大谷翔平が花巻東高校時代に目標設定として有効活用したことで知られる「マンダラチャート」。考案者に若き大谷の秘話やチャートの使い方、教師時代の話を聞いた(全2回)

 新しい年を迎えると1年の目標を立てる人は多い。「今年こそは」と意気込み、自分に期待する。だが、数カ月後には目標から目を背けたり、目標が何だったのかさえ忘れてしまったりした苦い経験を持つ人は少なくないだろう。

8×8のマスのど真ん中に最高の目標を書いて……

「目標を実現させる」

 昨年、その象徴的な存在となったのが、二刀流としてメジャーの常識を覆し、満票でMVPに輝いたエンゼルスの大谷翔平。そして、野球界やスポーツ界を超えて注目されたのが「大谷マンダラ」だ。

©Nanae Suzuki

 「大谷マンダラ」や「マンダラチャート」と言われるシートは「オープンウィンドウ64」という正式名称がある。

 8×8のマスのど真ん中に最高の目標を書き、それを囲む8つのマスに達成に必要な要素を記す。さらに、8つの要素を形にするための具体的な行動を64個のマスに記入する。

 大谷の場合、最高の目標を「ドラフト1位で8球団から指名を受ける」と定め、8つの要素に「コントロール」、「変化球」、「運」、「メンタル」などを埋めた。この「オープンウィンドウ64」が大谷の成功を後押ししたのは間違いない。ただ、これだけでは不十分で、大谷は目標の設定と実現に多くのツールを使っていたという。

大谷の高校1年生時のオープンウィンドウ64を再現 ※原田教育研究所・原田隆史さん提供

大谷が日本ハム時代に学んだ「5つのツール」って?

「オープンウィンドウ64だけを書いても結果にはつながりません。長期目的・目標設定用紙にシナリオ、ストーリーをしっかりと描く必要があります。2つをセットにして進めないと効果がありません」

 こう話すのは、大谷が活用した「原田メソッド」の考案者、原田教育研究所の原田隆史さんだ。

原田教育研究所の原田隆史さん ※同研究所提供

 原田さんは目標達成には「オープンウィンドウ64」を含む5つのツールをそろえる必要があると説く。実際、「マンダラチャート」ばかりが注目されているが、大谷も5つ全てのツールを日本ハムで学んだ。原田さんは、次のように手順を説明した。

(1)長期目的・目標設定用紙
 1年後や今シーズンなど、中・長期的な目標を決め、そこへたどり着くまでのシナリオを描く。シナリオには重要度の高い順に並べたルーティンや、期日を決めた行動計画を記す。そして、心・技・体・生活の4つの項目それぞれで予想される問題点や解決方法を記入する。

(2)オープンウィンドウ64
 描いたシナリオや目標を実現させる具体的な行動を落とし込む。大谷の場合、「球速160キロ」という目標の1つに対して、「軸で回る」、「下肢の強化」、「体重増加」などの行動内容を書いている。

(3)日誌
 自分でつくった行動計画を達成できているのか、目標に近づけているのかを毎日、振り返る。練習が終わったら、その日一番良かった点や課題を考える。やるべきことを明確にするだけでなく、「できる、やれる」という「自己効力感」、「厳しい状況でも自分の価値を見失わない」という「自己肯定感」の向上につながる。

(4)ルーティンチェック表
 シナリオに肉付けしたルーティンができているかどうかを毎日チェックする。できたものには「〇」、できなかったものには「×」を入れて習慣化を図る。

(5)仕事理念の構築
 何のために目標を達成するのか、目標を達成した先に何を得られるのかを記す。いわゆるミッションを文字にする。努力を続けるためのモチベーション向上に役立つ。

「卒業間近の大谷選手は具体的で……」

 実は世に出ている大谷の「オープンウィンドウ64」は未完成だという。完成版は各マスの行動を赤と青の2色で分けられている。赤は毎日続ける「ルーティン行動」で、青はいつまでにやるかを決めて行動する「期日行動」。さらに、それぞれのマスに責任者が置かれている。例えば、「体重増加」は栄養士、「体のケア」は整体師、「はっきりした目標設定」は監督を協力者にしている。

 原田さんは花巻東を2年間、視察に訪れているが「卒業間近の大谷選手のオープンウィンドウ64は全てのマスが色分けされて責任者がつけてあり、具体的でとても力のあるものになっていました。書いたら終わりではなく、気付いたら手を入れていく、変えていくのが正しい考え方です」と語った。

 原田さんは他にも、大谷のシートが優れている点を挙げる。

 ど真ん中の目標を囲む8つの要素のバランス。「オープンウィンドウ64」の基になる「長期目的・目標設定用紙」には、心・技・体・生活の4つの項目に分けて行動を組み立てることが大切になるが、これは「オープンウィンドウ64」でも同様だという。大谷の8つの要素を見てみると、「体づくり」は体、「メンタル」は心、「コントロール」や「変化球」などは技、「人間性」と「運」は生活と、4つ全ての項目が入っている。

「ご両親に愛情を持って育てられて」

 大谷が原田メソッドと出会ったのは花巻東に入学した時だった。野球部の佐々木洋監督が原田さんの開いていた私塾「教師塾」で学んだ知識の一部を野球部に取り入れていた。

 さらに、深く理解できたのは日本ハム時代の5年間だった。球団の教育ディレクターを務めていた本村幸雄さんは「教師塾」の門下生。大谷は生活教育や人材教育を担当していた本村さんから指導を受け、原田メソッドを磨き上げていった。

©Sports Graphic Number

 特に力を入れていた日誌では毎日を細かく振り返り、時には縮小した長期目的・目標設定用紙をロッカーに貼っていたという。原田さんは「ご両親に愛情を持って育てられ、花巻東、日本ハムといい流れで指導、教育を受けてきたと思います」と大谷が成功した理由を分析した。

 大谷はメジャーの常識や歴史を変える二刀流を成し遂げてMVPを獲得した。ただ、受賞が決まった際、歓喜や称賛に沸く周囲とは対照的だった。会見では冷静に、こう話している。

「満票だったので、ちょっとびっくりというか、よかったなという気持ちが強いです。今後のモチベーションの1つになりました。発表を待つ時は、個人的には来年(2022年)に勝つことだけを考えて切り替えていました」

白紙バージョンの「オープンウィンドウ64」。写真をクリックしていくと、各種オープンウィンドウをご覧になれます ※原田教育研究所・原田隆史さん提供

 偉業を達成した要因の1つには、高校時代に出会ったツールがある。目標設定と実現に必要な行動計画と振り返りを習慣にしていた大谷。「前人未到」の域への到達は偶然ではない。はっきりと道筋が見えていた。<後編に続く>

文=間淳

photograph by JIJI PRESS/原田教育研究所