横綱白鵬の名が番付から消えた九州場所も先場所に引き続き、一人横綱の照ノ富士が土俵をけん引。2日目、大栄翔に押し込まれて危うい場面はあったものの抜群の安定感は相変わらず。ここまでただ1人全勝を守り、第一人者としての重責をしっかり全うしている。

 横綱デビューの先場所も最後まで単独トップの座を明け渡すことなく、史上9人目の新横綱優勝を達成したが、最後まで賜盃を争ったのは34歳(当時)の元関脇で平幕の妙義龍だった。大関陣を含む役力士は優勝戦線に絡むことはなく、実質的には強さが際立っていた照ノ富士の独走と言ってよかった。正代、貴景勝の両大関はともに勝ち越すのが精いっぱいで、8勝止まりに終わった。

 長く角界の頂点に君臨していた白鵬は、6場所連続休場明けで進退がかかっていた先の名古屋場所で全勝優勝という離れ業をやってのけ、最強のまま土俵を去った。晩年は休場が目立ち、最後の4年間は2場所連続での皆勤場所はなく、古傷を抱える右膝をはじめ、体はすでに満身創痍だった。それでも“間引き出場”をしては賜盃を掻っ攫い、落日を迎えていた王者を引きずり下ろす者は現れなかった。

 昨今の横綱不在場所は優勝者の顔ぶれが、大関から幕尻まで目まぐるしく変わった。賜盃を抱いたとしても、その強さが2場所、3場所と持続しない。コロナ禍で稽古環境に制約が課されたことも無関係ではないにしろ、横綱に駆け上がった照ノ富士を除けば、それだけ大関も平幕も実力的にはさほど大きな差がないのが現状で、激しい星の潰し合いが毎場所のように展開されている。

大関貴景勝25歳は“後半の失速”が気がかり

 今場所は横綱照ノ富士とともに大関貴景勝が、勝ちっぱなしで場所を折り返した。先々場所は逸ノ城戦で首を痛めて途中休場。頭からぶちかまして相手に圧力をかける相撲が身上の大関にとって、首のケガは致命傷と思われた。カド番の先場所も序盤は立ち合いでしっかり当たれず、初日から3連敗と苦しんだ。負傷箇所が箇所なだけに通常なら恐怖心やトラウマがつきまとうものだが、25歳の若き大関は持ち前の強靭な精神力でこれに打ち克ち、勝ち越しを決めて大きな危機を乗り切った。

 今場所前は7日に福岡入りすると連日、同部屋の隆の勝と稽古を重ねてきたといい、「しっかり(準備は)できたと思うので、あとは力を発揮するだけかなと思います」と調整は順調だった様子。蓋を開けてみると頭から当たって、さらに二の矢、三の矢とぶちかましながら前に押していく本来の相撲が復活し、初日から快調に白星を積み重ねていった。

 8日目は直近2連敗中の巨漢、逸ノ城を押し切れず、最後は土俵下まで吹っ飛ばされたが、相手の髷掴みによる反則で“命拾い”の白星を得た。のちに振り返れば、大きな1勝となるかもしれないが、後半に入ってやや勢いが失速気味なのが気にかかる。10日目は関脇明生に土をつけられたが、横綱との直接対決を前にこれ以上、引き離されるわけにはいかない。

“ポスト白鵬”はどうなる? 不気味な存在は…

 三役在位は連続9場所目、通算では27場所目と実力は申し分ない関脇御嶽海は9日目、早々と勝ち越しを決めると「いつも期待させるだけなので、そろそろ結果を出さないと」と意欲的に語った。大関取りの起点となる10勝を射程内に捉えたが、優勝2回の実力者にはそれ以上のものを求めたい。しかし、過去には好調から一転、1つの黒星をきっかけに大失速するパターンも少なくないことから、2敗目を喫した10日目の宝富士戦の淡白な相撲内容が懸念される。

 10日目の時点で全勝の横綱照ノ富士を大関貴景勝と前頭15枚目の阿炎が1敗で追い、さらに関脇御嶽海ら4人が2敗でこれに続く。先場所と違い、複数の番付上位者が優勝争いに名を連ねるとやはり土俵は引き締まる。そんな中、出場停止3場所の処分を経て幕内に復帰した元小結阿炎は今後、上位戦に抜擢される可能性は十分。思い切りのよさが持ち味の上にノープレッシャーの立場だけに、なかなか不気味な存在だ。

 白鵬引退後の角界は照ノ富士の一強時代が到来するのか。それとも燻る実力者たちの中から抜きん出て、一人横綱に追随する者が出現するのか。“ポスト白鵬”を占う意味でも、終盤の5日間は大いに注目だ。

文=荒井太郎

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