大谷翔平が所属するロサンゼルス・エンゼルスへの入団合意が報じられた、投打“二刀流”のマイケル・ロレンゼン(29)。'18年、日本から来た規格外の選手によって道が拓かれたもう一人の“2WAY”が語る、大谷の活躍の意義とは。これまで有料公開していた記事を特別に無料公開します。【初出:Sports Graphic Number 1035号(2021年9月9日発売)、肩書などはすべて当時】

 大谷の二刀流は、登板のない日はDHで出場できる、ア・リーグのシステムの利点を最大限活かしている。そういった意味でDH制のないナ・リーグでの二刀流はまた違った難しさがある。シンシナティ・レッズのマイケル・ロレンゼンは、そこにチャレンジしている、もう一人の二刀流だ。

 ロレンゼンは、長打力に定評のある外野手として名門カリフォルニア州立大フラートン校の野球部に入部した。その強肩が指導者の目に留まり、2年目からはクローザーとしても起用されるようになった。投打で名を知られるようになったロレンゼンは、「大谷翔平」の名が知れ渡る前から、プロで二刀流として活躍する、という大きな夢を抱くようになっていった。

「冗談じゃない…」大谷への複雑な思い

 しかし、彼を待ち受けていたのは厳しい現実だった。前途有望な選手として2013年に1巡目でレッズに入団したものの、当然のようにマイナーで二刀流を育てる概念は存在しなかった。ロレンゼンはチームに対して「投打両方をやらせてほしい」という異例ともいえる希望を出していたが、あくまでチームは彼をピッチャーとして考えていた。'15年にメジャーデビューを果たしたあとも状況は変わらず、チームは疲労や故障を理由に、二刀流を許すことはなかった。時折、代打や代走として起用されることはあったが、それは自分が思い描く二刀流とはほど遠かった。

 ところが'17年のオフ、編成担当者から思いがけない連絡があった。

「オオタニという日本の選手がポスティングを利用してメジャーに移籍してくる。レッズも獲得競争に参戦するつもりだ。プレゼン資料で二刀流起用案をアピールしたいから、協力してくれないか」

 ロレンゼンが当時を振り返る。

「冗談じゃない、と思った。僕は5年もアピールしていたのに『無理だ』『不可能だ』と言われ続けてきたから……」

「僕は大谷にとても感謝しているんだ」

 結果的に、要望を断るわけにもいかずチームに協力したが、大谷はエンゼルスに入団することになった。ただ'18年、1年目の大谷が二刀流として目覚ましい活躍をすると、その影響はシンシナティにも及んだ。

 そして、この年の8月13日、ロレンゼンは夢を叶える。9回表から右翼手としてメジャーで初めて守備につくと、その裏に打席に立ち、センター前ヒットを放ったのだ。それは、「アメリカ製」の二刀流が誕生した瞬間でもあった。翌年にはさらに飛躍を遂げ、中継ぎとして83.1回に登板しながら、外野手として89イニングプレーし、9試合で外野手と投手を試合中に兼任した。

「僕は大谷にとても感謝しているんだ。彼が二刀流という夢を貫いて努力してきたおかげで、道が拓けた。大谷がいなければ、レッズが僕に二刀流のチャンスを与えることはなかっただろう」

「大谷は、これから何があっても二刀流を続けていくべきだ」

 そして、二刀流は二刀流にしかわからないことがある。

「大谷はチームの全体打撃練習にはあまり参加しないと聞いているけど、よくわかる。両方をやるためには、実はどちらのトレーニングもやりすぎてはダメなんだ。つまり、日々の過ごし方をシンプルにするということだね。投手として肩と肘のケアを大事にしないといけないのはもちろんだけど、僕は基本的に、投打両方ともやる場合は、どちらかに特化した練習ではなくて、アスリートとしてのトレーニングに重点を置いた方が効率的だと考えている。両方をトレーニングするには時間が足りない、ということもあるけど、そもそもグラウンドでのパフォーマンスは身体能力に任せればいいんだ。大谷は究極のアスリートだから、二刀流をハイレベルで実現しているよね」

 二刀流は怪我のリスクを理由に反対されたり、警戒されがちだ。まさに今季、ロレンゼンはそれに直面している。7月17日の試合に中継ぎとして出場したロレンゼンは、その後外野手として延長11回まで出場を続けたが、試合中に足の肉離れを起こしてしまい、登録抹消となったのだ。すぐに復帰できたものの、レッズは怪我を警戒して、その後、打者としては出場していない。

「怪我したらすぐに『やめたほうがいい、どちらかに集中すればいい』という批判が起きるけど、『ノー、違うよ』と僕は言いたい。怪我は野球選手である以上、仕方がない。大谷は怪我を克服して今年、活躍した。だからこそ大谷は、これから何があっても二刀流を続けていくべきだと思うし、僕もそうありたいと思っている」

 大谷だけでなく、ロレンゼンもまた、二刀流に立ちはだかる常識という壁を乗り越えるべく、必死で戦っている。

文=ブラッド・レフトン

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