藤井聡太竜王の誕生や史上最年少四冠を筆頭に、将棋界は様々な話題にあふれていました。そこで夫婦ともども“観る将”になったというマンガ家の千田純生先生に「ファン目線での将棋ハイライト」を描いてもらいました!

(1)クリスマスイブ、日付越えの激闘など「12月のハイライト」

 藤井聡太四冠は竜王誕生のイベントで、順位戦の翌日に指宿へと旅立って砂蒸し風呂に入ったり、対局以外でもお忙しそうでしたが……トップ棋士のハードな戦いは続いています。

 その最たるものは、竜王戦1組ランキング戦でしょう。トーナメント初戦で渡辺明名人vs豊島将之九段……。高校サッカーなら青森山田vs東福岡、甲子園なら大阪桐蔭vs横浜みたいな「え、いきなり対戦しちゃうの!?」という組み合わせになったわけですが、その対局内容が凄まじかったんです。

 12月24日の朝10時に豊島九段の先手番で角換わりでスタートした一局は、渡辺名人がやや優位だったようなんですが……。そこから両者の玉が上部にいって、最終的には215手で持将棋(※双方の王将が入玉して勝負がつかず、既定の駒数を保持すると引き分けになる)が成立しました。

 この時点で日付が変わる手前の23時台、つまり指し直しでクリスマスイブ越え確定でした。編集担当さんに「指し直し局を可能な限り見届けます」とLINEしたら反応なし。すると午前2時過ぎになって「ガチで寝落ちしてました……でもまだ対局してますね……」と返信が(笑)。結局、終局は午前3時手前。渡辺名人に軍配が上がりましたが、2人(や記録係に観戦記者、解説の近藤誠也七段)の凄まじい精神力に改めて敬意を払いたいと思います。

 そういえば、2020年のクリスマスイブも順位戦B級1組で木村一基九段と行方尚史九段が千日手の末に25日の3時43分まで対局してましたね。将棋の神様が聖夜に、ファンに対してサービスしてくれてるのか? と思いたくなるほどです……。

渡辺名人、弟子を持つことに興味が?

 女流棋士の戦いで注目し続けたのは「ABEMA女流トーナメント」。最後の最後まで見どころだらけでした。準決勝のチーム西山vsチーム里見では、フルセットになった末に里見香奈女流五冠(※対局時は四冠)と西山朋佳二冠(※同じく三冠)のリーダー対決が実現し、西山二冠に軍配が上がりました。

 この時点でマンガみたいな展開で胸熱だったわけですが、決勝では加藤桃子清麗が今大会負けなしだった西山二冠に勝利! 連敗スタートのチーム加藤に勢いをつけようとの気合が凄く、そのまま優勝を飾った姿が鮮烈でした。あと、チーム伊藤(伊藤沙恵女流三段)の監督を務めた屋敷伸之九段が、たこ焼きを作って「まあるくな〜れ!」と言っている姿も別の意味で鮮烈でした(笑)。

 チーム加藤を監督として率いたのは渡辺名人ですが、決勝で弟子を持つことへの興味を匂わせていました。

 渡辺名人のツイッターによると、アーセン・ヴェンゲルの『赤と白、わが人生』、野村克也さんの『指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論』、落合博満監督を描いた『嫌われた監督』を読まれているそうです。そのつぶやきに妻氏は「ついにお弟子さん取るのかしら」と深読み。豊島九段も岩佐美帆子さんを初めての弟子に取られましたし、2022年の新しい関係性に注目したいと思います。

師弟トーナメントとサミットが新しい視点で楽しい

(2)「師弟トーナメント」で感じる関係性と、豪華すぎオールスター

 師弟と言えば……女流に続いて年末年始で「ABEMA師弟トーナメント」も開催されています。佐藤康光会長の着想から始まった同棋戦、師匠と弟子がチームを組んで戦っています。チーム動画では仲良しで知られる深浦康市九段と佐々木大地五段が料理を作ったりするなど、これまでのものとはまた一味違いつつ、距離感の近さも感じるつくりになってます。

