かつて中村俊輔が在籍したセルティック。21−22シーズンには4人の日本人選手が所属する中でリーグ優勝を果たした。古橋亨梧、前田大然、井手口陽介、旗手怜央の4人に現地で直撃。セルティックでの思いなどを聞いた(全4回/古橋編、前田編、旗手編も)

 井手口陽介にとって、セルティックは海外で4クラブ目となる。

 イングランドのリーズ・ユナイテッド、スペインのクルトゥラル・レオネサ、ドイツのグロイター・フュルトを渡り歩いた後、彼は2019年夏にガンバ大阪に戻る決断をした。

見返してやろうという気持ちが強いです

 昨冬、欧州で再挑戦することを決めた理由はただひとつ。日本復帰後、ひと時も消えることのなかった大いなる悔しさだ。

「ずっと、海外にまた行きたいという思いがありました。昨秋にセルティックから話をもらった時も即決でした。前回海外にいた1年半は悔しい思いだけで終わってしまった。自分がどれだけやれるのか。見返してやろうという気持ちが強いです」

 スペイン2部、レオンで過ごした半年間の記憶は鮮明に残っている。2018年、リーズからレンタル移籍で加入した、彼にとって欧州最初のチームではわずか5試合の出場に終わった。出場時間は107分。2月末以降は出場がなく、結果的にロシアワールドカップのメンバー入りを逃す一因にもなった。

「レオンではほぼ半年間試合に出られず大変だった。その後は怪我もあって、自分の理想としてた形ではなく日本に帰ってしまった。セルティックは2回目の挑戦になる。絶対に結果を残したいという気持ちが強い」

©Alan Harvey/Getty Images

セルティックはクラブとしても溶け込みやすいし

 セルティックに加入し、ピッチ内外で過去のクラブよりもやりやすいという印象を持った。初の海外での体験は必ずしもポジティブなものではなかった。多くの試合でメンバー外となり、朝靄がかかる川沿いを孤独に走る日々が続いた。

「ここはセルティックはクラブとしても溶け込みやすいし、なにより(古橋)亨梧くんが先に結果を残しているから、日本人選手へのリスペクトがあると思います。過去には中村(俊輔)選手も活躍していますし、イメージがいいのかなと。そういう空気は少なからず感じましたね」

 再スタートは不運に見舞われた。デビュー戦となったハイバーニアン戦で早速出場したものの、続くカップ戦で激しいタックルにあい負傷。足首を痛め、約1カ月離脱することになった。メンバーを固定するポステコグルー監督の下で、以降は十分な出場機会は得られなかった。

「同じポジションには(旗手)怜央もいます。日本人選手がいることでやりやすさもあるけれど、限られたポジションでもある。怜央が先に結果出しているのですごいなとは思うけど、当然悔しい。ここで定位置を確保するためには、もっと自分のプレーや特長を全面的に出していかないといけない。

 セルティックのサッカー自体がすごく攻撃的なので、持ち味を出すとしたら攻守の切り替えの部分。守備から攻撃、攻撃から守備というスイッチを自分がやっていけたらと思う。インサイドハーフには攻撃的な選手が多いので、それとはまた違う自分の良さをこれから出していけたら」

ポステコグルー監督に求められるタスクを

 ポステコグルー監督には自分の良さを出せ、と言われている。ちなみに2017年、オーストラリア代表を率いていた指揮官は日本代表とのワールドカップ最終予選で井手口に豪快なミドルシュートを決められている。

日本のロシアW杯出場を決定づけた井手口のスーパーミドル ©Asami Enomoto

「彼にとっては最高だろうが、私にとってはとても苦い記憶だよ」とポステコグルーが言う一方で、井手口は「あんなゴールは頻繁には出ないです」と笑う。

「ゴールやアシストの結果も大事だとは思うけど、自分の場合そこは難しいところでもあります。それほど攻撃的な選手でもないので、簡単ではない。ただ求められる部分でもあるので、狙いながらいきたいですね」

 2017年当時の自身と比較すると、いまではより周囲を見るようになったという。一度日本へと帰り、Jリーグでプレーした2年半も少なからず影響を及ぼしている。

「自分の良さやスタイルを取り戻す時間でした。それに加え、ガンバではチームの中での立ち位置も、もう若手ではなくなっていました。チームを引っ張る、責任感が出た2年半だったかな。昔は何も考えずに、がむしゃらに走ってましたし、ある意味、自分の本能だけで動いていた。それが、チームで年下が増えたことでその選手がやりやすいように、気を使いながらやるようになりましたね」

 経験がもたらす他者への配慮を成長と見ることはできる。しかしそれにより、彼本来の本能的、野性的な持ち味が隠れてしまうことはないのだろうか。

「少なからずはあるとは思う。でもチームのためだったら、違う仕事もしっかりやれればと。いまはまだ自分のプレーに物足りなさも感じているし、たしかに周りに気を使って遠慮している部分も多少あるので、それをとっぱらって自分を出していきたい。ダイナミックな動きを増やしていけたらと思います」

©Alan Harvey/Getty Images

試合に出ること、日本代表が見えるのはその次かな

 日本代表復帰は目標のひとつだというが、2度めの挑戦でまず注力しているのはセルティックでの日常だ。

「チームでコンスタントに試合に出ること。日本代表が見えてくるのはその次かな。あまり先のことは考えずに、1日1日やっていきたい。クラブレベルでもステップアップしていくことは最終の目標ではあるけど、今は少しでも多く試合に絡んで、来季もタイトルに貢献できるようにしたいです」

©Getty Images

文=豊福晋

photograph by Getty Images(Celtic FC)