雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は新春特別編として、大谷翔平と藤井聡太にまつわる言葉を2021年の名シーン写真とともに振り返ります(全2回/大谷翔平編も)。

<名言1>
藤井さんの対局は特によく見ていますが、これは自分には指せない、という手が多いんです。
(豊島将之/Number1018号 2021年1月7日発売)

◇解説◇
 2021年、藤井聡太竜王と最も盤を挟んで向かい合った棋士は、豊島将之九段だ。藤井と同じ愛知県出身。あどけないルックスで多くのファンを持つとともに、これまでの将棋界で4人しかいない「竜王名人」となった、まぎれもないトップ棋士の1人だ。その豊島が2021年、王位戦・叡王戦・竜王戦と3つのタイトル戦で藤井と競い合った。

竜王戦第1局 ©日本将棋連盟

「内容では押されている」

 実は豊島は、羽生善治九段相手に4勝1敗で防衛に成功した2020年の竜王戦後に、興味深い発言を残している。渡辺明名人や永瀬拓矢王座、そして藤井との対局について問われると「内容では押されている」とハッキリと口にしたのだ。

 取材当時、豊島は藤井との対戦成績は6戦全勝。世間では「藤井キラー」と見る向きもあった。そこに至るまでの、見える世界が違っていたのも確かだった。実際、同じプロの立場で「豊島、強いよね。序盤・中盤・終盤、隙がないと思うよ」との名言を生み出した佐藤紳哉七段もこのように語っていたことがある。

「そこまで差がつかなくても……というのが、ふたりの対局を見ていて感じるところです。(中略)豊島竜王はトップクラスの実力者です。藤井さんはどんどん強くなってはいますが、まだ全てが完璧というわけではない。そういう意味では、ここ数年トップの位置にいる豊島竜王相手に負けが込むのは、不自然なことではないかと」

第3局 ©日本将棋連盟

「十七番勝負」とも評されたトリプルタイトルマッチは、藤井が王位を防衛、竜王と叡王を奪取した。

 豊島視点で見れば藤井と戦い続け、失冠するという苦い結末になったものの、このまま終わる棋士でないことは将棋ファン誰もが知っている。豊島は初の弟子(岩佐美帆子さん)を取るなど、新たな局面を迎える中で「藤井1強」に待ったをかける存在として、2022年の活躍に期待したい。

タイトル経験者すら「力負け」を認めた

<名言2>
ハッキリと反省点がわからない――それは「力負け」と呼ばれるものの正体なのかもしれません。
(中村太地/NumberWeb 2021年3月15日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/847391

◇解説◇
 藤井竜王の勢いは、2020年度末の時点から圧倒的だった。第79期順位戦B級2組で10戦全勝の成績を残し、10代にしてのB級1組昇級を果たした。そんな藤井と最終戦を戦ったのは中村だ。王座1期のタイトル経験を持つ実力者は、藤井との対局でわずかながら昇級の可能性を残していた。

「直前には対策・研究を非常に重ね、何十時間もかけて一生懸命臨んだ対局でした」

 このように語った中村。しかし事前準備で用意していた作戦に対して、藤井が想定から外れる「柔軟な発想」の一手を見せ、それ以降は構想力が問われる展開に。わずかながら、しかし徐々に形勢が藤井へと傾く中で、中村も一所懸命に指したものの最後は投了に追い込まれた。

 中村にとって印象に残っているのは、対局後に行われる「感想戦」でのことだった。藤井も「対局中は自信がなかった」と話していたそうだが、中村の視点から見て「何度振り返ってみても、こちら側にチャンスはなかった」のだという。

 勝負の世界で生きる棋士が認めた力量差。ただ、その一局から何を学ぶのか――も大事な要素だ。藤井は2021年終了時点のB級1組で8勝1敗、中村はB級2組で7勝0敗とそれぞれ首位に立っている。佳境を迎える順位戦で、どのような戦いを見せてくれるだろうか。

師匠・杉本八段が語る藤井聡太の才能

2019年の杉本と藤井 ©Takashi Shimizu

<名言3>
藤井聡太という才能によって板谷一門も照らされました。
(杉本昌隆/Number1010号 2020年9月3日発売)

◇解説◇
 藤井を語るにあたって忘れてはいけないのは、師匠の杉本八段、そして東海地方で脈々と続いてきた板谷四郎一門の存在だ。板谷四郎九段はプロ棋士として超一流の証である順位戦A級にたどり着き、のちの永世名人となる大山康晴との九段戦に臨んだ経験もある。

 しかしタイトルは奪えず1959年に引退。その直後、名古屋の一等地に「板谷将棋教室」を構えた。次男の板谷進を弟子とし、その進の弟子が杉本八段だったのだ。その杉本八段の弟子である藤井聡太が、半世紀の時を超えて、将棋界の歴史を次々と塗り替えている。「原点は将棋が強くなること」を大事にした一門から、天才棋士は生まれたのだった。

どこまでいっても変わらず、強くなるために

<名言4>
どこまでいっても変わらず、強くなるために努力することが大切です。
(藤井聡太/Number1018号 2021年1月7日発売)

◇解説◇
 藤井の対局、そして行動が世間のトレンドになる――。ここ数年で当たり前の光景になっているが、あらためて「2021年の藤井聡太」の足跡をまとめると、偉業ばかりである。

©日本将棋連盟※代表撮影

・朝日杯将棋オープンで2年ぶり3度目の優勝
・順位戦B級2組で全勝して昇級/順位戦22連勝
・将棋大賞で最優秀棋士賞/最多勝利賞(44勝)、勝率1位賞(.846)など受賞
・竜王戦史上初の5期連続ランキング戦優勝
・棋聖戦(vs渡辺)3連勝で防衛
・王位戦(vs豊島)4勝1敗で防衛
・叡王戦(vs豊島)3勝2敗で奪取(史上最年少19歳1カ月で三冠)
・竜王戦(vs豊島)4勝0敗で奪取、序列1位に(19歳3カ月で最年少四冠)
・王将戦挑戦者決定リーグ5勝1敗で挑戦権獲得

©Hiroshi Kamaya

 19歳という年齢を考えれば、どれか1つの出来事でも「将棋界に新星現る」と報じられるレベルの快挙だ。さらに盤上で見せる真摯さとともに、「ぴよりん」や「コロコロしばちゃん」かわいらしいおやつを頼んだり、豊富な語彙力で発信する姿もまた魅力の1つである。

 しかし藤井はそのような快挙や話題性に流されることなく、研鑽に励んでいる。冒頭の言葉は、2020年の王位奪取後の就位式で語ったもの。将棋が強くなる。一意専心なその姿勢こそ、多くの人々が藤井将棋に魅了される本質なのだろう。

 2022年1月、藤井は王将戦で渡辺と再び相まみえる。10代にしての「五冠」なるかとともに、どのような棋譜と言葉を残すかにも注目したい。<大谷翔平編に続く>

文=NumberWeb編集部

photograph by JIJI PRESS