 それとともに興味深いなと思ったのは開催前に行われた「師匠サミット」です。

 参加者は谷川浩司九段、井上慶太九段、森下卓九段、深浦九段、鈴木大介九段、木村一基九段、中田功八段、畠山鎮八段。そうそうたる面々が一門独自のルールなどを語りつつ、ともに戦う弟子を発表しました。鈴木九段が「師匠は絶対」、谷川九段が「弟子は子育てに似てます」と語る姿はもちろん、畠山八段が弟子の伸び悩みについて語ると、中田八段が励ますなど……その様子は、なんというか保護者会っぽいというか、違う味があって楽しめました。

 そんな中で予選リーグでは畠山八段が井上九段、稲葉陽八段に連勝し、弟子の斎藤慎太郎八段がウキウキする様子などもキュンとしました。そういった師弟の関係性も楽しんでいければと思っています。

豪華絢爛なメンバーだった将棋オールスター

 年末には新たな試みとして「将棋オールスター東西対抗戦」が実施されました。もちろん僕ら夫婦も、当然のごとく使命感を持って観に行きました(笑)。対局としては西軍の全勝となりましたが、佐藤会長と谷川九段のダブル解説など、そこに集う棋士の豪華さをただただ堪能しました。

 そんな2人に続いて、羽生善治九段と藤井聡太竜王のツーショットが観られるなんて……佐藤会長と谷川九段が「我々は前座なんで」と謙遜してましたけど、いやいやそんな……(笑)。藤井竜王はステージ解説が初とのことで緊張していたようでしたが、羽生九段が優しくフォローすることで後半はハキハキと笑顔でしゃべっていました。藤井竜王の対応力、そして羽生九段の人間力に感服します。

 なお羽生九段は10代の頃、デパート屋上での将棋イベントで初解説した時、声が小さくて怒られたという秘話まで披露してくれました(笑)。

 豊島九段と永瀬拓矢王座の解説もサプライズで、みんなが大喜びでした。2人が盤面を読み解く際、頭の回転力が凄まじすぎるんですが、そんな2人の嬉しそうな姿を、置いてけぼりになりつつ楽しむ。これもまた1つの醍醐味なんだなと感じます。

 あとはリレー対局を初めて見ましたが、《永瀬−藤井》の後ろに《羽生−豊島》が座るという構図が面白かったりなどなど、書ききれないことがいっぱい……やっぱり2022年も将棋イベントはいっぱい足を運んで絵にしたい。少しでも観る将の皆さんに空気感が伝わればと思います。

2022年初頭の将棋界の見どころは?

(3)2022年も将棋界は見どころいっぱい

 最後に、今年の直近の見どころについて描いてみました。

 真っ先に注目するのは、1月9日から始まる王将戦です。冬将軍こと渡辺王将の意地を見られるのか、藤井竜王の最年少「五冠」か――大注目です。なお渡辺名人は2月から永瀬王座との棋王戦が始まりますし、10代後半〜20代前半の「藤井世代」も注目です。

・服部慎一郎四段(22歳)がC級2組全勝中
・将棋オールスター参加の古賀悠聖四段(21歳)
・伊藤匠四段(19歳)が王位リーグ入り

 彼らに立ちはだかりつつ、リベンジに燃えている棋士も多いはずです。その象徴は豊島九段と斎藤八段でしょう。令和初の「竜王名人」となった豊島九段はタイトルを失ったとはいえ、冒頭に取り上げた渡辺名人との激闘、そして藤井竜王を下してのJT杯連覇など、不屈の精神に心打たれます。さらには前期名人戦に挑戦しながらも渡辺名人の前に敗れた斎藤八段も、ここまでA級6戦全勝。

 若き力や指し盛りの中堅に対して、順位戦A級に所属する佐藤会長や羽生九段がどんな円熟の一手を見せるか。そして女流タイトルでも1月16日から里見女流名人と伊藤女流三段が相まみえます。

 見どころばかりの将棋界、全力で応援しつつこの目に焼き付けていきます!(構成/茂野聡士)

文=千田純生

photograph by Junsei Chida(illustration)