新しい労使協定の締結を巡る経営者側のロックアウトで一時休止中のメジャーリーグ(MLB)だが、すでに何人かの元メジャーリーガーが、日本プロ野球(NPB)と契約している。その中でも、巨人と契約したグレゴリー・ポランコ外野手は、パイレーツでデビュー当時「有望株」と騒がれ、かなり注目された選手だった。
巨人は昨季、韓国プロ野球(KBO)時代に40本塁打&40盗塁以上を達成し、メジャー復帰後もブルワーズでシーズン31本塁打を記録するなど活躍したエリック・テームズが、初出場でアキレス腱を断裂する不運に見舞われた。メジャー通算196本塁打のジャスティン・スモークも、34試合で7本塁打を放って打率.272/出塁率.336/長打率.482とその後の活躍を予感させたのに、新型コロナウイルスの感染拡大もあって家族の来日の見通しが立たずに帰国。期待された攻撃力が発揮できなかった。
二人の代わりに元楽天のゼラス・ウィーラーが121試合で15本塁打を放ち、打率.289/出塁率.358/長打率.479と活躍しただけに、ポランコにはかなりの期待がかかっているのではないかと思う。

14年のデビュー当時は「リーグを代表する選手に」と期待された
ポランコがMLBデビューした2014年当時、彼は日本で言うところの「走攻守三拍子」に近い「Five-tool Player(率とパワー、守備と肩と脚)」と言われていた。当時の彼の同僚で前年のナ・リーグMVPアンドリュー・マカッチェン(現フィリーズ)のように、打撃だけではなく、守備や走塁でもリーグを代表する選手になるのではないかと期待されていたわけだ。
洋の東西を問わず、メディアがファーム生え抜きの「有望株」をそんな風に表現するのは珍しくない。結果的にその多くが率を残せない「長打力だけ」、「脚だけ」の選手となって、「5ツール」が「3ツール」や「2ツール」に限定されるようになり、表舞台から姿を消していく運命にある。残念ながらポランコも、「Five-tool Player」の評価に見合う活躍をした時期は短く、昨季は打率.208/出塁率.283/長打率.354、11本塁打14盗塁(107試合)と、「一発長打と脚」以外はひどく安定性に欠ける成績でパイレーツを自由契約となっている。

▽ポランコのMLB通算と162試合平均の成績(8年823試合)
通算 打率.241/出塁率.309/長打率.409 96本塁打98盗塁
平均 打率.241/出塁率.309/長打率.409 19本塁打19盗塁
(出典:Baseball-References.com 以下、同様)
日本人にはないパワーを秘めた打者
だからこそ日本の球団にとっては「狙い目」の選手なのだが、過去の外国人選手がそうだったように、彼もまた、「実際にやってみなくては分からない」。ただし、たとえば以下のような数字は、ポランコへの期待が高まる理由の一つだろう。
ISO HR% SO% BB% EV HardH% LD% FB%
ポランコ .167 3.0 21.6 8.9 89.7 43.0 26.1 22.4
MLB平均 .162 3.1 21.8 8.3 88.4 38.7 25.3 22.4
ISOというのは単純に長打率から打率をマイナスして、それを「純然たる長打力」と考える数値で、ポランコはMLB平均以上と考えられている。
打球のEV(Exit Velocity=飛び出し速度)や、HardH%(Hard Hit Rate=EVが時速約153キロ以上の打球が飛ぶ確率)、LD%(Line Drive Rate=ライナーになる確率)もMLB平均を上回っており、日本人には簡単には出せない「パワー」を秘めた打者であることは確かだろう。

それにポランコは昨季、パイレーツを自由契約になった後、ブルージェイズとマイナー契約して、MLBより1階級下のAAA級バッファローでわずか24試合の出場ながら、打率.374/出塁率.436/長打率.747、9本塁打5盗塁の好成績を残している。22歳の「有望株」と30歳の「元メジャーリーガー」という違いはあるものの、それはMLB昇格年のAAA級69試合での打率.328/出塁率.390/長打率.504、7本塁打16盗塁を思い出させる成績だ。
クロマティと比較すると……
巨人に来た左打ちの元メジャーリーガーと言えば、過去にタフィ・ローズやロベルト・ペタジーニを思い出すが、彼らはいずれもNPBの他球団で成功してから巨人にやって来た助っ人だ。米国から巨人にダイレクトでやって来た助っ人と言えば、「昭和の時代」に活躍した往年の名助っ人ウォーレン・クロマティだろう。
▽ウォーレン・クロマティの各成績
MLB通算 打率.281/出塁率.336/長打率.402 61本塁打 50盗塁
162試合平均 打率.281/出塁率.336/長打率.402 9本塁打 7盗塁
マイナー通算 打率.315/出塁率.371/長打率.436 24本塁打 62盗塁
NPB通算 打率.321/出塁率.372/長打率.558 171本塁打 26盗塁
(*MLB10年1107試合 マイナー3年355試合)

