今季パドレス傘下3A(AAA)でプレーした加藤豪将。メジャー昇格を目指す27歳も、来シーズンでプロ10年目を迎える。そんな加藤の「今」に迫るインタビュー。前編では、2013年のMLBドラフト指名から現在までの歩みを振り返りながら、自身が考える「メジャーリーガーとの差」について語ってもらった。(全2回の前編/後編へ)

 衝撃のドラフト指名から9年の月日が経つ。

 2013年のMLBドラフトでヤンキースから2位指名。日本人選手がMLBドラフトの全体100番以内で指名されたのは史上初めてのことだった。

 その男の名は、加藤豪将。マーリンズーパドレス傘下のマイナーチームを渡り歩いた27歳は、21年シーズンの今季、内野手として打率.306、8本塁打、42打点のキャリアハイをマーク。メジャー昇格を射程圏内にとらえたといっていい充実のシーズンを送った。

「今年は自信になりました。成績が良かったことよりも、環境が変わって成績を残せたことがよかったです。13年にヤンキースに指名されて、その後移籍したマーリンズは(元ヤンキースの)ジーターさんがオーナーをされていてコーチの陣容も同じで、“ヤンキース”みたいなチームだった。パドレスは僕も、コーチもお互いを知らない新しい環境でのチャレンジだった。そこで結果を残せたのがよかったです」

2021年シーズンを終え、12月にインタビューに応じてくれた加藤

17時間のバス移動…直面した“マイナーの当たり前”

 環境の変化への対応力――。加藤は2021年シーズンの手応えをそう口にしている。

 選手のパフォーマンスの良し悪しについて、数字ばかりを追いかけてしまうのが報道する側の常ではあるが、この加藤の言葉にこそ、世界最高峰のメジャーリーグで成功することの難しさが語られている。

 ヤンキースに指名されてからこの9年もの間、加藤は非日常的な環境との格闘の日々を送ってきた。

 14、15年シーズンには打率が1割台まで落ち込んだ。加藤は当時をこう振り返る。

「自分では環境の変化に強い方だと、そう言い聞かせてきましたけど、全然違った。17時間のバス移動やお腹が空いている中で(延長戦で)12イニングくらいプレーすることもありました。そんな環境でも、ドミニカやアメリカ人の選手はちゃんとプレーしている。結果も残せる。食事がなくても、寝れてなくても、体の痛みがあっても、最高のパフォーマンスを目指す。本当にそこはすごいなと思います」

「2Aから一気に上がる」マイナーのレベル

 もちろん、メジャーで活躍するためのスキルは必要だ。

 加藤が言うには、ルーキーリーグからHigh A(A+)までのクラスはだいたい同じレベルで、AA(2A)から格段にレベルが上がるらしい。とりわけマイナーリーグの最高峰・AAA(3A)はメジャーと行き来するような選手たちも多く在籍するため、チームメイトや対戦相手はほぼメジャークラスとなる。

「上に上がればスピードが変わります。考えるスピードです。ボールのスピードもありますし、走るスピード、打球のスピードの違いもあります。ゲームが早くなっていく中で考えるスピードも対応していかなくてはいけない」

チームでは主にセカンドを任されるが、一塁や外野を守ることも ©Getty Images

「野球とベースボール」はまったく違う

 加藤はレベルが上がるたびにバッティングレベルを順応させてきた。とはいえ、そのレベルの違い以上に、環境への対応が難しいということである。

 その厳しい環境変化に順応して結果を残していけるかどうかが、メジャーで通用する・しないの境目と加藤は捉えている。

「来年は鈴木誠也選手がメジャーに来ると思うんですけど、違う国でボールも違う、バットも違う、カルチャーも言葉も違う。その中で数字を出そうとチャレンジすることはすごいことなんです。『野球とベースボール同じじゃん』っていう方もいっぱいいると思うんですけど、全然違う。大谷翔平選手がやっていることはめちゃめちゃすごいことなんです」

 マイナーが過酷だと日本では度々報道される。それはつまり食事のことや、加藤が言う長時間移動のことを指すが、結局、そうした環境の厳しさを乗り越えなければ、猛者たちが集うメジャーで活躍することはできないのだ。

 マイナーから叩き上げの選手はそうした経験を積むことで、対応力を身につけていく。

 だからこそ、加藤は日本のプロ野球を経てやってくる日本人メジャーリーガーの凄さを感じるのである。彼らは自分たちとは異なり、叩き上げで身につけたわけでもないのに、野球とベースボールに大きな違いがある中で適応しているのだ。

 鈴木のメジャー挑戦は日本球界にとって一つのターニングポイントになるだろう。

 パワーとスピードを兼ね備えた「メジャー型の選手」との期待が鈴木にはあり、日本での圧倒的な打の成績を引っ提げての挑戦は日本人打者の価値を再評価してもらうきっかけにもなる。

 ただそれはあくまで「成績」と照らし合わせただけのもので、環境変化への対応がメジャーでの成功のカギになるということである。

 加藤は続ける。

「7月半ば、AAAで対戦した筒香(嘉智)選手とお話をさせていただいて、努力されている姿に大変感動しました。ご挨拶に伺うと僕を笑顔で迎えてくださり、メジャーに比べれば劣悪な環境にもかかわらず、その環境に適応し最高のパフォーマンスを出そうと集中されていました」

8月、パイレーツに移籍し、結果を残した筒香。来季のチーム残留も決まった ©Getty Images

 加藤はメジャーに挑戦している日本人選手に対して、物凄いことに常にチャレンジしているとリスペクトしているのだ。

西海岸と東海岸で「野球が変わる」

 そうした中で加藤にとっての今シーズンは環境に対応した1年だった。これが今後への足がかりになる。

「何度も言うんですけど、環境に対応できたのが大きかった。パドレスがあるウェストコースト(西海岸)だと気温が高くて、空気が乾いているので、ボールが飛ぶんです。そのため、投手は変化球、シンカー、ツーシームなど落ちる球を投げる。一方、ヤンキースやマーリンズの時のイーストコースト(東海岸)は高めのファストボールを投げてくる。そこは打っても飛びにくい気候なので、そういう攻められ方をされる。そうした違いがある中で、変化に対応できたのは自信になります」

「それが自分とメジャーリーガーの違い」

 マイナーから這い上がるのは過酷、日本で活躍してからメジャーに挑戦した方がいい。これが一般的なメジャーという舞台の難しさを表現する言葉だろう。しかし、加藤の話を聞けば、ことはそう単純ではないことがわかる。

 どちらが過酷で、どちらが楽ということはない。

「環境が変わってもちゃんと数字を残したいですね。そこが一番大事なことだと思います。それが自分とメジャーリーガーの違い」

 10年目の来季こそ、加藤はメジャーリーガーの仲間入りを果たす。(後編につづく)

文=氏原英明

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