雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は東京オリンピックにまつわる言葉と名シーンの数々です。

<名言1>
やっぱりオリンピックは特別なの。
(長嶋茂雄/NumberWeb 2021年7月24日配信)

 東京五輪の開会式をめぐっては、楽曲の作曲を担当していた小山田圭吾氏が辞任、演出を担当するショーディレクターだった小林賢太郎氏が解任になるなど直前のタイミングで大きな騒動に。無観客で開催されるイレギュラーな事態の中で、五輪は開幕の時を迎えた。

競技せ詰めのピクトグラム ©JMPA

 開会式では「君が代」を歌手のMISIAが熱唱。ピクトグラムによる競技説明、森山未來や市川海老蔵らが登場したが……最も話題を呼んだのは、各国の入場行進曲でゲーム楽曲が数多く使用されたことだろう。特に今年逝去した、すぎやまこういちさんの『ドラゴンクエスト』シリーズのテーマは、日本だけでなく世界でも大きな話題となった。

入場ではカザフスタンの“お姫様”も話題に ©Getty Images

 そして聖火リレーでは野村忠宏さんと吉田沙保里さん、そこから王貞治ソフトバンク球団会長と長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督に、長嶋さんの愛弟子である元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜さんがつなぎ、大坂なおみが最終ランナーとなった。

最終ランナーとなった大坂 ©JMPA

 冒頭の言葉は長嶋さんが2018年に語っていた五輪への意欲だ。「何らかの形で関わることができたら、自分にとっても最高の人生になるね」とも語っていたミスターも、コロナ禍は予測できなかっただろうが――激しいリハビリに取り組み、大役を務めた。

圧倒的な強さを見せた柔道家の言葉

<名言2>
燃える気持ちしかなかった。妹に良いパワーをもらった。
(阿部一二三/Number1032号 2021年7月29日発売)
<名言3>
いつも私の前を走ってくれて、ずっと引っ張ってくれている存在です。
(阿部詩/Number1032号 2021年7月29日発売)
<名言4>
柔道家として道は続いていきますし、人生は一生修行だと思っています。
(大野将平/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言5>
僕の持ち味は、しぶとい柔道です。
(ウルフアロン/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)

阿部詩と阿部一二三の兄妹 ©JMPA

◇解説◇
 2021年夏の東京五輪で、最も視聴者を興奮させた競技を挙げるなら――柔道だろう。

 男子が5つ、女子が4つで計9つの金メダル。銀メダル2つ、銅メダル1の計12個は、同競技2位のフランスのメダル数8(金2、銀3、銅3)と比べても図抜けている。

 ストーリー性も抜群だった。阿部詩・一二三の2人が史上初となる兄妹同日の金メダルを獲得すれば、井上康生監督をして「私が見てきた中でも最強の柔道家」と言わしめた大野が圧倒的な実力でライバルをねじ伏せていった。

相手の健闘を称える大野 ©JMPA

 そして驚異的なスタミナで延長戦に入って「ウルフタイム」との言葉を定着させたウルフアロン、“アリ地獄”とも評された寝技の女王・濱田尚里らもストロングポイントを出しきった。

 そんな多士済々のメンバーを率いる男子・井上監督や女子・増地克之監督の指導力や求心力にも注目が集まったのも当然のことだった。

体操・橋本の新王者誕生、キング内村は……

<名言6>
何やってんだバカ、という感じ。それ以上でも以下でもない。自分のせいなので、何も言い訳はしません。
(内村航平/Number1032号 2021年7月29日発売)
<名言7>
チャンピオンは涙を流さず、前だけを見ているものだという考えをもっていきたい。
(橋本大輝/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)

◇解説◇
 ニッポンのお家芸・体操。大きく報じられたのは内村と橋本の演技だった。

転落したとはいえ、高難度の技を連続成功させた内村の技量はさすがだった ©Getty Images

 誰もが言葉を失ったのは体操男子予選でのこと。鉄棒一本に懸けた内村は、超高難度の大技からの離れ業を連続して成功。さすがの技量を見せた……はずが、まさかの落下。内村にとって4度目の五輪挑戦は事実上、この瞬間に終わった。

「自分としては代表が決まってから強い気持ちでやってきたつもりでしたが、本当にそのつもりだったのか」

 内村は自らを厳しく責めた。「ショックだった」(谷川航)、「航平さんの失敗は合宿でも見たことがなかった」(北園丈琉)と話したようにショッキングな出来事だったのは間違いないが――それを払拭するような「美しい体操」を橋本が見せて、個人総合と種目別鉄棒で金メダルを獲得したのは、体操ニッポンにとっては大きな光となった。

橋本の演技 ©JMPA

 なお、橋本は団体戦で銀メダルを獲得。しかしROCにわずかに上回られた結果を受けて、このように語っている。

「人生で本当にうれしい瞬間とは、言葉では言い表せないものだと感じた。でも、やっぱり団体のみんなで表彰台の一番高い段に上りたかった。ここで涙を流してしまうと今の状態に満足してしまうことになる」