クロマティは巨人に移籍する前年(1983年)、エクスポズでプレーしたものの、シーズン終盤は腰痛の影響もあって、ずっと後にレッドソックス監督となるテリー・フランコーナ(現ガーディアンズ監督)に、右翼のポジションを譲っている。それは奇しくもポランコと同じ29歳の年のことだった。
MLBで「打線のつなぎ役」だったクロマティは、以下の通り、巨人に来てから長打率と本塁打数で劇的に変わり、「中軸打者」へと大変身した。
▽クロマティのMLB移籍前と巨人初年の成績
エクスポズ 1983年 打率.278/出塁率.352/長打率.386 3本塁打8盗塁
巨 人 1984年 打率.280/出塁率.322/長打率.565 35本塁打4盗塁
前出のようにポランコは、NPB移籍前にMLBで打率.208/出塁率.283/長打率.354、11本塁打14盗塁だったので、MLBではクロマティより「パワーと機動力はあるが確実性は低い」。そこで気になるのは、ポランコのMLBにおける「打球方向」と「守備シフト」だ。
▽ポランコの打球方向(本塁打を含む)
Pull% Cent% Oppo%
ポランコ 35.0 51.7 13.3
MLB平均 28.5 53.1 18.4
念のため書いておくと、Pull=引っ張る、は左打者のポランコの場合、右翼方向であり、Centは中堅方向、そしてOppo(site)=反対方向、つまり左翼方向のことで、前出の打球速度を併せると、ポランコは「引っ張って強い打球を飛ばす打者」ということになる。
ネガティブな見方をすれば、「ヒットゾーンが狭い」ことになる。彼がNPB移籍で突如、反対方向に打ち始めるとは思えないので先行き不安にはなるが、打球を引っ張ろうが流そうが、外野手の頭を越えれば長打である。ましてやNPBは二塁手や三塁手を右翼の芝の上まで移動させるような、MLBで流行している極端な守備シフトは今のところ、敷いていないようなので、たとえ反対方向に打たなくとも、MLBでは野手の守備範囲に飛んでいたはずの打球が抜けて、全体的な率が上がる可能性はある。

MLBの記録では、DeNAオースティンを上回っている
クロマティは、1989年に首位打者タイトルを獲得するなど「息の長い助っ人」となり、NPB7年で通算171本塁打を記録するなど、巨人の歴史に名を残した外国人選手なので、比較するのはフェアではないが、もしもポランコがMLB最終年の打率.208を少しでも上昇させるような結果を残せば、同出塁率.283や長打率.354もシンクロ上昇するのは間違いない。そして、彼が巨人で1年間、怪我なくプレーすることができるなら、昨季、セ・リーグで活躍したと見られている外国人選手に近い数字が残せるかも知れない。
▽昨季、活躍した主なセ・リーグ外国人選手の打撃成績
T・オースティン(DeNA) 打率.303/出塁率.405/長打率.601 28本塁打
J・マルテ(阪神) 打率.258/出塁率.367/長打率.451 22本塁打
N・ソト(DeNA) 打率.234/出塁率.302/長打率.436 21本塁打
J・サンズ(阪神) 打率.248/出塁率.328/長打率.451 20本塁打
D・サンタナ(ヤクルト) 打率.290/出塁率.366/長打率.511 19本塁打
D・ビシエド(中日) 打率.275/出塁率.333/長打率.433 17本塁打
J・オスナ(ヤクルト) 打率.258/出塁率.293/長打率.401 13本塁打
昨季、セ・リーグでもっとも活躍したとも言えるオースティンが、MLB最終年に3チームで打率.188/出塁率.296/長打率.409、MLB通算でも打率.219/出塁率.292/長打率.451だったことを考えれば、それを上回っているポランコへの期待は、自然と膨らんでしまうのである――。

文=ナガオ勝司
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