2021年シーズンのオフは、エンゼルス大谷翔平投手(27)の表彰ラッシュとなった。11月18日(日本時間19日)、最も注目された全米野球記者協会(BBWAA)の投票によるリーグMVPを、満票で文句なしの受賞。その後、29日(同30日)にはDH(指名打者)最強の称号「エドガー・マルティネス賞」を初めて受賞した。ベーブ・ルース以来、100年ぶりの二刀流としてシーズンを完走。メジャーを代表する選手に成長しただけでなく、野球界全体の顔となった。

二刀流でシーズンを完走し、リーグMVPに輝いた大谷翔平 ©Nanae Suzuki

 一方で、「スポーツ界の顔」には選出されなかった。12月7日(同8日)、米大手スポーツ雑誌のスポーツ・イラストレイテッドが選出する「スポーツパーソン・オブ・ザ・イヤー」が発表され、NFL(プロフットボール)のスター選手でバッカニアーズのトム・ブレイディ(44)が選ばれた。大谷は候補に挙がっていたが落選。全米が注目するビッグイベント、2月のスーパーボウルを制し、5度目の同大会MVPに選出されたブレイディが、今年のスポーツ界の顔だった。

 MLB、NFL、NBA(プロバスケットボール)、NHL(プロアイスホッケー)が米4大スポーツとされるが、中でもNFLが圧倒的人気を誇る。ブレイディは当時43歳で、自身が持っていた史上最年長MVPの記録を更新し、弱小だったバッカニアーズを頂点に導いた。また、スーパーボウルは毎年、中立地で行われるが、今年は偶然にもバッカニアーズの本拠地フロリダ州タンパで行われた。歴史的な一戦でMVPを獲得したレジェンドの偉業に全米が沸いた。その功績が、「スポーツパーソン・オブ・ザ・イヤー」として認められた形だ。

今年の「スポーツパーソン・オブ・ザ・イヤー」を受賞したトム・ブレイディ

あのバーランダーの弟が異論

 しかし、この結果に異を唱える声が上がった。FOXスポーツのアナリストで、アストロズのジャスティン・バーランダー投手(38)の弟、ベン・バーランダー氏はツイッターで、「同意しない。ショウヘイ・オオタニが唯一、ふさわしい」とつづった。

論争も勃発「この世界で誰が、彼より優れているのだろうか」

 また、NFLネットワークのキャスター、クリス・ローズ氏は、自身のYouTube番組で、MLBパイレーツのスティーブン・ブロート投手(29)と対談。2人は熱くこう語っていた。

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ローズ氏 私はショウヘイであるべきだと思っていた。

ブロート投手 僕もそう思う。トム・ブレイディのやったことは確かに素晴らしいこと。だが、ショウヘイがやってきたことというのは、長年、成し遂げられなかったことで、さらに彼はそれを簡単にやっているようだった。どれだけ投打で彼が優れていたか。

ローズ氏 この番組で、(レイズの)グラスノー投手も言っていたんだ。「他の誰が、彼と同じリーグでMVPをとれるのか、僕は分からないよ」と。ショウヘイがもし、通常の投手の成績で、例えば22試合の登板で防御率4.00、打者では33本塁打としよう。

ブロート投手 それでも、素晴らしい。

ローズ氏 いったい、この世界で誰が、彼より優れているのだろうか。彼が、スポーツパーソン・オブ・ザ・イヤーだったと思う。

ブロート投手 賛成だね。

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メディア、ファン、野球界以外からも高く評価された大谷翔平

 大谷は今季、投手で9勝2敗、防御率3.18、打者では打率2割5分7厘、46本塁打、100打点の好成績を収めた。FOXスポーツのラジオ番組もブレイディ選出の結果に異を唱え、「スポーツ・イラストレイテッドはなぜ、トム・ブレイディをスポーツパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ぶ間違いをしたか」と題し、白熱したトークを展開した。2人の司会者は共に、ブレイディの代わりに大谷がふさわしかったと主張。番組のコメント欄には、もちろんブレイディの受賞を支持する声もあるが、ファンの1人は「私は野球好きではないが、大谷であるべきだった」と書き込んでいた。メディアだけでなく一般のファンからも、大谷がスポーツ界の顔として選ばれるべきとの意見が寄せられるほど、二刀流の功績は価値が高かったと言えるだろう。

受賞を“逃した”ことが話題になるほどの活躍を見せた2021年の大谷 ©Nanae Suzuki

止まらない大谷の“受賞ラッシュ”

 とはいえ今季、大谷の成し遂げたことは野球界やその他の業界でも高く評価されてきた。レギュラーシーズン終了後の10月、野球専門誌は続々と大谷をMVPに選出。「ベースボール・ダイジェスト」では野手部門の最優秀選手、「ベースボール・アメリカ」ではプレーヤー・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀選手)に日本人で初めて選出された。スポーツ専門メディアの「スポーティング・ニューズ」でも、年間最優秀選手に輝いた。

 また、MLBのマンフレッド・コミッショナーからは特別表彰として「ヒストリック・アチーブメント賞」を授与され、二刀流の功績をたたえられた。その直後には、大リーグ選手会主催の「プレーヤーズ・チョイス賞」で年間最優秀選手とア・リーグ最優秀野手をダブルで受賞。さらに打撃のベストナインに相当するシルバー・スラッガー賞に続き、オールMLBチームにDH部門でファーストチーム(ベストナイン)、先発投手部門ではセカンドチーム入りするなど、表彰ラッシュは止まらなかった。

FTXのアンバサダー就任はどれほどスゴイ?

 MLBの顔としては、既にシーズン中から推されており、6月下旬には、米ニューヨークのMLBオフィスの壁に大谷の特大写真が掲げられた。メジャー4年目で、パドレスのタティスJr.ら6選手と並ぶ、MLBを代表する選手に成長。7月中旬のオールスターには史上初となる投打の二刀流で出場した。そのプロモーションとして、大谷に特化したCMも作成された。野球界は、約1世紀ぶりの二刀流のパフォーマンスを惜しみなく称賛していた。

 スポーツ界全体の顔には選ばれなかったものの、金融業界では“国際アンバサダー”として任命された。11月16日、暗号資産(仮想通貨)取引所のFTXが大谷と長期的なパートナーシップを結んだことを発表。大谷を「グローバル・アンバサダー」として、FTXブランドやデジタル資産への認識を世界規模で高めていく方針を示した。ショウヘイ・オオタニが世界的に、野球界の顔となった証拠だった。FTXのアンバサダーにはブレイディや、NBA選手のステフィン・カリー(ウォリアーズ)らも名を連ね、米4大スポーツのスーパースター達とも肩を並べるほどになった。

NBAスターのステファン・カリー

 シーズン中、NFLやNBAのスター選手は二刀流の功績をたたえ、ツイッターなどのSNSで大谷のすごみを表現した。注目はもはや、野球界にとどまらないことは間違いない。野球の枠を超え、「スポーツパーソン・オブ・ザ・イヤー」に輝く日も、そう遠くないだろう。

文=斎藤庸裕

photograph by Getty Images