 長年にわたってエースを張り、世界の頂点に立ち続けた内村も、団体戦への思い入れは人一倍だった。体操界のキングを継承するために、橋本ならさらにその心技体を磨き上げることだろう。

女性アスリートたちが見せた凛々しい戦いぶり

<名言8>
泳ぎながら、「あ、これ、オリンピックで泳いでいるんだな」と考えていました。うれしく、不思議な感じでした。
(大橋悠依/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言9>
ただ必死に、がむしゃらに戦って、その気持ちを福島に置いて帰れるようにしたい。
(上野由岐子/Number1032号 2021年7月29日発売)
<名言10>
最後は2人笑って終わろう。
(川井友香子/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言11>
私1人だとできることも限られてくるが、友香子と2人で何ができるかを考えあった。
(川井梨紗子/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言12>
私は器用な人間じゃないので、仕事をやるなら仕事に集中したいですし、ボクシングだったらボクシングのことだけを考えていたい。
(入江聖奈/NumberWeb 2021年9月16日配信)

◇解説◇
 東京五輪では女性アスリートの清々しく、たくましい戦いぶりも目立った。

大橋の泳ぎ ©JMPA

 今大会ではやや苦戦を強いられた競泳だったが、大橋は200m、400m個人メドレーの金メダリストとなった。大学時代に出場した日本選手権で最下位の40位に終わったアスリートが、世界一になったことに勇気をもらったスイマーも多いだろう。

上野の鬼気迫る表情 ©JMPA

 13年越しで2つ目の金メダルを掴んだのは上野。「上野の413球」と評された2008年北京五輪後から、野球・ソフトボールが実施競技から外れ、五輪の1年延期まで味わった。それでも39歳となりながらも主戦ピッチャーとしてマウンドに立ち、次世代のエース候補・後藤希友とともに宿敵アメリカを再び撃破した。

 レスリング・ボクシングでも印象的な戦いが数多かった。川井姉妹はケンカすることがありながらもお互いを高め、金メダルをつかみ取った。

試合前に“カエルジャンプ”をする入江 ©JMPA

 また注目度が上がったのは入江。笑顔で入場し、落ち込むとカエル図鑑やオタマジャクシを見て癒されるというキャラクターの良さが先行したものの、「今後の目標は次の世界選手権でも金メダルをとること。でも来年4年生になったら就活もしないといけない」と大学いっぱいで競技にピリオドを打つ予定であることを明かすなど、現実をしっかりと見据えている一面も、彼女の魅力と言える。

「みまじゅん」「わたがし」ペアが見せた友情と強さ

<名言13>
普段は男子の中国人選手の球を受けることなんてほとんどないのでテンションが上がるんです。
(伊藤美誠/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言14>
中国の選手が緊張しているのが分かりました。それを見て、ああ、同じ人間なんだなと感じました。
(水谷隼/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言15>
先輩はきっと切り替えている。どんな状況でもコートに立てば強い気持ちで戦ってくれる。
(渡辺勇大/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言16>
本当に勇大くんが私のパートナーでいてくれてよかった。
(東野有紗/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)

◇解説◇
 東京五輪では団体やペアで、他国の“お家芸”を日本人アスリートが上回る瞬間もあった。その象徴と言えば、卓球の混合ダブルスやフェンシング男子エペ団体の金メダル、銅メダルを獲得したバドミントンの「わたがしペア」、最後の最後で武藤弘樹が10点を射止めたアーチェリー男子だろう。

東京オリンピックで銅メダルを確定させた瞬間の「わたがし」ペア ©Getty Images

 特に中国が圧倒的な優位を誇っていた卓球で、伊藤と彼女の幼少期から知る水谷の「みまじゅん」ペアが世界の頂点に立った。水谷が歓喜を爆発させすぎたあまり……伊藤と“頭ゴッツン”したのは名シーンの1つだった。

伊藤・水谷ペアの大喜び ©JMPA

 それと同時に、水谷は試合中にこんなことを思っていたという。

「決勝のファイナルゲームで彼女がずっと笑っていることには気づいていました。味方ですけど正直、怖かった(笑)」

ホーバスHC、稲葉監督ら指揮官・コーチ陣の思い

<名言17>
いい選手を選ぶのではなく、いいチームを作れる選手を選んだ。
(稲葉篤紀/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言18>
お前の直感を信じてやれば、絶対にヒーローになれる。
(川口能活/NumberWeb 2021年8月1日配信)
<名言19>
スーパースターはいないがスーパーチームです。
(トム・ホーバス/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)

◇解説◇
 東京五輪では指導者たちにも注目が集まった。

 人気スポーツである野球とサッカーではそれぞれ、村上宗隆の決勝での豪快なホームラン、久保建英の3位決定戦後の号泣など感情を揺さぶられる一方で、采配に厳しい目を向けられる稲葉・森保一両監督の重圧は、計り知れないものがあった。

