藤井聡太竜王の誕生や史上最年少四冠を筆頭に、2021年度も将棋界は様々な話題にあふれていました。そこで夫婦ともども“観る将”になったというマンガ家の千田純生先生に「ファン目線での将棋ハイライト」の1〜3月分を描いてもらいました!

 2021年、NumberWeb上で「各月の将棋ハイライト」を描かせていただき、本当にありがとうございました。で、この前、将棋会館取材に訪れた際に編集担当さんからこんな言葉が。

「4月からイラストでの振り返りやってますけど、振り返ってみると新年度から始めたので、1〜3月のハイライトが未着手になってるんですよね……。なので年末に配信して、12カ月すべてコンプリート、ってことにしちゃいません?」

 ま、まさかの一手(笑)。

 でも確かに今年初頭もスゴい戦いや快挙があったなあ、と思ったのでまずは2枚、描いてみることにしました。

(1)渡辺明名人(冬将軍)の強さに感服

 誰が呼んだか「冬将軍」。渡辺明名人(棋王、王将と三冠)の強さを味わえるのは、この時期だ――観る将になって2年弱ですが、“おうち将棋観戦”がはかどる2021年の初春に、その強さを実感しました。

 前期(第70期)の王将戦では永瀬拓矢王座(今思えばとんでもなくハイレベルな挑戦者決定リーグ戦でした)相手にいきなり3連勝。その後、永瀬王座が意地を見せて2連勝したものの、第6局は千日手(※同じ局面が連続した場合、先手と後手を入れ替えて指し直しとなる)の末に勝利し、防衛に成功。王将位3連覇(通算5期)を果たしました。

 それと並行して臨んでいた棋王戦でも、早指しで名高い糸谷哲郎八段に第1局こそ逆転で先勝を許しましたが、将棋界ナンバーワンと言われる研究量や勝負所での安定感で、第2局から一気に3連勝。棋王戦9連覇を達成しました。自身のタイトル連覇としては竜王戦と並ぶ最長記録となったそうです。す、すごい……。

通算タイトル29期、単独4位という偉業

 2つの防衛劇に加えて、名人位も守ったことによって渡辺三冠の通算タイトルは29期、単独4位。上にいるのは羽生善治九段(99期)、大山康晴十五世名人(80期)、中原誠十六世名人(64期)だけ。3人の成績も壮絶なのですが……名人、三冠だけでなく「渡辺明・冬将軍」との異名をつけたくなるほどです。

©Junsei Chida

 年が明けて1月9日からは藤井聡太竜王(棋聖、王位、叡王と四冠)を迎え撃つ王将戦が始まります。「五冠」の期待がかかる藤井竜王に対して、棋聖戦のリベンジなるか――という視点で見るのも、絶対に面白いはずです。もし王将戦で勝利したら、将軍コスプレしてくれないかな、とかとも妄想します(笑)。

 ちなみに渡辺名人で直近の戦いと言えば……12月24日、すごかったですね。豊島将之九段との“クリスマスイブ日付越え持将棋”の激闘は年明けの「12月のハイライト」で描きます!

(2)今振り返っても凄まじい藤井竜王の戦いと「1〜3月のハイライト」

 渡辺名人以外の1〜3月のハイライトもちょっと振り返ってみました。ほぼ1年前の出来事ですが(笑)、あらためて振り返ってみると興味深いことが多かったんです。

 まずは2月に開催された、朝日杯オープン戦決勝。こちらは藤井聡太二冠(※当時)vs三浦弘行九段の対局となり、101手で藤井二冠が勝利しました。藤井さんと朝日杯と言えば2018年2月、15歳6カ月にしての史上最年少優勝が“伝説”の始まりとなりましたが、もう3度目の優勝なのだから……恐るべしです。

 そんな朝日杯で「あ、そう言えばこんなことあったな」というのが1つ。持ち時間の表示についてタブレットを使用していたのですが、不具合があったのか運営の方があたふた。しかしここで機転を利かせたのは記録係の廣森航汰三段。スッとチェスクロックを用意し、無事決勝が開催された――というのが記憶に残っています。

