2021年、MLBを大いに沸かせた大谷翔平の「リアル二刀流」の大活躍。2022年は、それが日本の大学球界でも見られるかもしれない。

 そんな期待がかかるのが日本体育大(以下、日体大)の3年生・矢澤宏太(やざわ・こうた)だ。

 12月上旬に行われた侍ジャパン大学代表候補選手強化合宿。同合宿で矢澤は初日から稀有な存在感を放った。

 矢澤は投手としての練習メニューをひと通り終わらせると、フリー打撃に参加。両翼99.1m、中堅122mの愛媛・松山の坊っちゃんスタジアムで柵越えの当たりを見せると、50m走では光電管による測定で5秒80を記録。柵越えの本塁打を放ったのは野手25人の中でも3人しかおらず、50m走にいたっては大学球界の猛者が揃う中での全体トップだった。

 2日目の紅白戦は外野手として出場し3打数1安打。凡退した場面でも、俊足で内野手の失策を誘ったり、ドラフト上位候補に挙がる白鴎大の大型左腕・曽谷龍平の初球からスイングしライトへ大飛球を放つなどまずまずの内容だった。

3日目は先発のマウンドへ

 そして3日目の紅白戦では先発のマウンドに上がり、立ち上がりから快調に飛ばした。

 この日最速147キロのストレートと縦横2種類のスライダー、チェンジアップで初回から三者連続三振を奪う。続く2回は打たせて取る投球で三者凡退に抑え、1人の走者も許さない完璧な投球を見せた。

 また登板前にキャッチボール相手を務めた坂口翔颯(国学院大・1年)は「矢澤さんのボールは伸びがすごいし、コースもブレませんでした」と目を丸くするなど、周囲の選手に衝撃を与えた。

 投手か? 野手か?

 あらためて、その議論が巻き起こりそうな代表合宿だったが、日体大で矢澤を3年間指導してきた指導陣はどう見ているのか。

 まず指揮を執る古城隆利監督に見解を問う。

「僕は投手ですね。下級生の時は主に外野手として出場していて当時から既に欠かせない野手でした。でも左腕で最速150キロを投げられて完投能力もある。身長は高くない(173センチ)ですが、(リリースで)あれだけ上から叩ける投手はなかなかいません」

 ただその前に「どちらかと言えばですが」という言葉を付け加える。「体の使い方が上手だからバットのヘッドを使ってカーンっと打球を飛ばせます」と打撃も高く評価しており、2022年も投打二刀流での起用を想定している。

日体大・古城隆利監督 (c)Mamu Takagi

元中日・辻コーチは?

 投手指導を一任され松本航(西武)らを多くの好投手を育ててきた辻孟彦コーチ(元中日)も二刀流挑戦をプッシュしている。

「4年生になっても矢澤を投手としても打者としても出したいと思っています。彼にしかできない様々な可能性がありますから」

 そう話した上で、「もしプロに入って投手をやらないのだとしたらもったいない」と、投手・矢澤の魅力について力を込める。

「あのキレのスライダーはそう簡単に投げられるものじゃありませんし、すべての変化球で腕が振れて、決め球にもなるし、ボールが先行した時にカウントを整える球にもできる。この冬は、まだ日によってムラがあるストレートの精度を磨こうと話しています」

日体大・辻孟彦コーチ (c)Mamu Takagi

 大学2年時までは、首都大学リーグで野手として23試合に出場し24安打を打っていた一方で、投手としては3試合8イニングのみの登板だった(2年春はリーグ戦中止、2年秋はリーグ戦5試合制の開催)。だが、これは計画通りだったと矢澤自身が振り返る。

「下級生時は体作りや投手としての基礎の部分をしっかりやって、3年生から本格的に投げ始めるという計画で進んでいたので、ある程度計画通りにここまで来られています」

 あくまで投手としての計画をしっかりと進め、野手としての練習は先日の合宿初日と同じく投手としてのメニューを終えてから打撃練習に参加する程度。野手として出場するリーグ戦の前日でもウェイトトレーニングをみっちりと行い、目の前の試合だけでなく将来を見据えて練習メニューを組んでいた。

 3年時からは本格的に投打両方での起用が主となり、成績は3年春こそ3勝2敗(防御率0.90)の一方で打率.182と苦しんだが、秋は3勝2敗(防御率2.00、3完封)、打率.300と投打両面で結果を残している。

 矢澤は「小学生時代から(投手と野手)どちらもやるのが当たり前でしたし、そこまで特別なことをやっているという感覚はありません」と、あっけらかんとしているのが頼もしい。

 バッテリーを組む主将の打田啓将も「普段は子供っぽく気さくな感じですが、試合では頼もしい。ピンチでマウンドに行くと矢澤は“三振取ろっか”と言って、本当に三振を奪ってしまうこともあります」と、堂々とした姿に同級生ながら感心している。

 今回の合宿でも初めてバッテリーを組んだ野口泰司(名城大)と話し合い「6人全員から三振を取りに行こう」と決めて三者連続三振を取り、2回の先頭打者は凡打となった段階で、「打たせて取ることに切り替えました」と変幻自在な投球をしてみせた。

 大谷についての質問は常々「レベルが違いすぎるので比べるのも失礼だと思います」と受け流すが、投打二刀流については「“二刀流だから”ではなく投手・野手それぞれで観てもドラフト1位で呼ばれるというレベルを目指しています」ときっぱり話す。

日体大・矢澤宏太(3年)(c)Mamu Takagi

 冷静さと情熱を場面に応じて使い分けられるのは、その確固たる信念ゆえだろう。2022年も矢澤は、誰にも流されることなく、自ら信じた道を突き進んでいく。

文=高木遊

photograph by Yu Takagi