かつて中村俊輔が在籍したセルティック。21−22シーズンには4人の日本人選手が所属する中でリーグ優勝を果たした。古橋亨梧、前田大然、井手口陽介、旗手怜央の4人に現地で直撃。セルティックでの思いなどを聞いた(全4回/古橋編、井手口編、旗手編も)

 時計の針はもうすぐ後半ロスタイムをさそうとしている。

 セルティックパークを埋めた緑の連中には勝利の歌の準備ができている。スコアは大差をつけている。数分後には勝ち点3が積み上げられるだろう。

 それでも、ピッチに目を移すと前田大然が走っている。最終ラインでボールを転がす、屈強だがボール扱いのあやういストッパーに獰猛なプレスをかける。試合開始直後と変わらない勢い。獲物をめがけ飛び込んでいくその背中に、観客は盛大な拍手を送るのだった。

 守備時には相手へのプレス、ボール保持時には積極的なランでスペースへ。チーム随一の脚力を活かした走りは、わずか半年でセルティックパークの名物となった。

©Rob Casey/Getty Images

 走ることについて聞いた。

「違うところで全力で走ってたら、ゆくゆくは自分のところにラッキーボールが来るもの。僕はそう考えています。この姿勢でこれからもやっていきたい。ゴールというのは、僕の中では取れるときはとれるし、取れないときはとれないもの。そう割り切っている。ゴールには運の要素もあるから、点が取れない時もチームのために戦うことが大事だと」

改めて、得点にこだわろう

 前田は1月にセルティックへやってきた。1シーズン目は21試合7得点。点が取れなかった時期には批判も浴びたが、今では彼がスプリントを見せるとスタンドの一部が沸くようになった。

 スコットランドには走り、身を粉にして戦う選手を愛する文化がある。

「スピードがある選手というのは、どこにいっても気に入られると思っています。僕はそのスピードをどんどん出していかないと。今よりも、もっと出したい。圧倒的なスピードを見せる。まだまだ、見せられていないと思っているので。

 こっちは日本より難しい部分もあります。ディフェンダーはでかくて、強くて、速い。ピッチコンディションも違う。それに、点を取らないと色々と言われますし、逆に取ればさすが、となる。改めて、得点にこだわろうと思いましたね。これはポルトガルの時にも感じたことですが」

 前田は2019ー2020シーズンにポルトガルのマリティモで初めての海外生活を経験している。大西洋に浮かぶ島、マデイラでの日常は想像を上回るものだった。そんな経験をもつ前田にとって、グラスゴーは何不自由ない大都会に思えた。

「マデイラ島での1年間はすごかった。濃い1年。生活でも、サッカーでも。あの経験ができたのは良かったし、スコットランドに来てもストレスを感じることはなかったですね。一度、あれを経験したので」

もう一度海外でやりたいという気持ちは伝えていた

 マリティモでの厳しい戦いの後にプレーした横浜F・マリノスで出会ったのが、現セルティックの監督ポステコグルーである。2度目の海外挑戦、セルティックを選んだのは恩師がいたからと彼は断言する。

「ここに来ると決めた一番の理由はポステコグルー監督がいたからです。僕にとっては、とても大きな存在。もう一度海外でやりたいという気持ちは、マリノスにいるときから常に伝えていたので、チャンスがあればという思いでやっていました」

マリノス時代の前田 ©Etsuo Hara/Getty Images

日本人4人がいるメリットと、気をつけるべき点

 ひとりでマデイラ島に乗り込んだ3年前とは違い、今回は旗手と井手口という2人の日本人選手が同じタイミングでセルティックへと移籍した。当時と比べても苦労の度合いは比較にならない。

「日本人が4人出れば自分たちの良さも出せると思うし、そこはいい部分だと思います。日本人に対する期待は高いと思うので、僕を含め4人がいいインパクトを残せれば。一方で、どうしてもピッチ外で日本人だけで固まって、他とコミュニケーションをとるべきところを日本人だけで取ってしまうこともある。そこは難しいところですね。

 ただ、僕はもともと日本にいた時からコミュニケーションはそんなにとるタイプでもなかった。必要最低限で、細かいところはそれほど。そこは変わらないので、寡黙にピッチでやるだけです」

 セルティックでは3トップの一角で定位置を確保し、攻守において前田という個性がはまっている。日本代表ではどうか。カタールワールドカップでの日本の対戦相手はスペインとドイツ。走り勝たなければ日本に勝機はない。攻守両面で、前田の強みは必要になるだろう。

「代表で定位置を獲得するには、とにかく点を取らないと。自分の特長をどう出すのかという点では、まだ自分の中でもはっきり分かっていない部分もあります。

 試合数もまだ少ないので、どうしたいのかも正直なところ分かっていない。代表に自分が適応しているかといえばまだ適応できていないし、これからなのかなと。これまでのように試合途中から出るとなると、相手にプレスをかける、そんなプレーになってくると思う。そこは自分の良さでもある。とにかく点をとって、自分はこういう選手だとプレーで表現していきたい」

東京五輪の前田 ©JMPA

「自分はあまり先のことは見なくて」

 前田を信頼するポステコグルー監督の要望もありシーズン後に買取が決定した。24歳の野心はいま、どこへ向いているのか。24歳の野心はいま、どこへ向いているのか。

「今までもそうなんですけど、自分はあまり先のことは見なくて、一個一個上にあがっていくタイプです。将来ここに行きたいという目標も特にない。セルティックでしっかりやれば成長していける。そう思っています」<つづく>

文=豊福晋

photograph by Alan Harvey/Getty Images(Celtic FC)