東京五輪に出場する男子バレーボール日本代表に、21世紀生まれとして初めて選出された高橋藍選手(20)。この高橋選手人気が沸騰中だ。そして、ある依頼を受けてその影響力が遠い異国の地・タイにまで及んでいることを知った。

「男子バレー・高橋藍選手の記事を紹介すると、タイ語のコメントがSNSに殺到する。なぜかわかりますか?」

 この意外な反響はなぜ生まれているのか。この記事では、タイ王国におけるバレーボールの立ち位置や現地の人々の実際の声から考えてみたいと思う。

タイでは「バレーボールは三大スポーツの1つ」である

 これまでスポーツというと、欧米のプロリーグが注目されがちだったが、近年は東南アジア各国にも日本人の目が向き始めている。特にタイのサッカーは日本人からの注目度が顕著で、クラブチームのほとんどに1人は日本人選手が在籍し、2019年から21年までタイ代表チーム監督は元日本代表監督の西野朗氏が務めていたほどだ。

 そのため、タイのスポーツというと国技であるムエタイやサッカーを挙げる日本人も多いだろう。しかし「タイの三大スポーツ」となると、ここにバレーボールが入ってくるのだ。

 タイには、男女各8チームからなるプロリーグ『タイランド・リーグ』が2005年に発足している。ここには、日本のVリーグで活躍した日本人選手が助っ人で採用されたり、逆にタイランド・リーグで活躍したタイ人選手がVリーグに参戦するなど、バレーボールの日タイ関係は積極的に交わっている。日本においてもタイのバレーボールに注目する人は少なからずいるだろう。

 タイ国内ではバレーの試合のテレビ放映も盛んに行われていて、タイのリーグはもちろん、Vリーグも放送されるし、代表戦ともなれば視聴率はぐんと上がる。タイ代表チームは男子こそ成績は芳しくないものの、女子代表は2013年にアジア選手権で優勝を果たすなど、国際大会でも数々の戦績を残している。タイ人からするとバレーボールこそが世界に通用するタイのスポーツということでかなりの人気を誇り、女子代表はテレビCMにも起用されるほどの人気を獲得しているのだ。

 そんな中で高橋藍選手が注目されるようになった。

©JMPA

タイで日本アニメが放映されているから…?

 一部日本のバレー関係者にも高橋選手がタイで注目されていることが知られており、なかにはアニメ『ハイキュー!!』のタイ放映が関係すると推察する声もある。しかし、その可能性は低いのではないだろうか。

『ハイキュー!!』は古舘春一原作の高校バレーボールを題材にしたマンガだ。アニメ化もされ、タイにもタイ語翻訳のマンガ、アニメが上陸している。タイでは『ハイキュー!! クートップファープラターン』という副題つきのタイトルで知られる。ちなみに、この副題には「天国に打ち込むコンビ」といった意味がある。

 アニメ版のタイ国内放映は2015年2月からで、2018年8月からはパート2も放映されていた。タイの雑誌編集者に訊いてみると、小学生にはかなり人気のあるアニメなのだという。近年日本のエンタメは韓国に押され気味だが、アニメだけは日本のものが今でも人気がある。

 ここ数年はタイでコスプレ・イベントなどが流行っているものの、参加者はせいぜい20代半ば。日本のようにアニメやマンガ愛好家が生涯現役で楽しむということはなく、多くが就職して自立するとアニメから離れる傾向がタイにはある。そのため、『ハイキュー!!』は大人にはあまり知られておらず、高橋藍人気がこのアニメと繋がっているとは考えにくい。

 高橋選手への注目度はタイ人の純粋なバレー好きから始まっていると考えられる。というのは、タイ人の熱狂的なバレーボールファンのみならず、愛国心の強い人はなによりタイ代表女子バレーに注目するからだ。

タイの高橋藍人気の背景にあるのは「女子代表の強化」?

