2021年、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト3を発表します。将棋部門の第2位は、こちら!(初公開日 2021年10月26日/肩書などはすべて当時)。

 藤井聡太三冠は今年の10月で棋士デビューから丸5年となった。その間に250近くの白星を積み重ねたのに対し、負けはわずか46しかない(10月15日時点で246勝、通算勝率0.842)。1年間の平均が50勝近いというのも驚きだが、それ以上に年間に10敗していないペースというのはとんでもない話である。例えば、2020年度の成績は44勝8敗だが、この年度8敗というのは、20年度をフルで戦った棋士の中では最も少ないのだ。

 そもそも、棋士の負け数というのは弱い棋士だから増えるというものではない。むしろ強い棋士こそ増える傾向にある。なぜかというと、公式戦のほとんどが1敗失格のトーナメント棋戦だからだ。勝ち進んでリーグ入りやタイトル戦番勝負に登場するという実績を積まないと負け数を増やす機会はないのである。事実、20年度の最多敗は23敗を喫した永瀬拓矢王座だが、この年の永瀬は同時に44勝を上げており、藤井とともに最多勝利賞を受賞している。

 改めて藤井の各年度の成績及び、敗退した棋戦を見てみよう。(敗退棋戦は時系列順にあげている)

・16年度 10勝0敗

・17年度 61勝12敗 朝日杯優勝(竜王戦、上州YAMADA杯、王将戦、棋王戦、加古川青流戦、新人王戦、銀河戦、NHK杯、棋聖戦、叡王戦、王位戦、王将戦)

・18年度 45勝8敗 朝日杯、新人王戦優勝(NHK杯、竜王戦、王座戦、棋王戦、王位戦、叡王戦、順位戦C級1組、棋聖戦)

・19年度 53勝12敗 (銀河戦、棋王戦、王座戦、NHK杯、銀河戦、竜王戦、日本シリーズ、叡王戦、王将戦、王将戦、朝日杯、棋王戦)

・20年度 44勝8敗 王位、棋聖獲得。朝日杯、銀河戦優勝(王座戦、棋聖戦、竜王戦、日本シリーズ、王将戦、王将戦、NHK杯、王将戦)

・21年度 32勝6敗 王位、棋聖防衛。叡王獲得(10月15日時点、未放映のTV棋戦を除く)(王座戦、順位戦B級1組、王位戦、叡王戦、叡王戦、棋王戦)

「六段以下の棋士に負けた」のは2年前が最後

 藤井の負け数が少ない理由として、まず一つは年間10局を戦う順位戦でほとんど負けていないことが挙げられる。今期で5期目の参加となるが、まだわずか2敗しかしていない。また、17年度と比較して18年度の対局数が少ないのは、あまりの昇段スピードの速さで上州YAMADA杯と加古川青流戦の参加資格を失ったことがある。仮に参加したとして前年度のように途中敗退をしたかどうかは不明だが、結果として負ける機会が減ったのは確かだ。

 そして19年度の対局数が増えたのは王将リーグと王位リーグに入ったのが大きい。王将リーグでは2敗して、挑戦には惜しくも届かなかったが、王位リーグでは無敗街道を行き、翌年度の王位奪取につなげている。

 藤井の本格的な飛躍はタイトル奪取を果たした20年度だろう。この年のタイトル戦番勝負は棋聖戦と王位戦を戦ったが、合わせて7勝1敗と、わずか1敗しかしなかったのは恐るべしである。また、この年度からいわゆる取りこぼしがなくなった。藤井が六段以下の棋士に負けたのは20年6月の対大橋貴洸六段戦が最後である。

年間12敗の可能性…何かを数え間違えている?

