J1を連覇した川崎フロンターレ。その攻撃サッカーの土台を築いたのが風間八宏(60歳)だ。その風間は日本代表の戦いぶりをどう見ているのか? 注目するのはセンターバック吉田麻也(33歳)とセンターフォワード大迫勇也(31歳)の“距離”だという (全2回の1回目/大久保嘉人編へ続く)。

 日本代表はこんなもんじゃない――。サポーターやメディア以上に、選手たち自身が感じていることだろう。

 リバプール、アーセナル、サンプドリア、シュツットガルト、ゲンクといったヨーロッパにおけるトップクラブや中堅クラブに所属する選手を擁しながら、日本はW杯予選で2敗を喫し、本大会出場が危ぶまれている。

 いったい日本代表の問題はどこにあるのか? それを紐解くのに参考なりそうなのが、発売された『風間八宏の戦術バイブル』(幻冬舎)だ。

「攻撃の良し悪しは、『相手のセンターバックを攻撃できているか』を見ればわかる」
「ビルドアップで大事なのは、相手を囲めているか」

 新たな風間語録を連発して、ヨーロッパのトップクラブの戦術、川崎フロンターレや名古屋グランパスのチーム作り、そして現在進行中のセレッソ大阪アカデミーにおける挑戦を解説している。

 日本サッカー界に新たな概念を提案し続けてきた指揮官は、今の日本代表をどう見ているのだろう? 風間八宏(60歳)に話を聞いた。

2012〜2016シーズンまで川崎フロンターレの監督を務めた風間八宏。王者フロンターレの土台を築いた ©BUNGEISHUNJU

「吉田から大迫までの距離がチームの枠を決める」

――風間さんは著書『風間八宏の戦術バイブル』の中で「センターバックを見れば、次に何が起きるかわかる」といったサッカーの見方について解説していますね。今の日本代表を見るときは、何がポイントになりますか?

「今の日本代表は『距離』に注目するといいと思います」

――距離とは?

「日本代表がリズム良くプレーできているときというのは、『DFからFW』までの距離が短く、いわゆる狭い距離感でプレーできているときだと思います。

 一方、リズムが悪いときは、たいてい『DFからFW』までの距離が遠くなってしまっている。

 その結果、『DFからMF』と『MFからFW』の距離も開いてしまい、その間でパスを受けられてしまっているという感じです」

――「距離」とは、どこを測ればわかるのでしょう?

「まずは吉田麻也選手から大迫勇也選手までの距離。これがチームとしての枠を決める。

 さらに枠の中に目を向けて、吉田選手から遠藤航選手までの距離、遠藤選手から大迫選手までの距離ですね。それらを見ると、プレーの良し悪しの理由がわかると思います」

©AFLO

「狭い距離のとき、日本人の武器が発揮される」

――リズムが良い=狭い距離のプレーということですが、その理由を教えてください。

「たとえば、輪になってパスを回す『ロンド』と呼ばれる練習がありますよね。輪に立つ選手がたくさんいると、内側にいる鬼役はボールを奪うのが難しくなります。それと同じで、ピッチ上で味方が近くに複数いると、パスコースを多く作れます。

 もちろん狭いエリアに人が集まって密集すると、プレー毎に許される時間が短くなり、ボールを止める正確性や、体を操る俊敏性が求められます。まさにそれらは日本人選手の長所ですよね。

 狭い距離でサッカーをできているときは、日本人選手の武器が発揮されやすく、相手の陣形をしっかり崩すことができる。

 そうすると、たとえボールを失っても、相手の陣形をバラバラに壊せているので、相手にとってパスコースが限られており、すぐにボールを奪い返せるんですよ。

 吉田選手から大迫選手までの距離が近いときは、そういうサッカーをできていると思います」

――ではリズムが悪いとき、すなわち遠い距離でプレーしているときは?

「味方同士の距離が離れると、パスコースが限られ、人と人がつながらない状態になる。チームが分断されて、ボール保持者が孤立してしまうんですね。パスを受けてもパスの出しどころが少なく、相手に追い詰められやすい。

 また、相手の陣形を崩せないことが多く、ボールを失うと、危険なカウンターを食らいやすい。後ろが孤立した状態で、相手の攻撃を受けてしまいます」

なぜ“デュエルキング”遠藤航の強さが出ない?

――遠藤選手は昨季のブンデスリーガで1対1の勝利数が最も多い「デュエルキング」でした。その強さがW杯最終予選でなかなか発揮されていない印象があります。なぜでしょう?

