今季、大谷翔平がメジャーリーグの範疇を超えるほどの活躍を見せたことで、当然のように多くの米メディアの注目も集めることになった。中でも他の誰よりも大谷びいきなことで知られるのが、「FOXスポーツ」のアナリストを務めるベン・バーランダーだ。名前を聞いてピンとくる野球ファンは多いはず。現役最多の通算226勝、サイ・ヤング賞2度というスーパースター、ジャスティン・バーランダーの実弟である。

このバーランダー氏の大谷への傾倒ぶりは半端なものではない。ソーシャルメディア上では頻繁に大谷についてコメントし、自身のツイッターのプロフィールに「大谷翔平大好き」と日本語で書き記しているほど。その熱意ゆえに最近では日本メディアへの露出も増えたため、姿を見たことがある人も多いだろう。

バーランダー氏はいったいなぜこれほど大谷に魅せられているのか。今季の活躍を振り返りつつ、“2-way monster(二刀流の怪物)”の魅力を改めてじっくりと語ってもらった。

 今季の翔平は“アンビリーバブル”としか形容しようがないシーズンを過ごしましたね。40本塁打以上、26盗塁をマークし、9勝を挙げるなど投手としての成績も素晴らしかった。

 後半戦では四球で歩かされることが増えたのは残念でしたが、まともに勝負してもらえていれば、あと15本くらいはホームランを打ったんじゃないでしょうか。1人の選手によるこれほどの活躍は、誰も目の当たりにしたことがなかったはずです。

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 先日、今季の自分のツイートを振り返っていたときに、3月の時点で“翔平がMVPを獲得するかもしれない”と予言していたことを思い出したんです。投手としては100マイルの速球が投げれて、打者としてもとてつもない能力を備えていることはわかっていました。これまでは健康体でシーズンを過ごせていなかった。開幕前の時点で、焦点は1年を怪我なく過ごせるかどうかだけであり、それさえできればMVPだって十分手が届くと感じていたんです。実際にその通りになりましたね。

 今春の翔平は体調が良さそうでしたし、加えてこれまで以上にハッピーに見えました。昨季までの彼は週1度の登板、その前後は休みといったスケジュールをこなすことで不自由さを感じているように見えました。おそらくそれは彼が本当にやりたいことではなかったし、今季のように自由に、自分らしく、楽しみながらプレーすることで、メジャーで最も才能ある選手の能力が解放されたんでしょう。管理しすぎるよりも、今年のやり方の方が力を出せることはすでに証明されたと思います。

熱狂的ファンが選ぶ「今年のベストモーメントは?」

 翔平の今季は多くのハイライトに満ちていますが、ベストモーメントを選ぶとすれば、8月18日、デトロイトでのタイガース戦でしょう。投手として8回を投げ切り、打者として40号本塁打を打ったあのゲームです。

 タイガースのミゲール・カブレラが通算500号を打つかどうかが注目されていて、実際にカブレラは大谷からウォーニングトラック(外野フェンス際の芝のない箇所)まで届く大飛球を飛ばして期待を持たせてくれました。ただ、最後に今季の中でも最長クラスのホームランを放って、敵地のファンまで興奮させたのは翔平の方でした。それと同時に8回8奪三振1失点と今季ベストに近いピッチングで魅せたんだから、もう言葉がありません。翔平の魅力と凄さが詰まったゲームでした。

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なぜ大谷翔平に魅了されたのか?

 なぜこれほど翔平に魅了されたか? それには私自身のバックグラウンドが影響しているのだと思います。実は私もカレッジ、マイナーリーグでベースボールをプレーし、カレッジでの最初の2年間は投打両方をやろうとしたんです。ただ、それは非常に難しく、両方とも中途半端な結果しか残せませんでした。見本にすべき選手もいなかったし、どちらにも同じだけの時間をかけて準備するのは本当に難しいことでした。

 結局、二刀流は諦めて野手に専念し、おかげで打者としては向上できて、ドラフトで指名を受けました。それから時は流れ、現在、翔平は私が不可能だと思ったことをやり遂げているのです。だからこそ、感情移入してしまうし、彼の成功をとても喜んでいます。

 フィールド上で高いパフォーマンスを見せるために、彼が舞台裏でどれだけハードに準備しているかは容易に想像できます。簡単なことではないし、これほどの結果が出たことがハッピー。今季の活躍はメジャーリーグでも永遠に語り継がれていくでしょう。翔平はベースボールを変え、多くの選手たちに新しい希望を与えたんですよ。

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日本のファンにとって翔平がどれほど大きな存在か

 翔平を頻繁に取り上げることで、私自身が日本メディアから注目されるようにもなりました。少し驚きましたが、気持ちは分かります。翔平にフォーカスしたアメリカ人のメディアはたぶん私が初めてでしたからね。

 フィールドでのパフォーマンスの素晴らしさだけでなく、その裏にある彼の膨大な準備について話すように努めてきました。日本のファンにとって翔平がどれほど大きな存在かは理解できましたし、私自身にとっても本当に重要な選手になりました。どれだけの情熱を持って彼を追いかけているか、その活躍にどれだけ感謝しているか、日本のファンもわかってくれたのだと思っています。

 7月、デンバーで開催されたオールスターの際、翔平に初めて対面することができました。とてもクールな経験でした。もうかなり翔平の話をするようになっていたから、オールスター取材に行って、彼が出場するのであれば、ぜひとも対面しなければと心に誓っていたんです(笑)。

 望み通りにインタビューが叶い、握手を交わしました。彼がベースボールというスポーツに対してやり遂げたことに感謝の言葉を伝えました。私の兄ジャスティンは9歳年上で、兄と一緒に11、12歳の頃から多くの選手と対面してきましたが、翔平と会えたことはこれまででも最高の瞬間だったと思っています。

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 兄のジャスティンともよく翔平の話をしますよ。兄もまた今季を通じて翔平を非常に高く評価していました。兄が話していた中で記憶に残っているのは、“大谷にはいくつか苦手とする球種、コースがあるけど、すぐに適応してくるから、アウトにとるのは難しい打者だ”ということ。兄には早く故障から復帰して、また翔平と対戦して欲しいと願っています。そうなったら最高ですよね。ただ、実際に対戦の瞬間がきたらどちらを応援したらいいかわからないので、目を背けるかもしれませんが(笑)。

10年後には“史上最高のベースボールプレーヤー”に…?

 今後、翔平がいつまで二刀流を続けられるかは私にもわかりません。二刀流の鍵は健康な体を保てるかどうか。その能力に疑いの余地はないので、彼自身ができると感じているのであれば、ずっと続けられるんじゃないかと思います。もちろんいつかは「今後は打者だけで」「これから先は投手に専念する」と考える日が来るのかもしれません。私が楽観的になっているのかもしれませんが、少なくともあと数年は継続できると思いますし、できればもう10年くらい続けて欲しいです。翔平には不可能なことじゃないでしょう。

 さっきも話しましたが、今季の翔平は“史上最高のシーズン”を過ごしたと考えています。これをもうしばらく続けて、10年に近づいたとしたら? そうなったら本当にすごいことになりますね。毎年、MVP候補になるのは難しいとしても、似たようなプレーを継続し、ベースボールを変えてしまったら……。10年後には“史上最高のベースボールプレーヤー”と称されるようになっているかもしれません。

文=杉浦大介

photograph by Daisuke Sugiura