オリックスの中嶋聡監督が、今季の開幕投手について山本由伸以外の投手を起用する可能性について言及した。

「球数も年間3000球を超えて、11月の終わりまで投げて、休みの期間も短く、急がすわけには絶対いかない」

 プロ野球の監督で「年間3000球」という数字をメディアで口にしたのは、中嶋監督が初めてではないか。

ここ10年で3500球超は田中、山本、メッセンジャーのみ

 2021シーズンの山本由伸は、ペナントレースで2911球、ポストシーズンで3試合379球、さらに東京五輪でも強化試合を含め3登板213球、合計3503球を投げた。

©JMPA

 ペナントレース、ポストシーズン、国際大会を含めて3500球という球数は、ここ10年(2012年以降)では3例しかない。

 2013年 田中将大(楽)3516球
 WBC97球 シーズン2981球 CS136球 日本シリーズ302球
 2014年 メッセンジャー(神)3544球
 シーズン3544球
 2021年 山本由伸(オ)3503球
 シーズン2911球 東京五輪213球 CS126球 日本シリーズ253球

 日本シリーズでは気温5度のほっともっとフィールドで141球も投げた。中嶋監督が心配するのも当然ではある。

日本シリーズ第6戦で熱投を見せた山本由伸 ©Nanae Suzuki

 実のところ、先発投手がシーズンを通じて投げる球数はここ10年でどんどん少なくなっている。以下は2012年以降、両リーグでレギュラーシーズン3000球以上投げた投手である。

・2012年 4人
 セ メッセンジャー(神)3189球、前田健太(広)3174球
 パ 成瀬善久(ロ)3143球、攝津正(ソ)3060球
・2013年 2人
 セ メッセンジャー(神)3265球、金子千尋(オ)3455球
・2014年 3人
 セ メッセンジャー(神)3544球
 パ 則本昂大(楽)3221球 金子千尋(オ)3000球
・2015年 7人
 セ 藤浪晋太郎(神)3374球 メッセンジャー(神)3255球 大野雄大(中)3250球 前田健太(広)3189球 ジョンソン(広)3174球
 パ 則本昂大(楽)3196球 涌井秀章(ロ)3127球
・2016年 3人
 セ メッセンジャー(神)3218球
 パ 則本昂大(楽)3384球、武田翔太(ソ)3103球
・2017年 1人
 パ 岸孝之(楽)3004球
・2018年 2人
 セ 菅野智之(巨)3129球
 パ 則本昂大(楽)3085球
・2019年 1人
 パ 千賀滉大(ソ)3077球
・2020年 0人
・2021年 0人

 2020年は120試合制だったので3000球以上の投手がいなかったが、143試合制だった2021年はゼロだった。10年前は、毎年数人はいた3000球投手が「絶滅危惧種」になっていることがわかる。ちなみに2010年には3000球投手は11人もいた。

 ここ10年で、2年以上連続してシーズン3000球を投げた投手は以下の3人しかいない。

 メッセンジャー(神)5年連続
 2012年3189球、2013年3265球、2014年3544球、2015年3255球、2016年3218球
 則本昂大(楽)3年連続
 2014年3221球、2015年3196球、2016年3384球
 金子千尋(オ)2年連続 
 2013年3455球、2014年3000球

 MLBでは成績もさることながら、イニング数を稼ぐ先発投手のことを「イニングイーター」という表現で評価されるが、メッセンジャーは21世紀のNPBでは最高のイニングイーターだと言ってよいだろう。

 則本昂大は、田中将大がMLBに移籍した2014年にエース格となり、ここから5年連続奪三振王。抜群のスタミナを誇ったが、2019年に右ひじの手術を行ってからは登板数、投球数ともに減少している。金子千尋も2013、14年と3000球を投げたが2014年オフに右ひじ骨棘除去手術を受け、翌年は1500球にとどまっている。

2014年の金子千尋 ©Hideki Sugiyama

 2011年より前でいえば、杉内俊哉が2007〜10年の4年連続、三浦大輔が2005〜07年、前田健太と成瀬善久が2010〜12年の3年連続、ダルビッシュ有が2010、11年の2年連続と、連続して3000球を投げる投手は少し前までは散見される。

 以上のデータから勘案すれば、こういう見方もできる。

「少し前までNPBでは毎年、3000球以上投げても壊れないようなスタミナ抜群のエースがいたが、そうしたトップクラスの投手の一部はMLBに移籍し、残る投手も力が衰えたり引退して、3000球投手は『絶滅危惧種』になった」