「それこそ中盤の距離が離れているからだと思います。吉田選手からの距離、もしくは大迫選手までの距離ですね。

 ただ、どのシステムにもメリットとデメリットがあります。広がることの利点もあるのがサッカーのおもしろさでしょう」

――著書ではピッチを広く使えているチームとして、リバプールをあげていますね。日本代表の場合、広がることの利点は?

「相手も広がるので、サイドに場所が生まれやすくなる。それによって伊東純也選手、浅野拓磨選手、三笘薫選手のようなドリブルが得意なタイプが生きやすくなる」

――確かにこの3人はW杯最終予選で、決定的な仕事をしていますね。

「広がっているので、サイドにドリブルを仕掛けられる場所と時間があるからです。ただ、そこを止められたときは、他の手が必要になることは言うまでもありません。

 三笘選手などは狭いところでのプレーも得意なので、チームとして縦にも横にも近い距離でやると別の良さも出てくると思います。

 一昔前は『守備で狭く、攻撃では広く』と言われましたが、最近は『守備も攻撃も狭く』という考え方が生まれてきている。本にも書きましたが、ナーゲルスマン率いるバイエルンが好例です」

では、どうすれば日本代表の“距離は狭く”できる?

――今の日本代表は縦方向の距離が狭いときもあれば、広いときもあり、それが好不調の波に影響しているということですが、もし常に距離を狭くしたかったら、何を意識すればいいのでしょう?

「一般論として、自分たちのボールになったとき、最初にアクションしなければならないのはセンターFWです。センターFWが裏への飛び出しやパスを引き出す動きによって、敵センターバックに揺さぶりをかけられると、相手の陣形が歪みます。するとスペースが生まれ、味方が攻撃しやすくなる。

 一方、相手ボールになったとき、最初にセットしなければならいのはセンターバックです。そこの位置が決まらないと、他の選手は誰を捕まえるか、どこに戻るか定まりません。

 センターバックがしっかりセットしてくれると、味方も見えるし、敵も見えるようになる」

――センターバックがセットするというのは、具体的にどんな動きなんでしょうか。

「縦の距離を決めるうえで大事なのは、ただ単に味方同士で上がる、下がるというだけじゃなく、相手センターFWを動かすことが重要です。

 吉田選手と冨安健洋選手がセンターバックを組んでいたとしたら、当然1人でやってもダメで、2人でやらなきゃいけない。

 たとえばパスが出てくる前に2人でDFラインを上げ、相手センターFWをオフサイドポジションに置き、こちらのゴールに対して背中を向けさせる。その駆け引きを細かくできると、縦の距離を狭く保てます」

「ポスト大迫」と聞かれても…

――日本代表のエースは大迫選手ですが、チームとしてW杯最終予選で苦しんでいることもあって、世代交代を期待する声も高まっていると思います。将来的に日本にはどんなタイプのセンターFWが必要になってくると思いますか?

「それを考えるには、チームの方針をまず決めなければならないと思います。監督ごとにサッカーが変わり、旬の選手が出るみたいな感じになると、どんな選手が必要なのかを定義するのは、すごく難しい」

――つまり「ポスト大迫」と聞かれても、日本代表としてのスタイルが定まらないと答えようがないと。

「そうですね。どんな距離でサッカーをし、主にどのエリアでサッカーをするかをはっきりさせると、どんなセンターFWが必要かもはっきりしてくるはずです。センターバックからFWまでの距離が25mなのか20mなのかで、求められる技術が大きく変わります」

――では、狭い距離でのサッカーを選択したとしたら、どんなセンターFWが必要ですか?

「狭い中でも、敵ゴールに顔を向けてプレーできるFWですね。

 クロスの局面では、横からボールがくるので、どんなFWでも比較的簡単に敵ゴールに顔を向けてプレーできます。

 差が出るのは、自分の後方からパスが来る局面です。駆け引きによって相手を動かし、前向きで受けられる状況を生む個人戦術が必要になってきます。

 FWが試合で何回敵ゴールを向いてプレーできたかを数えれば、そのFWの力量を測れるでしょう」

――著書ではその達人として、レバンドフスキをあげ、センターバックに揺さぶりをかける4つの方法を解説していましたね。

「レバンドフスキは相手の背中を取るのが抜群にうまい。DFが背中を取らせないように警戒しても、相手に向かって走って突然方向を変えたりして、どちらかに顔を向けさせ、背中を取ってしまう。

 ボールを見る必要がないときに、ボールから目を切って周囲を見るのも得意で、相手がボールウォッチャーになってる間に背中側に回り込む。こういうFWがいると、相手のフォーメーションを壊しやすくなります」

<大久保嘉人編に続く>

文=木崎伸也

photograph by AFLO