 タイ代表チームは1964年に国際バレーボール連盟に加盟しているものの、女子代表チームが力をつけてきたのは2000年代初頭。2001年のアジア選手権を皮切りに、数々の大会で好成績を残している。タイでも日本代表が強いことは知られており、そんな強豪をタイ代表女子が何度も破ってきた。とはいえ、わりと好成績を残すのに、オリンピック出場にはあと一歩のところで及ばない。日本のサッカー代表も力をつけてきたとはいえ、世界の壁はまだ高い。このあたり女子バレーのタイ代表も似ているので、日本人にもいかにタイ人が女子バレーに興味を持ち、かつ応援に熱が入るかがわかるだろう。

 そうしてバレーボールファンの数がさらに増え、その一部が高橋藍選手をテレビで見つけ、虜になってしまうのもうなずける。

©Takahisa Hirano

タイにおける「推し文化」の特異性

 そして、高橋選手人気のひとつの事情として、タイにおける「推し文化」は基本的には女性が動かしているという点を把握しておくべきだ。近年は日本のアイドルグループ『AKB48』のバンコク姉妹グループが誕生したことで男性の推し文化も浸透してはいるが、例えば、日本のメイド喫茶が進出した当時もその客層は日本とは大きく異なり、大半が女性客だったほど。タイにおいて、「推し文化」を追求するのはあくまでも女性だった。

 それに加えて、タイ人女性にとって「バレーボール」はとても身近なスポーツであることも示しておきたい。それは、中学高校の女子体育の授業の球技で選ばれることが多いことも由来している。代表チームのうちの女子が強いという点も、より同性ファンが増える要因にもなる。

 こうして、比較的身近なスポーツであるバレーボールの国内外の試合をテレビで見ている中で、純粋にスポーツとしてプレーや勝敗に注目する人たちに加えて、「推し」を探す女性たちが高橋藍選手を発見。人気が急騰したと想像できる。

タイの現地女性10人に「高橋藍選手を知っていますか?」

 実際に、タイの現地女性10人ほどに高橋選手の画像を見せ、「この人を知っていますか?」と訊いてみた。「知っている」という答えはなんと7人。人気スポーツとはいえさすがに興味がない人だっていることを想定していたので、外国のリーグで活躍する選手の顔を10人中7人が知っているというのは驚きだ。ただ、名前まで知っていたのはその7人のうち3人だった。名前までは知らなかった4人は、ネットあるいはテレビで顔を見たことがあるということだった。

 高橋藍選手を知らなかった人も含めて、先述の10人に高橋選手についてどんな印象を持つか? などを訊いてみる。すると、プレーの特徴や魅力に対しての回答はなく、ただただ1点、同じ答えが返ってきた。

「かわいい!」

©AFLO

 タイ人女性はとにかく「かわいい」が大好きだ。もちろんキュートといった意味もあるのだが、タイ語でかわいいは「ナーラック」という。直訳すると「愛すべき」という意味合いになる。タイ女性が容姿端麗な男性を評価するときにはあまりかっこいいとは言わない。タイ女性がかっこいいと男性を評価するときは大概一歩引いたような、冷めたようなニュアンスも含まれる。一方、「ナーラック(かわいい)」の場合は、とにかく心の底から愛情が湧き出てくるような、そんな感じで受け取っていい。

 要するに、高橋選手にはタイ人女性のストライクゾーンど真ん中を射貫くような圧倒的な魅力があるのだ。先の女性らにどこがどう好ましいのかも訊いてみた。そして、実際に高橋選手の顔写真を改めて眺めてみる。確かにタイ人女性が大好きな要素がすべて盛り込まれていると言っても過言ではない顔をしていらっしゃる。

 タイ女性が男性の顔を「ナーラック(かわいい)」と思う特徴は主に下記になる。

 ・色が白い

 ・鼻筋がまっすぐに通っている

 ・眉毛がキリリ

 ・笑顔が柔和

 これに加えて背が高いのも高得点。高橋藍選手の顔は一見、中華系にも見えるし、あるいは欧米人とのミックスにも見える。これもまたタイ女性が好きな要素だ。

©AFLO

 タイは中華系住民も少なくない。大昔に来た中国からの移民の子孫で、今は政治や経済などの分野から国を動かす有力者も多い。そのせいか、色白で中華系に見えると、タイ人には家柄がいいという印象を与えることがある。タイの人気俳優もだいたい色白で、欧米人とのミックスである。

タイの掲示板には高橋藍のスレッドが

 タイにもネット掲示板があり、自由にスレッドを立てることができるが、ハッシュタグでバレーボールの欄もあり、もちろん高橋藍選手のスレッドもいくつか見られる。中には高橋選手を「藍くん」とタイ語表記する人もいた。おそらくお姉さまファンが年下の高橋選手をそう呼んでいるのだろう。

 2021年12月からイタリアで新たな挑戦を始めている高橋選手。さらなる活躍が期待される中、タイでの人気ぶりは今後さらに加速するかもしれない。

文=高田胤臣

photograph by Takahisa Hirano