左打者に対しては速球が投球の半分を占めている。カットボールも6%と少ない。スライダーで空振りを奪えずに見極められれば、大谷の選択肢は速球とスプリットの二択になってしまうのだ。

 森本氏は「今シーズンから投げているカットボールは、もっと左打者に使いたい球種です。左打者の膝元へのカットボールは有効で、打者は意識せざるを得ません。大谷選手が対左打者の成績を改善するにはカットボールを使うなど、変化球を増やすのが重要になると考えています」と説いた。

シーズン終盤の「速球の質」を見ると

©Nanae Suzuki

 もう1つ、森本氏は飛躍のポイントに「速球の質」を挙げた。

「シーズン終盤は速球の質が落ちて、ボールが伸びなくなっていました」

 大谷の速球は今シーズン、平均39センチのホップを計測している。最初の登板となった4月4日のホワイトソックス戦では、42センチもホップしている。ところが、シーズン最終登板の9月26日のマリナーズ戦では33センチのホップにとどまっている。その1週間前のアスレチックス戦でも35センチと平均値を下げた。

 ボールの伸びは「回転軸」と「回転数」で決まる。回転軸がきれいで回転数が多いほど、ボールは伸びる。4月4日の登板では速球の回転数が2449rpm(1分間あたりの回転数)だった。だが、9月26日は2007rpmと大幅に減っている。大谷の回転軸はシーズンを通してほとんど変わっていない。そうなると、回転数の減少がボールの伸びを欠いた要因と考えられる。

2021シーズン最終登板での《新たな可能性》

 森本氏は回転数の減少について「疲れなのか、過去の故障の影響なのかは分かりませんが、疲労が蓄積されるシーズン終盤の課題になるかもしれません」と語った。

 ただ、大谷の最終登板からは新たな可能性も感じているという。

 9月26日の登板では速球に本来の伸びはなかったが、球速は平均156キロをマークした。そして、速球の割合が極端に少なかった。この試合、大谷は112球を投じているが、速球は22球しかない。これは全投球の2割にも満たない。

 速球の伸びがないと感じたのか、来シーズンに向けて何かを試したのか、意図は分からない。だが、7回5安打1失点、10奪三振の好投は、剛速球を使わなくても打者を封じられると証明する投球内容だった。森本氏はこのように期待を込めた。

「メジャー流の投球スタイルへのモデルチェンジを試したのかもしれません。色んな変化球を操れて、シーズン序盤のような速球があったら、タイトルを狙えると思います。今シーズンつかんだものが、来シーズンにつながったら楽しみですね」

大谷が会見で語った「目指すべきもの」

 帰国後初めて公の場に姿を見せた15日の記者会見で、大谷は「ベーブ・ルースと比較していただけるだけで光栄。そのすごさは残した数字だけではなく、実際に見たことがなくても、多くの人が知っているところ。そこは選手として目指すべきもの」と語った。

©Hideki Sugiyama

 ルース以来となる2桁勝利と2桁本塁打の偉業。左打者への課題を改善すれば、10勝を大きく超えてタイトル争いをする可能性も感じさせる。大谷が目指すべき場所は決して遠くない。<打者編へ続く>

文=間淳

photograph by USA TODAY Sports/REUTERS/AFLO