いよいよ有馬記念(GI)が目前に迫った。毎年、その年のGI戦線で活躍したスーパースターが揃う大一番。今年も例に漏れず素晴らしいメンバーが顔を揃えた。中山競馬場の芝2500メートルで覇を競う彼等のうち何頭かを紹介しつつ、簡単にではあるがレースを占ってみよう。

“グランプリ3連覇中”のクロノジェネシス

 まずは昨年の覇者であり、宝塚記念(GI)も含めるとグランプリ3連覇中のクロノジェネシス(牝5歳、栗東・斉藤崇史厩舎)。

 前走はフランスの凱旋門賞(GI)。自身のキャリアとしては最低着順の7着に終わっている。これに関し管理する斉藤調教師は当時、現地で次のように語った。

「色々と考えさせられる結果になりました。ただ、馬場を含めて日本とは多くの点で異なる条件下だったので、帰国すればまた違う結果を出してくれると信じています」

 斉藤調教師が言うように馬場の違いというのがあったのは事実だろう。その点は同意する。ただ、この結果を受けて多くの報道陣が「馬場が日本とは違い過ぎる」等、馬場だけが敗因のようにまくし立てたのは個人的に疑問に思っている。

凱旋門賞挑戦時のクロノジェネシス ©Satoshi Hiramatsu

凱旋門賞からの変わり身は充分にある

 同じ日に行われたフォレ賞(GI)では日本のエントシャイデン(牡6歳、栗東・矢作芳人厩舎)が見せ場充分の3着に好走した。同馬は日本ではGIはおろかGIIやGIIIの重賞勝ちすらない馬。それでもGIで善戦出来たのだから、凱旋門賞の結果だけを見て一概に“日本馬に合わない馬場”と決めつけるのは間違っていると思うのだ。

 あくまでも個人の見解だが、クロノジェネシスの凱旋門賞における苦戦は、臨戦過程の方が大きく影響したのではないだろうか。つまり、宝塚記念を制して以来、3カ月以上の間が空いていたわけだが、このように凱旋門賞前に3カ月以上の休みを挟みながらも勝利した馬は実に1950年のタンティエームまで遡らないと見つからない。ここ70年間の勝ち馬は皆、3カ月以内にレースを使われていたのである。事実、エルコンドルパサーやオルフェーヴルなど、日本馬で2着に善戦した延べ4頭は全馬フォア賞(GII)をひと叩きされていた。

 話が少々逸れたが、あくまでもデータ的には凱旋門賞におけるクロノジェネシスの大敗は不思議ではなく、逆に言えば今回の有馬記念で変わり身を見せて好走する可能性は充分にあるだろう。

昨年の有馬記念を制した際のクロノジェネシス ©Satoshi Hiramatsu

「少し物足りなさが残る」とコメントした斉藤調教師だが、それでも最終追い切りでは抜群の時計をマーク。今回がラストランになるが、思えば13年に有馬記念で有終の美を飾ったオルフェーヴルも当時は凱旋門賞帰りでの参戦だった。ミス・グランプリが得意の条件で息を吹き返してくれる事を願いたい。

凱旋門帰りのディープボンドの状態は?

 同じく凱旋門賞帰りなのがディープボンド(牡4歳、栗東・大久保龍志厩舎)だ。こちらはフォア賞を制しての凱旋門賞出走。先述した例に倣えば好走しておかしくない条件だったようにも見えるが、同馬の場合、日本国内でもGI勝ちがない身というのが大きな壁になったと思う。世界最高峰とも言われる凱旋門賞を制そうと思えば、やはりそれなりの実績は必要。過去にGIを3勝以上して凱旋門賞に出走した日本馬は延べ8例で、2着3回、3着1回なのに対し、GI2勝以下の場合19例でナカヤマフェスタの2着が1回あるのみ。ましてGI未勝利馬となると、データ的には苦戦必至と言わざるを得ず、14着という結果も仕方なく思えるのだ。

 しかし、こちらもクロノジェネシス同様、有馬記念となれば先のデータは度外視出来る。凱旋門賞は敗戦濃厚となった時点で鞍上が全く無理をさせなかったので、14着という着順をイコール実力ととる必要はないし、むしろ少ないダメージで帰国出来たと考える事も出来る。いきなりの巻き返しを期待したいものだ。

凱旋門賞では惨敗となったディープボンドだが、有馬記念での巻き返しはあるか? ©Satoshi Hiramatsu

アカイイトは“昨年のサラキア”のように…

 逆に勢いを感じられるのはアカイイト(牝4歳、栗東・中竹和也厩舎)。前走のエリザベス女王杯(GI)で初のGI制覇。初騎乗だった幸英明騎手が「手応えが良かったし、人気もなかったので思い切って自分で動いていきました」と語るように、途中、自ら主導権を取りに行く競馬で押し切るという強い内容で優勝。穴をあける形だったので今回もそう人気にはならないだろう。しかし、昨年もエリザベス女王杯2着だったサラキアが有馬記念でも素晴らしい末脚を披露して2着して穴をあけたように、再びの好走があっても不思議ではない。軽視は禁物だ。

