ユーベに復帰したリッピの見事な意趣返し

 名将マルチェロ・リッピは通算5回のスクデット歴を誇るが、その中でも「格別だった」と言い切るタイトルがある。ユベントスを率いた2001−02シーズンに最終節でインテルを追い抜いた逆転優勝だ。

 1999年に一度ユーベの監督職を降りた彼は、すぐさま宿敵インテルから三顧の礼で迎え入れられた。しかし、ロベルト・バッジョを筆頭とする当時の主力選手たちと打ち解けることはなく、インテリスタたちからも心底嫌われた。

 2年目を迎えた2000年の秋、バラバラのチームが開幕戦で格下レッジーナによもやの黒星を喫すると、経営陣はあっさり指揮官のクビを切った。

“裏切られた”という怨恨を抱えたリッピは、翌年すぐユーベに復帰。逆転スクデットでインテル相手に見事意趣返しを果たした、というわけだ。

リッピにとって格別だったのは古巣インテルを最終節で逆転した2001-02シーズンの優勝だ©Getty Images

 カルチョの世界では、苦い別れ方をした古巣との対戦をこっぴどくフラれた元恋人への仕返しに喩えることがある。クラブと指導者との結びつきを色恋沙汰になぞらえるのは、いかにもイタリアらしい。

 11月20、21日に行われた今シーズンのセリエA第13節でも、「インテル×ナポリ」と「ラツィオ×ユベントス」という遺恨試合が2試合組まれた。

インテルはスパレッティを容赦なくクビに

 愛憎渦巻く注目カードの主役は、首位ナポリを率いるルチアーノ・スパレッティと無頼の親分マウリツィオ・サッリという曲者指導者2人だった。

 2年の休養期間を経て今季から現場復帰したスパレッティが、2017年から2シーズン、インテルを指揮していたことは記憶に新しい。

 絶対王者ユベントスによる9連覇を横目に見つつ、智将はクラブに当時7年ぶりとなるチャンピオンズリーグ出場権をもたらした。翌シーズンも、苦しみながら最終的に見事CL出場権を獲得。経営陣から与えられた予算と人員編成で経営目標を達成したのだから、感謝されこそすれ、文句を言われる筋合いはどこにもないはずだった。

 しかし、スクデット3連覇やプレミアリーグ制覇の実績を持つ闘将アントニオ・コンテ招聘の目星をつけた張会長ら経営陣は、2018−19シーズンの終了とともにスパレッティを容赦なくクビにした。

 少々乱暴な言い方をすると、“おまえよりいい女と付き合うから別れるぜ、あばよ”と切り捨てたのだ。

 シーズン終了1カ月前に信任を約束したはずのジュゼッペ・マロッタCEOは解任理由を「我々が欲しいのは優勝できる監督」と言い放ち、スパレッティの傷口へ塩を塗り込んだ。

 屈辱の業火に焼かれたスパレッティは、その場は黙って身を引いて反撃の機会を待った。秋にマルコ・ジャンパオロ監督を解任したミランから「後任に」と請われたが、インテルが契約を盾に現場復帰を認めなかったため、恨みはさらに増した。

 インテル側は監督の言い分をデタラメだと否定し、両者の関係は泥仕合になっている。

過去を過去と割り切る気にはなれない

 臥薪嘗胆の末、スパレッティは今季からナポリで2年ぶりに現場復帰した。

 そして、開幕12戦無敗を記録して首位快走。敵将としてサン・シーロに帰還した21日のインテル戦は、遺恨を晴らす絶好の機会のはずだった。

 キックオフからフィジカル勝負で拮抗した試合はナポリMFジーリンスキが先制。しかし、シモーネ・インザーギ新監督の指導が浸透しつつあるインテルの攻勢に崩され後半までに3失点……。2−3の逆転負けでリーグ戦初黒星を喫した。

 さらに、後半の接触プレーでピッチを後にしたFWビクター・オシムヘンの左目眼窩及び頬骨の複雑骨折が判明し、攻撃の柱の長期離脱が避けられない見通しとなった。

自らを切り捨てたインテルとの一戦に臨んだスパレッティだったが、逆転間Kで今季初黒星を喫した©Getty Images

 古巣への仕返しどころか返り討ちに遭ったスパレッティは試合後、「私はリベンジなど考えたこともない」と嘯いた。

 だが、苦渋の本音は前日会見での言葉に漏れ出ていたように思えてならない。

「インテルから一方的に別れを告げられたとき、私は何も反論せずそれに従った。しかし、物事には見方というものがある。インテルは、ある監督(コンテ)には総年俸2億4000万ユーロの巨大戦力を用意したのに、もう1人(自分)には総年俸1億ユーロのチームしか与えなかった。2人を比較することは不可能だ。インテルでの経験から私は多くのものを得た。サン・シーロでどれだけブーイングされても、インテリスタたちへ感謝する気持ちもある。だが、私は過去を過去と割り切る気にはなれないのだ」