東京五輪決勝、村上のHR ©Getty Images 号泣した久保 ©Getty Images

 それとともにサッカーではPK戦までもつれ込んだニュージーランド戦では、GK谷晃生に対して、アトランタ五輪でヒーローとなったGKコーチの川口が直前にアドバイス。ハートに火をつけた谷が勝利の立役者となるエピソードも生まれた。

 コーチングという面で画期的だったのは、女子バスケットボールを初の銀メダルに導いたホーバス・ヘッドコーチ(HC)だった。2017年の就任会見で「東京五輪の決勝でアメリカに勝って金メダルを獲る」と宣言したときはさすがに無謀なのでは……と見られ、今大会では大黒柱の渡嘉敷来夢を負傷で欠いた。

 しかし最新のNBA戦術を導入し、5人全員がアウトサイドプレーヤーとなる「ファイブアウト」という戦術を浸透させると、アシストを量産したPG町田瑠唯、キャプテン高田真希らの覚醒を導いた。決勝で敗れはしたものの、最強のアメリカ相手にメンバー12人全員が得点を決めたのが、チーム力の高さと言えるだろう。

ホーバスHC ©JMPA

 大会後、ホーバスHCは男子バスケットボール日本代表を率いることに。八村塁や渡邊雄太らを擁するチームを、どう改革していくのか。

「ラスカル」「真夏の大冒険」だけじゃないスケボーの魅力

<名言20>
まだ出したいトリックはあったんですよ。
(堀米雄斗/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言21>
(試合中に)ラスカルの話をしてました。
(西矢椛/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)
<名言22>
夏にさくらを満開にする。
(四十住さくら/Number1033・1034号 2021年8月12日発売)

◇解説◇
「鬼ヤベェ」「ゴン攻め」「13歳、真夏の大冒険!」……解説や実況で数々の名言が生まれたスケートボードだが、若きアスリートたちの、競技に対する純真さも観る人々を魅了した。

堀米のトリック ©JMPA

 金メダルに輝いた堀米は大会直後のインタビューで「新しいトリックも出したかったけど、ランが思った通りにいかなくて結局ベストトリックも最初の方は抑えていった。もっと攻めていきたかった」と語っている。この言葉通り、メダルの色を争うというよりも、自分にとって最高の演技を見せるチャレンジ精神にあふれていた。

 そして、果敢に挑んで失敗しても――ほかの選手たちが称えるという空間は、スケートボードが持つ独特かつ、美しい文化だった。

西矢と中山 ©JMPA

 いわゆるアーバンスポーツではサーフィンの五十嵐カノアが銀メダルを獲得するなど、競技の新たな可能性と魅力を拡張してくれた。

パラリンピックで見た新たなアスリートの可能性

<名言23>
まあ僕の性格上、ネガティブになることはなかったんで。
(鳥海連志/Number1038号 2021年10月21日発売)
<名言24>
日本のみなさんに、ハイレベルなプレーを見てほしい。海外にも面白いプレーをする選手はたくさんいるので、車いすのファンを増やしたいと思っています。
(国枝慎吾/NumberWeb 2021年9月18日配信)

◇解説◇
 オリンピック後に開催されたパラリンピックでも、数多くのアスリートが自らの身体性とメンタルを究極に磨いた力を見せてくれた。この大会の象徴的なアスリートとなったのは、車いすバスケの鳥海と車いすテニスの国枝だろう。

鳥海のダイナミックなプレー ©Getty Images

 端整なルックスから「車いすバスケ界の流川楓」とも評された鳥海は、3歳時に両下肢を切断しながらも“普通の子ども”として育てられ、幼少期から抜群の運動神経を誇っていた。中学からバスケを始めるとメキメキと上達し、日本のエース格へと昇り詰める。その実力が花開いたのが東京パラリンピックだった。

 今大会、チームメートのサポートも十全にあったことを認めたうえで「俺の力が足りなかったから、金メダルが取れなかった」と言う姿には、傲慢さではなく個人の力で戦う新時代のアスリートとしてのプライドを感じる。

 圧倒的な個の能力で、第一人者であり続けた存在と言えば国枝だ。

国枝の気迫あふれるプレー ©Getty Images

 ロジャー・フェデラーが残した「日本には国枝がいるじゃないか」という言葉はあまりにも有名だが、ここ数年は台頭した新世代との戦いの場に身を置いていた。シングルスでのメダルを逃したリオ五輪後には超攻撃型テニスの構築を目指すなど貪欲さを失わず、東京で通算4個目(単複含む)の金メダル獲得を成し遂げた。

 なお国枝はパラリンピック直後に行われた全米オープンでも連覇を達成。進化をとどめることはなさそうだ。

文=NumberWeb編集部

photograph by JMPA