エリザベス女王杯では見事1着となったアカイイト ©Satoshi Hiramatsu

 勢いという点ではタイトルホルダー(牡3歳、美浦・栗田徹厩舎)も負けていない。春は弥生賞(GII)を勝ちながらも皐月賞(GI)2着、日本ダービー(GI)は6着と善戦止まり。しかし、この秋は菊花賞(GI)を先頭でゴールして自身初のGI制覇を成し遂げた。それも逃げて2着のオーソクレースに5馬身の差をつける独走劇だったのだから立派なもの。近年だとサトノダイヤモンド(16年)やゴールドシップ(12年)、また11年のオルフェーヴルらが菊花賞と有馬記念を連勝している。今回は横山武史騎手から兄の横山和生騎手に乗り替わる点がどう出るかという点と、と大外16番枠というのは気掛かりではあるが、あまりに人気がないようなら狙ってみるのも面白そうだ。

 また、同じ3歳馬では菊花賞で2番人気に支持されていたステラヴェローチェ(牡3歳、栗東・須貝尚介厩舎)も注意が必要だ。その菊花賞では4着に敗れてしまったが、同じようにクラシック3冠目を人気で落としながらも直後のグランプリで巻き返した例としては3年前のブラストワンピースがいる。同馬もその有馬記念がGI初勝利だったのだからステラヴェローチェの一発があってもおかしくはなさそうだ。

エフフォーリアの鹿戸師「中間も順調」

 とはいえそれらの3歳馬を取り上げるなら、その大将格がエフフォーリア(牡3歳、美浦・鹿戸雄一厩舎)である事は疑いようがない。先に紹介したタイトルホルダーやステラヴェローチェを再三負かしているばかりか、デビュー以来、ここまで6戦して5勝、2着1回。唯一の敗戦がハナだけ届かなかった日本ダービーだが、当時の勝ち馬シャフリヤールを共同通信杯(GIII)では破っている。

 また、前走は初めて古馬相手となる天皇賞・秋(GI)に出走。ここでは昨年の無敗の三冠馬でジャパンC(GI)を優勝するコントレイルを1馬身差の2着にまかして優勝。3歳馬としては2002年のシンボリクリスエス以来となる盾制覇を成し遂げた。ちなみにそのシンボリクリスエスは同じ年の有馬記念も優勝している。

天皇賞・秋 ©Satoshi Hiramatsu

 また、エフフォーリアの制した天皇賞は2着のコントレイル以下も好メンバー。3着が名マイラーのグランアレグリアで4着は続くジャパンCでも4着するサンレイポケット。また、5着のヒシイグアスは直後の香港カップ(GI)でラヴズオンリーユーと僅差の2着。つまり、エフフォーリアが負かしてきた相手は春当時から前走に至るまでそうそうたるメンバーなのである。

「最初に見た時から立派な馬だと思いました」

 そう口を開いた鹿戸調教師は更に続ける。

「ただ、若い時は体質面で弱いところがあったけど、そのあたりもだいぶ丈夫になってきました。デビュー当初はレースぶりも少し行きたがる面を見せたけど、1戦ごとに上手になっているし、この中間も順調なので期待しています」

 もしここを勝てば今年だけで3つ目のGI制覇。それも皐月賞、天皇賞、そして有馬記念というひと昔前には八大クラシックと呼ばれていた由緒あるレースばかり。年度代表馬の座もグッと近付く事になるだろう。自身初めて年間100勝を達成した若き名手・横山武史騎手騎乗というのも心強い。10番枠も悪くなく、この馬の走りにも注目だ。

皐月賞 ©Satoshi Hiramatsu

伏兵も虎視眈々

 他にも絶好の2番枠からハナを奪えそうなパンサラッサ(牡4歳、栗東・矢作芳人厩舎)、先週の朝日杯フューチュリティS(GI)を勝った武豊騎手騎乗のアリストテレス(牡4歳、栗東・音無秀孝厩舎)、中山巧者のアサマノイタズラ(牡3歳、美浦・手塚貴久厩舎)ら伏兵も虎視眈々。また、人気はなさそうだが個人的にはエフフォーリア騎乗の横山武史騎手の父・横山典弘騎手が乗るシャドウディーヴァ(牝5歳、美浦・斉藤誠厩舎)も侮れない存在だと思っている。前々走の府中牝馬Sでは直線に向いてもまだ後方で万事休すと思えたが、そこから楽々と突き抜け、後にエリザベス女王杯を勝つアカイイトらを置き去りにした。マイルで良い脚を使える馬が意外と通用するのが中山の2500メートル。一発の魅力がある。いずれにしても面白い大一番となる事を期待しよう。

 そんな今年の有馬記念は12月26日。少しだけ遅いクリスマスプレゼントはどの馬が届けてくれるのか。いずれにしろ好レースになる事を期待して、15時25分にゲートが開くのを待とう。

文=平松さとし

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