欧州でプレーを続ける日本人選手は、それぞれにポテンシャルを証明し、クラブにおける存在感を、評価を確実に高めている。

 とくに直近10年間の成長は際立つものだ。

 2022年早々、スコットランドの名門セルティックに日本人プレーヤー(井手口陽介、前田大然、旗手怜央)3選手が同時に加わった。かつてはJリーグで3人の外国人選手を一気に獲得し、チームの骨組みを作って強化したこともあったが、欧州の名門クラブがそれと同様の補強を日本人選手で行ったのは、もちろん今回が初めてのこと。イメージすらできなかったようなニュースだけに驚いた。

 セルティックの指揮官ポステコグルーは横浜F・マリノスの前監督であったので、日本人選手の特徴は熟知している。加えて今後の可能性に期待して判断したのだろうと考えられるが、それらを差し引いてみても今回は非常に勇気のあるオファーだと感じる。

旗手とポステコグルー監督 ©Getty Images

 選手獲得に関しての責任問題は、どのクラブにおいても大きい。とくに外国人選手は周りからの要求も高くなるだけに、クラブとしてはなおさら慎重にならざるをえない。セルティックは勇気のある決断をしたと考えられる。

欧州における日本人選手の活躍の変容

 そのように、様々なスタイルで選手の移籍は決まり、日本サッカー界も今日まで成長し続けている。Jリーグ元年から10年ずつを一区切りとして、これまでの海外移籍の潮流を振り返ってみたい。

 Jリーグ元年(1993年5月15日開幕)からの10年は、現在の選手たちが“バブル時代”などと表現し語り継がれているように、サッカーが日本中で盛り上がりをみせた。その中において、欧州に移籍する選手が現れたことで大きく注目されてニュースとなった。一方で、海外では日本人選手はスポンサーを連れてくるなどと揶揄されたりもした時代でもあった。

 次の10年は、毎年のように海外移籍する選手が現れ、欧州フットボールへの距離感に変化が生まれてきた。移籍後にコンスタントにプレーする選手も増え、その活躍を楽しめるようになった。その移籍先のメインは欧州の中堅クラブであったが、そこでの経験によってビッグクラブへとステップアップする選手も現れた。

今なお色褪せぬ香川のビッグクラブ移籍のインパクト

ドルトムント時代の香川 ©Takuya Sugiyama

 そこから直近の10年間は、メガクラブや欧州各国のCL常連クラブからオファーが届き移籍が実現するまで成長した。その代表例は世界最高峰のイングランド・プレミアリーグに移籍した香川真司だろう。

 ドイツのメガクラブであるドルトムントから、世界的なクラブのマンチェスター・ユナイテッドに移籍して大きなインパクトを残した。それはいまでも色褪せないほどのものである。

マンチェスターU時代の香川 ©Getty Images

 最近の例では、プレミアリーグのチャンピオンクラブであるリバプールへ移籍した南野拓実が注目を集めた。それから、今シーズンよりアーセナルと契約した冨安健洋のインパクトも大きい。彼らが現状における最高レベルのクラブに所属していると考えていい。

 さらには現在、イタリア・セリエAのサンプドリアでプレーしている吉田麻也。オランダよりサウサンプトンに移籍した彼はプレミアリーグで8シーズンを過ごした。150試合以上のキャリアを持ち、確かな実績を残している。プレミアリーグにおいて日本人選手のパイオニアは彼だろう。

5大リーグ以外で活躍する選手が増加している

 このように、Jリーグ元年をきっかけに多くの日本人選手が海外での挑戦を続けている。

 彼らは移籍先クラブでの活躍が評価され、より好条件の提示を受けて契約を更新する。またはステップアップの移籍をする選手も増えてきた。

 その移籍先に関しても様々な国へ拡大した。

 ヨーロッパの5大リーグ以外にもオランダ、ベルギー、ポルトガル、スコットランド、オーストリア、スイス、ロシアなどの欧州の諸外国でプレーする選手も増えた。

 欧州5大リーグ以外にも、近隣の国にはCL、ELに毎年出場するようなビッグクラブも多い。それもあり個人のレベルアップを目的としたクラブ選択や、ターゲットクラブへの移籍を見据えた経験を積むためのクラブ選択をする選手など選択肢が増えた。

 一方で、海外での確かな実績をもってJリーグへ復帰し、プレーしている酒井宏樹や大迫勇也、長友佑都などの選手もいる。これらはヨーロッパや南米といったサッカー先進国の選手たちのキャリア形成に似てきたように感じている。それを踏まえても、Jリーグの30年間における選手の成長速度の速さがはっきり見てとれる。

マルセイユ時代、ネイマール(PSG)とマッチアップする酒井宏樹 ©Getty Images

 欧州のように100年以上のフットボールの歴史を持つ国の選手たちのキャリア形成と日本人選手たちのそれが近いものになりつつあることが私は嬉しい。それらが羨ましくも感じている。

欧州サッカー界が備えている驚きの情報網

 クラブのスケール感や経験値においては、まだまだ先を走っている欧州フットボール界であるが、そんな彼らの絶え間無い努力を垣間見ることが多々ある。特に情報収集に関してのネットワークとその情報量には驚かされるばかり。日々の暮らしの中でオランダの各クラブ関係者(テクニカルディレクターや指導者)と話す機会が多いが信じられないくらいに日本のこともよく知っている。

 特に選手について、その豊富な情報のもとに質問してくる。

 私が生活の拠点をオランダに移した2014年以来、彼らのリストにある選手は年々増えている。それもかなり若い選手の名前まで記されている。恥ずかしい話ではあるが、彼らに尋ねられた時にすぐにイメージできない選手がいたこともあった。

 フットボールを取り巻くスピード感を肌で感じるオランダでの日々。その生活環境は厳しい反面、大きな可能性を秘めている魅力がある。それだけに追い続けるだけの価値がある世界である。

選手に限らず海外経験の場を創出する必要がある

 日本には達成させなければならない、JFAが掲げる大きな目標(2030年までにサッカーファミリー800万人とW杯ベスト4、2050年までにサッカーファミリー1000万人、日本開催のW杯で優勝)がある。

 その魅力的なビジョンに向かい、これまで以上にスピード感をもって進み、全てにおいてさらなるレベルアップを図りたい。そのためにも実力のあるサッカー人の、海外における経験の場を数多く作り出すことも必要だと考える。もの凄いスピードで成長を続ける日本人選手たちに遅れを取らないように、私たちサッカー関係者は、これまで以上の行動力とアイディアをもって進みたい。

©Kiichi Matsumoto/JMPA

 機会があるたびに何度も話しているが、日本人指導者のポテンシャルは高い。だからこそ、私の経験から言うが――もっと自信を持って世界で挑戦して欲しい。なかなか行動を起こせない状況が続いていることへの解決策はある。

 新たなプロジェクトを立ち上げ、その導入段階ではサポートを充分に駆使してでも、野心のある指導者を欧州で戦っている選手たちと同様の舞台に連れて行くことも必要だと私は考える。

 それらは選手たちの大きな刺激にもなり、相乗効果を生むはずであるから。

 次回はその辺りを中心に話したい。

文=藤田俊哉

photograph by Ian MacNicol/Getty Images