文武両道の部活動が増える中で、静岡・聖光学院高校ラグビー部はさらに独自の路線を突き進んでいる。学校生活を含めた1日に密着してみた(全2回/前編も)

 全国のラグビー界を震撼させている高校が静岡市にある。2年ぶり7回目の花園を決めた静岡聖光学院(以下、聖光学院)。「One for All, All for One」という言葉があるほど、チームの連係が重要視されるラグビーで、全体練習が火、木、土曜日の週に3回しかないのだ。

 さらに、練習時間は1時間半で、11月から2月までの冬季期間は1時間に短縮される。聖光学院はラグビーだけではなく、全ての部が週3回の活動となっている。

「意図的に時間の余白を作って生徒がやりたいことを」(副教頭)

 その目的は部活に偏らない「文武両道」。田代正樹・副教頭は、こう説明する。

「意図的に時間の余白をつくって、生徒がやりたいことを選択できるようにしています。部活は学校教育で占める重要なパートですが、競技の技術を上げる以上に、競技を通じて人間的な成長を図ることが大切です。授業や課外活動を通じて、様々な交流や経験を積んでほしいと思っています」

 部活の強い高校では文武両道を謳いながら、実際は部活で好成績を収める生徒と学業に集中する生徒に分かれる「文武分業」となっているところが少なくない。だが、聖光学院のラグビー部員は課外活動に参加したり、部活のない日を勉強の時間に充てたりしている。

企業との共同プロジェクトの課外学習

 聖光学院には企業と共同プロジェクトを進める課外学習がある。今年度、ラグビー部の生徒も参加したのは、地元の惣菜販売店とタッグを組む企画。全校生徒から希望者を募って面接を経て、プロジェクトメンバーが決まった。生徒たちは資金提供を受けて、新商品の企画からプロモーションや販売まで全てを担当した。プロジェクト始動から販売までの期間は約7カ月。2種類の「ご飯の素」を惣菜店の店頭や公式サイトで販売した。

 それぞれの商品を500個ずつ用意し、1種類は完売した。だが、もう1種類は在庫が残った。なぜ、2つの商品で差が出たのか。結果的に、どれだけの収益となったのか。収穫と課題。リアルなビジネスを肌で感じられる。

 田代副教頭は「在庫をどうするのか今、生徒たちは考えています。思い通りにいかない社会経験を積めるのは貴重です。自ら問いを立てて、解決する方法を見つける力を育む環境をつくっていきたいと考えています」と語る。

フランスの学生や英語力をつけるためにオンラインで

 海外を意識した活動にも放課後の時間を活用している。

 第2外国語に日本語を学んでいるフランスの学生と、オンラインで交流を深めている。フランスで人気の俳句をテーマにした合同授業を行ったり、フランスの学生が日本語を習得できるように英語を交えて会話のパートナーを務めたりしている。

 他にもラグビー部の中には、海外の大学入学に必要な英語力を身に付けるために、オンライン講座を受けている生徒もいる。

 聖光ラグビー部が限られた活動時間で結果を出している特徴に「映像の活用」と「ディスカッション」がある。そのスキルを高める秘密が普段の授業に詰まっている。

 練習やミーティングで映像を活用しているのは、映像が身近にあり、そのメリットを理解しているからだ。学校では生徒が1人1台、タブレットを使っている。

 例えば、英語の授業。あるクラスでは、教室のスクリーンに映し出された映画を教材にして、生徒はタブレットで必要な情報を集めている。他のクラスでは、教室を飛び出してショートムービーをつくっている。英語のセリフで演技をする生徒を、別の生徒がカメラで撮影。ディレクターもいる。撮影した映像は、生徒たちで編集してVTRにするという。学年やクラスによって授業の内容は異なるが、映像がそばにある日常は共通している。

フリーアドレスのオフィスのような教室

 別の教室では丸テーブルでグループに分かれた生徒たちがパソコンを操作している。高校の教室とは思えない開放的なしゃれた空間に、「ヒゲダン」の曲が大音量で響いている。プログラミングの授業だ。時々、外部の専門家を招いての講義も開かれているという。

 聖光学院の校舎には、フリーアドレスのオフィスのような教室が多い。教師の話を一方的に聞くのではなく、生徒同士で意見を交わすスタイルが校風になっている。

 ラグビー部の主将・丸尾瑛選手(3年)は「日頃の学校生活から自分の意見を伝えたり、話し合って結論を出したりしているので、コミュニケーション能力が上がっていると思います」とラグビーにもつながる効果を口にする。

 理系に進んでいる平野怜選手(2年)も「グループワークの授業が多いことや、学校に映像設備が整っていることが、部活につながっていると思います。部活の時も自分から意見を言わないとチームメートに伝わりませんし、話し合うのが当たり前になっています」と語る。

美大に進学する主将が勉強したこととは

 丸尾主将は高校卒業後、美大に進学する。花園切符をかけた県大会真っ只中に受験して合格した。主に部活がない日や休み時間に受験勉強していたという。試験には「構想力テスト」があった。社会問題に対して、自分なりの解決策を文字と絵で回答するものだ。

「社会では今、どんな問題があるのかを知っておかないと解けないので、読書などで時事問題の知識を増やしました。イラストやレイアウトの勉強もしました」

 花園出場と美大合格。部活だけの高校生活にならない「文武両道」を体現した。

 こうした先輩の姿を後輩も追っている。2年生の平野選手は中学時代もラグビーをしていた。練習は月曜を除く週6日。週末は3時間みっちり練習した。高校に入って週3回に練習が減り、最初は戸惑ったという。

「練習時間が短くて大丈夫かなと心配でした。ただ、かなりきついと感じたので内容が濃い練習ができているから問題ないと、すぐに思うようになりました。中学の練習も充実感はありましたが、練習が長いと集中力が切れてしまいます。個人的には、短い練習時間の方が合っていると考えています」

「今は勉強を第一に考えています」

 時間を効率的に使えるようになり、グラウンド外でも変化が生まれた。

「1年生の時はラグビーのことばかり考えていましたが、今は勉強を第一に考えています。勉強は、部活でやっているように弱点や課題を明確にして、優先順位をつけるようにしています。3年生の時に花園出場と大学合格の2つを成し遂げるのが目標です。部活は週3日なので、勉強する時間はたくさんあります」

 平野選手は地元の国立大学を目指して、部活のない日は毎日3時間勉強している。部員の中には寮生活でも塾に通っている人もいるという。「全国的に見たら、ラグビーも勉強も、まだまだ上があるので両立していきたいです」とは平野選手の言葉だ。週3回の部活で静岡県の頂点に立った静岡聖光学院ラグビー部。OBには国立大や医学部に進んだ生徒もいる。文字通りの「文武両道」を形にする伝統が引き継がれている。

文=間淳

photograph by Jun Aida