サッリはスクデットを獲得も1年でお払い箱に

 スパレッティ同様、やはり今季からセリエAに復帰したラツィオ監督サッリに至っては、はっきりと古巣ユーベへの遺恨を隠さない。

 ナポリ時代に高密度高連携の攻撃サッカーでユーベと熾烈なスクデット争いをした彼は、チェルシーでの1年を経て、2019年夏にスタイル革新を欲した“老貴婦人”へ3年契約で招かれた。

 ただし、ジャージと咥え煙草がトレードマークのサッリ親分と、ネクタイ&スーツの常勝クラブは甚だ相性が悪かった。主将ジョルジョ・キエッリーニが束ねるロッカールームからは煙たがられ、フロントもファンも外様の彼に救いの手を差し伸べなかった。

 誰もが羨む“高嶺の花ユーベ”と付き合い始めたはいいが、どうやら相性最悪だったと気づいたサッリ親分は、シーズン開幕後間もない2019年10月、子飼いのスタッフを密かに集めて話し合いの場をもったことを明かしている。

「このまま、わしらのサッカーに固執し続ければ早晩クビにされるのは間違いない。だが、どうせクビになるのなら今ではなく(相手に譲歩しながらでも)何かを勝ち取ってからだ」

 サッリは“勝利以外は無価値”というユベントスの流儀に渋々合わせる形でスクデットを獲ったが、喜びは薄かった。そしてシーズン終了後、予想通り1年でお払い箱にされた。後釜に就いたのは、選手として連覇の基礎を築いたOBアンドレア・ピルロだった。

「わしがスクデットを獲ったときクラブは祝う気すらなかったのに、ピルロが監督だった昨季は4位になった途端、クラブ総出でお祭り騒ぎときたもんだ。ふざけるなと思ったよ。あんなクラブで、まともに指導なんかできるか」

ユベントス戦で指揮を執るサッリ。敗戦後には古巣のファンに向かって捨て台詞も©Getty Images

リベンジマッチは屈辱的な完封負け

 ラツィオでの就任会見で、サッリが真っ先に述べたのが古巣ユーベへの恨み節だった。

 そして、いよいよ迎えた先週末のリベンジマッチは、本拠地のオリンピコで2本のPKを決められる屈辱的な完封負け……。エースFWのチロ・インモービレを故障で欠いたことで苦戦は予想されたが、ユーベ側もFWパウロ・ディバラとDFキエッリーニという攻守の柱を欠いていた。

 国外移動の手間が増え、過密日程化が進む一方のご時世では代表ウィーク明けにベストコンディションの好ゲームはだんだん難しくなっている。

 何とも後味の悪い結果となったサッリ親分は、例によってPK判定に毒づき、ブーイングを浴びせかけた古巣のファンに向かって捨て台詞を残した。

「わしは元からユベントスのファンでも何でもない。あそこで真っ当に働き、スクデットを獲った。それだけだ。ユベンティーノにどう思われようと知ったこっちゃないわい」

 今どき、サッリのような偏屈な指導者は珍しくなった。いつどこのクラブの世話になるかもわからないサッカー界では、グラウンドの外で敵を作らないことも大事な処世術だ。

 だが、勝負の世界にいる以上、監督とクラブの綺麗な別れ方は難しい。

 合意を経て契約サインを交わした日から、本来両者は運命共同体だ。結果が出なければいつでも手の平返しがあると分かっていたとしても、関係が決裂すれば一度は心通わせた相手だけに可愛さ余って憎さ百倍、遺恨が生まれる。

モウリーニョは古巣インテルと初めて相まみえる

 温厚な人柄で知られる名将カルロ・アンチェロッティも、1999年から3シーズン率いたユベントスには「2度と戻らない」と公言しているし、逆にミラン時代の愛弟子ピルロは2010−11シーズン終了後に契約更改を拒み、選手として見限った古巣ミランに対し冷めた感情しか持っていない。

 果たして、幸せな“元サヤ”はあるのか。

 闘将シニシャ・ミハイロビッチが指導者キャリア駆け出しだった頃、ボローニャで初めて正監督となり5カ月限りでクビにされたのは2009年4月のことだ。

 その苦い経験の10年後、2019年1月にミハイロビッチは低迷する古巣からSOSを受け、馳せ参じるや後半戦の17試合で勝ち点30を荒稼ぎしてボローニャを奇跡的残留へ導いてみせた。

 これこそ、自身の過去へ向けた最高の意趣返しだろう。

12月4日にはローマを指揮するモウリーニョが初めて古巣との試合に挑む©Getty Images

 先月下旬、延べ7シーズンを過ごした古巣ローマとナポリ監督スパレッティによる今季初対戦は、0-0の痛み分けに終わった。ナポリは今週末、今もクラブ愛を隠さない元監督サッリ率いるラツィオをホームゲームに迎える。

 12月4日に予定されている注目カードは、ジョゼ・モウリーニョが2010年に遂げた偉業“トリプレーテ”(三冠)”後、初めて古巣と相まみえる「ローマ×インテル」だ。

「どんな監督であっても、勝利とリベンジに飢えている」

 今季開幕前、イタリア代表のコーチングスタッフを辞して、独立を決意したダニエレ・デロッシは、一介の指導者としての矜持を看破した。

 セリエAの因縁対決は連綿と続く。“元恋人”がいなくなることはない。

文=弓削高志

photograph by Getty Images