 廣森三段はその後、棋王戦に王座戦、竜王戦などの記録係を務め、ツイッターでも対局の感想(あと将棋めしも)を発信してらっしゃいます。こういった奨励会の方々の尽力もあって、将棋界が成り立っているのだな、と思います。

新婚・稲葉八段のNHK杯初優勝に感服

 朝日杯と同じく早指し戦と言えば、NHK杯。こちらは稲葉陽八段が初優勝を成し遂げました。新婚とのことで、公私とも充実したお姿には僕も元気をもらいますし、担当しているNHKの将棋講座を見て「指すときってそうやって進めるのか〜」と観る将として勉強になるばかりです。一方で前期NHK杯を振り返ってみると、藤井竜王・渡辺名人・永瀬王座の3タイトルホルダーが初戦敗退だったというのも衝撃でしたが……。

©Junsei Chida

 先日、中村太地七段の取材に同席した際に「早指しは持ち時間が非常に短いゆえ、どうしてもお互いミスが出やすい展開となります」とおっしゃっていましたが、持ち時間が変わるとそれほどまでに対局展開が違うんだな、と再確認した次第です。

 最後に、3月まで開催された順位戦ではやはり藤井二冠のB級2組全勝突破でしょう。2020年度終了時点での順位戦通算成績は、39勝1敗。現在行われているB級1組の成績を足して、47勝2敗(2021年末時点)。勝率にすると「0.959」……。いわゆる「マンガでボツになるレベル」の勢いですね(笑)。

(3)将棋の聖地巡り2021

 最後はお恥ずかしながら……僕と妻氏のネタなので、ユルッとご覧ください(苦笑)。

 2020年から「観る将」となった僕たち夫婦ですが、コロナ禍も少しずつ落ち着いたことで――感染症対策に気をつけながら“将棋の現場”へと足を運ぶことができました。まあその結果、竜王戦第1局観戦プログラムに2人で12万円お支払い、という大散財に出たわけですが(もちろんイラストに描いたように、一生の記念になる楽しさでしたよ)。

地震に思わず「豊島竜王と藤井三冠はご無事なの!?」

 あのイラストで描ききれなかったハプニングと言えば、前夜祭が終わった後の夜のこと。東京に震度5強の地震があり、僕も少々心配したのですが……高層階ということもあってか妻氏が「豊島竜王と藤井三冠のお二人は無事なの!?」とすごく慌ててました。翌日、つつがなく対局が始まるどころか、目の前で何もなかったように歩いている姿を見て超ビックリしたわけですが(笑)。

©Junsei Chida

 タイトル戦を直接観戦できたわけではないですが、名人戦第1局が行われている日に椿山荘で食事、棋聖戦第1局のホテル三日月(対局とは別日)に行ったのもいい思い出です。名人戦では斎藤慎太郎八段のような“王子感が漂う端整なスーツ姿”の方がいて、「斎藤八段じゃね?」と妻氏に言ったら「対局中なのにいるわけないでしょ」と一笑にふされた、というのもいい思い出です。

 2人ともJリーグクラブのサポーターなので「現地で観戦する」ということにプライスレスな価値を感じており、来年は足を伸ばせるところがあれば、各地のファンの皆さんとともに空気感や将棋を楽しめるといいな、と思っています。

 2021年の最後に――実は編集担当さんから「連載スタート時は“細々と続けられればいいな”と思ってて、こんなに愛される企画になるとは想像してなかったです……」とぶっちゃけられましたが(笑)、ひとえに「観る将」の皆さんの深い将棋愛に支えられているからこそです。改めて感謝します。

 2022年も将棋界を盛り上げるために微力ながらお力になれればと思ってます!(構成/茂野聡士)

文=千田純生

photograph by Junsei Chida(illustration)/日本将棋連盟