センバツ高校野球は、大阪桐蔭高の優勝で幕を閉じた。昨年は10月上旬に行われたドラフト会議……このタイミングで、今年の高校野球のドラフト候補「途中経過」として、投手・野手をそれぞれ10選手ずつ挙げてみた(野手編へ)。

 まだ春先の時期ということで、今回はいわゆる「ランキング」ではない。全国から、これは!という選手を投打10選手ずつ挙げて、現時点でのプロフィールを紹介したい。シーズン初めのこの時点で、どのような投手たちが挙がるのか……北から1人ずつ検証していこう。

【投手編1】門別啓人(東海大札幌〔北海道〕・182cm85kg・左投左打)

 昨年の北海高・木村大成投手(ソフトバンク・ドラフト3位指名)を、この30年の北海道高校野球でNo.1サウスポーと位置付けたら、その翌年に、その地位を更新しそうなサウスポーが現れるとは……。

 昨秋、149キロまでアップした速球は、アベレージでも140キロ前半。スライダー、チェンジアップとの緩急も一級品で、見下ろしで投げる相手には快速球一本で奪三振の山。左腕独特のアンバランスさがかけらも見られない投球フォームやしなやかな腕の振り。打っても内角低めの難しいコースを右中間最深部に満塁弾……教えても身につけられない天性の才能をいくつも兼備して、この春の注目点は、強敵相手にどれだけ決然と腕を振って立ち向かっていけるか。

 苫小牧中央高・斉藤優汰、知内高・坂本拓己、室蘭栄・住吉壮野に、センバツで進境を見せたクラーク国際・辻田旭輝……本格派の好素材だけでも、これだけいる。今年の「北海道」は忙しくなりそうだ。

【投手編2】田村朋輝(酒田南高〔山形〕・182cm76kg・右投右打)

 昨年夏の甲子園予選、2つ3つは勝つとみて、そのあたりで見に行こうと思っていたら、初戦敗退と聞いて驚いた。見た人の話だと、スピードで圧倒しようと力任せの投球になり、制球に破綻があったとか。

 それが「秋」に一変、強烈な腕の振りはそのままに、丁寧に落ち着いて投げても、気迫十分の投球でスピードは140キロ後半に達する。

 先発・完投も抑えも、同点のロングリリーフもこなすオールマイティ。スライダー、カットボールに、沈む系はツーシームとスプリット。それぞれにしっかりしたラインを作りながら投げ分ける技術があるのも、高度なピッチングセンス。東北では、盛岡中央高・斎藤響介と並んで、無名の逸材として今春の再会が楽しみでならない。

【投手編3】宮城誇南(浦和学院〔埼玉〕・173cm75kg・左投左打)

 この春のセンバツ、3試合の23と1/3イニングで27奪三振の、わずか3四球。調整不十分のはずの春先に、これだけ四球を出さずに三振の山を築く高校生左腕……過去にいただろうか。

 制球抜群の理由は投球フォーム。頭が動かず、体を開かず、左足を踏み込んでから体の左右を一気に切り返すメカニズムが好制球とリリースの見にくさと、スピードガンの数字をはるかに超える体感スピードを生んで、宮城投手を攻略困難な左腕にする。

 138キロの速球と120キロのカーブが同じ腕の振りで投げられ、スライダーでもいつでもストライクがとれるから、たまにピンチを迎えても、描いたプラン通りに後続を断ちきり、「ピッチング」という仕事がきっちりできる。

 同じ「宮城」で、同じ沖縄出身で、背格好も似たようなサウスポー……オリックス・宮城大弥の大活躍が重なって、相乗効果で評価もうなぎ登りだ。

【投手編4】田中晴也(日本文理高〔新潟〕・186cm88kg・右投左打)

 マウンド上の堂々たる存在感……そこだけとれば、今年の高校3年生投手の中でNo.1に推したい。

 それほどの雄大な体躯と豪快な投球フォームからの剛速球の迫力。昨秋の北信越大会、対戦した相手も誰もが知る強豪だったが、体の近くを145キロ前後の速球で突かれると、はっきり体勢がひるんでいた。これだけ大きな体の全身連動が、わずか18mほど向こうでなされて、さらにそこから長いリーチが真っ向からしなやかに振り下ろされれば、そりゃあ怖いだろう。

 今年の高校3年生投手で「150キロ」をクリアできる数少ない逸材。あとは、持ち球多彩な変化球に、何か1つ、これだ!の切り札ができてくれば。

 今のプロ野球でいえば、阪神・秋山拓巳投手の西条高当時がそのまま重なる。あの頃の秋山選手も「投・打」どちらに進むのか……気にかかるほどの超高校級スラッガーだったが、田中晴也の投・打も、やはり悩めるほどのレベルにあることを書き添えておきたい。

【投手編5】マーガード真偉輝キアン(星稜高〔石川〕・184cm93kg・右投右打)

 この春のセンバツ、昨秋からの変化を、最も感じたのがこの大型右腕だった。実戦経験不十分のこの時期、右打者にも左打者にも、目から遠いコースに動きの鋭いカットボールをこれだけ出し入れできる投手はいない。見事な進境だった。

 125キロ前後のカットをカウント球にも勝負球にも使えるから、130キロ後半の速球で差し込める。マウンドの大きなユニフォーム姿は見るからに「剛速球投手」だが、本質はバットの芯とタイミングを外しながら投げられる「ピッチング上手」だ。

 力んでやられていた昨秋の姿が別人のよう。爪を痛めるアクシデントがなかったら、まだ勝ち上がれる投手。今の、気負い過ぎない力感をキープしつつ、速球のアベレージがあと5キロ欲しい。