 20年度の対局数が前年と比較して減ったのは、前期王将リーグで残留したことにより予選を戦う機会がなくなった(19年度は1次予選からのスタートだった)こと、そして竜王戦で3組に昇級していたこと(ランキング戦優勝に6組は6〜7勝、4、5組は5勝を要するが、3組以上は4勝で済む)が考えられる。

 竜王戦に関して言えば、藤井はここまでのランキング戦で無敗なことも大きい。昨年までは決勝トーナメントで負けていたのは仕方がないが、並みの棋士の場合、ランキング戦で敗退すると昇級者決定戦に回り、そこでも負ける、つまり1期に2敗する可能性があるのだ。順位戦で2敗しかしていないことは前述したが、同じく5期目の参加となる竜王戦でもここまで4敗しかしていない。

 藤井が現在参加できる棋戦は8大タイトル戦に加えて朝日杯、銀河戦、NHK杯、日本シリーズの12棋戦。つまり、タイトル獲得、棋戦優勝をしない限りはどう数えても年間に12敗はするはずなのだ(年度またぎなどの誤差はあるが)。そして今年度は4棋戦でタイトル戦番勝負を戦っているので、更に負けが増える機会はあった。年間10局(今期はB級1組なので12局)を戦う順位戦は言わずもがなだ。正直、この負け数の少なさは何かを数え間違えているとしか思えない。それほどの勝ちっぷりである。

中原十六世名人、羽生九段と比べてみると…

 比較対象として、中原誠十六世名人と羽生善治九段、レジェンド両名のデビューから5年間の成績を見てみよう。

 中原誠十六世名人

・65年度 7勝2敗
・66年度 32勝7敗
・67年度 47勝8敗 棋聖挑戦。古豪新鋭戦優勝
・68年度 43勝12敗 棋聖獲得
・69年度 35勝15敗 棋聖防衛。王座戦優勝

©BUNGEISHUNJU

 羽生善治九段

・85年度 8勝2敗
・86年度 40勝14敗 
・87年度 50勝11敗 天王戦、若獅子戦優勝
・88年度 64勝16敗 NHK杯、天王戦、新人王戦、勝ち抜き戦優勝
・89年度 53勝17敗 竜王獲得。全日プロ、若獅子戦優勝

 棋戦数の違いなどを含めて、対局環境を全く同一視することはできないが、両レジェンドと比較しても藤井の戦績は一歩上を行っていそうだ。ただ、藤井と羽生が初タイトルを獲ったのが5年目なのに対して、中原は4年目(番勝負初出場は3年目)の68年度なので、この分野では中原に分がある。

藤井三冠が負け越している棋士は誰?

 最後に、藤井がこれまで誰に何敗したかをあげる。

豊島将之竜王=9敗

久保利明九段、斎藤慎太郎八段、大橋貴洸六段=3敗

深浦康市九段、稲葉陽八段、菅井竜也八段、佐々木大地五段=2敗

渡辺明名人、永瀬拓矢王座、羽生善治九段、井上慶太九段、丸山忠久九段、三浦弘行九段、木村一基九段、山崎隆之八段、広瀬章人八段、村山慈明七段、佐々木勇気七段、千田翔太七段、三枚堂竜也七段、近藤誠也七段、都成竜馬七段、増田康宏六段、上村亘五段、今泉健司五段、井出隼平五段、出口若武五段にそれぞれ1敗。

 豊島の対藤井9勝は群を抜いているが、今年のタイトル戦で藤井が猛追し、竜王戦第1局を藤井が勝ったことで、対戦成績は9勝9敗の五分になった。そして藤井に勝ち越している棋士は大橋(3勝2敗)、深浦と佐々木大(いずれも2勝1敗)、井上と井出(ともに1勝0敗)の5名しかいない。

 四段昇段が同期の大橋が意地を見せている形だが、大橋の対藤井戦は前述した20年6月の対局を最後に行われていないので、現状ではまず藤井と当たるところまで勝ち上がる必要がある。

 また、深浦と佐々木大の師弟がそろって勝ち越しているのも興味深い。特に師匠は今年度、藤井二冠(当時)から白星を上げたのが光る。10月末にNHK杯で藤井―深浦戦が放映されるが、こちらにも注目が集まりそうだ。

 とはいえ、年齢差を考えると、現在の一線級クラスにある棋士がどこまで藤井に対抗できるかとなると難しい。対藤井を最も意識するのは充実期を迎えている20代半ばの棋士だろうし、また藤井の同世代棋士が追いかけることも期待したい。加古川青流戦を優勝した服部慎一郎四段、新人王戦を制した伊藤匠四段、そして奨励会で奮闘している新世代の活躍を待ちたいと思う。

文=相崎修司

photograph by Sankei Shimbun