3000球超投げたエースの翌年成績を見てみると

 しかしながら、違う見方もできる。

「メッセンジャーなどごく一部の例外を除く3000球投手は翌年以降、成績が落ちる。投球過多のダメージは大きいので、先発投手を長く稼働させたい各球団指導者は、投球数を抑制した」

 3000球以上投げた年の翌年に、成績が落ちた投手は数多い。

 大野雄大(中)
 2015年 3250球 11勝10敗207.1回 率2.52
 2016年 2130球 7勝10敗129.2回 率3.54
 武田翔太(ソ)
 2016年 3103球 14勝8敗183回 率2.95
 2017年 1300球 6勝4敗71回 率3.68
 菅野智之(巨)
 2018年 3129球 15勝8敗202回 率2.14
 2019年 2280球 11勝6敗136.1回 率3.89
 千賀滉大(ソ)
 2019年 3077球 13勝8敗180.1回 率2.79
 2020年 2096球 11勝6敗121回 率2.16(※120試合制)

2019年の菅野智之 ©Hideki Sugiyama

 同等の成績を残せたのは、20年に投手三冠を達成した千賀くらいである。各球団のエース格であっても、3000球以上投げた翌年は1000球前後投球数が減少する。つまり、ローテを維持できない期間ができてしまうのだ。

 こうした経験則、あるいはもっと精緻なデータによるのかもしれないが「投手にシーズン3000球以上投げさせるのは良くない」という考え方が主流になってきているのだと思う。

 近年、規定投球回数をクリアする投手が減っているのも、先発投手の投球数を抑制する傾向になってきているからだろう。

以前はメジャーでも3000球以上が先発の義務だったが

 沢村賞の選考基準には「200投球回以上」という項目がある。これをクリアするためには1イニング15球平均で投げても3000球を超す。選考委員である昭和の大投手たちは「エースならこれくらい投げてほしい」と話すが、現在のプロ野球のトレンドは沢村賞の価値観とは逆行していると言えそうだ。

 実は、MLBではシーズン3000球以上投げるのは「先発投手の義務」と言ってもよかった。

 イチローがMLBに移籍した2001年には、ランディ・ジョンソン(ダイヤモンドバックス)の4076球を筆頭に、3000球投手は両リーグで58人いた。2010年は69人、2015年は41人、そしてコロナ前の2019年でも29人。減少してはいるが各球団のエース級は3000球を投げていたのだ。しかし2021年はザック・ウィーラー(フィリーズ)の3205球を筆頭にわずか10人に減った。

2001年のランディ・ジョンソンは4000球を超える球数を投じていた ©Getty Images

 先発32、3試合、中4日、6回100球以内で投げて3000球というMLBの先発投手のパターンが崩れつつあるのだ。

 MLBではもともと球数を厳しく管理する傾向が強いが、大型契約を結ぶことが多いエース格の先発投手を長く稼働させるために、球数管理をさらに強化したのだろう。

 近年は救援投手を先発させる「オープナー」など、新たな投手起用方も出てきている。

 NPBもMLBと軌を一にして「先発投手を守る」方向に舵を切ったと言えるのではないか。

無理をさせたくないが大一番では……というエースの宿命

 さて、山本由伸である。投手起用について熟知する中嶋聡監督は、できればポストシーズンも無理をさせたくなかったとは思う。しかし山本由伸はエースである。ここぞ、というしびれる場面で球数をセーブすることなど考えられない。それもあって、山本は近年まれな球数を投げるに至ったのだ。

 3516球を投げた2013年の田中将大は翌2014年MLBに移籍、ヤンキースでもローテを維持し、オールスターにも選ばれるが7月9日に右ひじ靱帯を部分断裂。トミー・ジョン手術は免れ、温存療法(PRP療法)でシーズン中の復帰を果たした。

 3544球を投げた2014年のメッセンジャーは翌2015年も開幕投手、5月末から自己最長の27イニング連続無失点。9勝どまりながら3255球を投げた。

 投手の投球数の問題は「個人差」が大きい。山本由伸がメッセンジャーのように故障知らずの剛腕である可能性もあるが、山本はそれ以前は2019年の2134球が最多。2020年は1961球だった。ここ2年よりも山本に負担があるのは否めない。

宮城らがさらなる成長を見せて、山本の負荷を軽減できるか ©Nanae Suzuki

 オリックスには宮城大弥(2021年2421球)をはじめ、田嶋大樹(2511球)、山崎福也(1862球)など有力な先発投手が山本以外にもいる。今季は、こうした先発の力も合わせてペナントレースを戦ってほしい。

文=広尾晃

photograph by Nanae Suzuki/JMPA