【投手編6】山田陽翔(近江高〔滋賀〕・175cm75kg・右投右打)

 京都国際高がコロナ感染辞退で、突然のセンバツ出場。しかし、甲子園のマウンドに登場した姿は、まるでそうなることを知っていて、万全の準備をした上のセンバツだったように見えた。

 すばらしくタフな心身。踏み込む左足のくるぶしあたりに死球を喰らって、それでも170球投げきった準決勝。足を引きずるほどなのに、痛そうな顔をチラリとも見せず、浦和学院の強打線を延長11回わずか2点に抑えたエースの矜恃。140キロ前後の速球と130キロ前半のスプリットとの、打者に気づかれない緩急には舌を巻いた。

 昨夏の甲子園、バックスクリーンに放り込んだ強打に、「打者」としての才能がキラリと光ったが、いやいや、とんでもない。骨の髄まで、間違いなく「投手」だ。

【投手編7】森下瑠大(京都国際高〔京都〕・178cm75kg・左投左打)

 実は、このセンバツで一番楽しみにしていたことがあった。京都国際・森下瑠大VS大阪桐蔭打線。高校球界No.1左腕(筆者評価)と高校球界No.1強打線の対決。念願叶わなかったが、このセンバツで4試合51得点を奪って優勝した大阪桐蔭打線だけに、余計に無念さが残った。

 オールマイティ……とにかく、なんでも出来て、隙のない左腕だ。打者の反応を見ると、150キロ近い威力を感じているはずの体感スピード。狙ったコースでいつでもストライクをとれるスライダーとカットボール。左腕が意外と苦手とする左打者に対するコントロールにもブレがなく、ピンチの兆しにぐんと上がるピッチング・ギア。

 筋書き通りに打者のスイングを崩していく投球センスに、高校生レベルなら、もう手玉に取られるだけ。高校生だが、即戦力度では今年の隅田知一郎(西日本工業大→西武)に匹敵すると見ている。

【投手編8】楠本晴紀(神戸国際大付高〔兵庫〕・186cm86kg・左投左打)

 高校野球では注目されても、その後の舞台で意外とその名を聞かなくなるのが「大型左腕」なのだが、それでも、たとえばプロで戦力になっている大型左腕の共通項は何か……といえば、それは「コントロール」だ。

 昨夏の甲子園、ピンチのマウンドからでも、投球の70%前後を狙ったコースにきめて、プロでも一軍クラスのコントロール率をマーク。

 テークバックと腕の前振りが両肩の延長線上でなされ、無理なく高いトップの位置がとれる理にかなったフォーム。球筋が見にくいのも、大きな実戦力だ。練習量と成長率が正比例するタイプ……数少ないプロで仕事のできる大型左腕と見る。

【投手編9】森山暁生(阿南光高〔徳島〕・182cm82kg・左投左打)

 1996年の夏の甲子園に出場した新野(あらたの)高と、巨人のリリーフで奮投した條辺剛投手をOBにもつ阿南工業高が統合した阿南光高。「あなんひかり」と読む。

 昨夏の甲子園予選、鳴門渦潮、徳島商、生光学園と強豪3校をわずか合計3失点に抑え、36イニングを1人で投げ抜いてチームを初の甲子園に導いた森山投手。スライダー、カーブ、ツーシームにカットボール……それぞれに確かな球筋を描いて、その投球センスが光った。

 速球のアベレージが5キロ近くアップした今春。緩急が冴えて、県大会では早くも20奪三振をマーク。

 昨秋の終わり、中国・四国担当のあるスカウトに訊いた。春になって一番最初に見に行きたい選手は? 即答で「まず、阿南光の左!」だった。「やっぱりね……」納得のつぶやきが聞こえてくるようだ。

【投手編10】大野稼頭央(大島高〔鹿児島〕・175cm68kg・左投左打)

 奄美大島から一般枠で初のセンバツ出場、名前を西武・松井稼頭央選手のファンだったお父さんが名付けた……野球の実力以外のところで話題になっていた選手だが、昨秋の九州大会から私自身がファンになるほどの「実力者」だ。

 私には「今宮健太(ソフトバンク)」に見える。投打の右と左が違うだけ……投げさせても、打たせても、走らせても、外野を守らせても、どう動いてもすべてかっこよく、絵になる。

 真っ黒に日焼けした精悍なマスク、ムダなものをすべて削ぎ取ったようなシャープなユニフォーム姿。大分・明豊高の頃の今宮選手のエネルギッシュなプレーがぴったり重なる。

 7、8分の力感から140キロ前半の快速球が投げられて、やはり軽く振り抜いた打球があっという間に外野フェンスに届く。聞けば握力70キロ以上。それ以上に驚いたのが、このセンバツだ。初回の立ち上がりから、左打者の内角にズバズバきめた投球技術だ。調整不足の春先にこんな芸当ができるだけで立派な才能。高いレベルで、左腕が働けるどうかの分岐点になる高度な技術を、今から身につけている。

「次点」というわけではないが、越井颯一郎(木更津総合高)、富田遼弥(鳴門高)……センバツで豊かな潜在能力の片鱗を見せた快腕たちもいて、この春以降の進境次第で、もしかしたら夏までに、この「10人」の半数ほどの顔ぶれが変わらないとも限らない。

 それだけに、高校野球の日々の展開は目を離すことができず、興味深い。

<野手編へ続く>

文=安倍昌彦

photograph by KYODO