2021年から2022年(対象:12月〜4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト3を発表します。将棋部門の第2位は、こちら!(初公開日 2022年3月26日/肩書などはすべて当時)。 雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は将棋の藤井聡太五冠と順位戦・名人戦にまつわる4つの言葉です。

<名言1>
将棋界の横綱になりたい。
(藤井聡太/NumberWeb 2021年8月29日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/849545

◇解説◇
 3月9日、将棋の第80期順位戦B級1組の最終局である13回戦が行われ、藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖と五冠)が佐々木勇気七段と対戦した。後手番の藤井はこの日、勝てば自力で順位戦の最高クラスとなるA級への昇級を決められる大一番だった。

 戦型が角換わりとなる中、佐々木七段が先に仕掛ける展開に。それを受けて藤井竜王は26手目に昼食休憩をはさんで1時間34分の長考に入るなど、昼過ぎには2時間以上も持ち時間に差がつく状況になった。その後、佐々木七段も2時間超えの大長考を経ての夜戦となり、藤井竜王は56手目でふたたび1時間24分の長考に入り、「△6二玉」を選択した。

 その後は「ABEMA」や日本将棋連盟モバイルの評価値も両者に大きく揺れ動く激闘となったが、最後は藤井竜王の持ち味である終盤力で佐々木七段を投了に追い込み、今期順位戦を10勝2敗、A級昇級を決めた。この勝利によって、「史上最年少名人」への道がつながることになったのだ。

 デビューして5期で4度の昇級、さらには順位戦通算成績は49勝3敗、勝率にすると「.942」という恐るべき結果を残している。スポーツに限らず相手がいる勝負事で、これほどまでに勝ちまくる人物は、果たして今までいただろうか――。

「横綱のように堂々とした将棋を」

 藤井竜王が勝利し続けるタームにいたのは、2017年初夏のこと。藤井はデビュー後、公式戦で負けなしの29連勝という空前絶後の記録を作った。そんな藤井は地元で開催された大相撲・名古屋場所を観戦。藤井竜王は打ち出しの後、支度部屋を訪れて横綱・白鵬と初めて対面した。

2017年、白鵬と握手する藤井四段(※写真をスワイプすると「藤井聡太、五冠までの歩み」がご覧になれます) ©Kyodo News

「自分も横綱のように、堂々とした将棋を指して強くなりたい」

 白鵬と対面した藤井竜王はこう語り、《達心志》という文言の扇子を贈った。それから5年――藤井は将棋界最高峰のタイトルである竜王を獲得するなど「五冠」となった。序列的には相撲における「横綱」と言って差し支えないレベルだが……19歳の目はきっと、さらなる高みを見据えているはずである。

渡辺名人が語った「年齢とミスの重み」

<名言2>
自分の年齢を考えれば、負けたら今後、名人戦に出られるかどうかはわからない。だからミスの重みがいつもとは違うんですよ。
(渡辺明/Number1010号 2020年9月3日発売)

◇解説◇
 順位戦は「C2→C1→B2→B1→A」というピラミッド方式で、年間を通じたリーグ戦形式で実施されている。その頂点におけるA級で最も好成績を残した棋士が、名人戦への挑戦権を得るフォーマットだ。

 79期を数える名人戦において、名人に在位した経験を持つ棋士はわずか15人だけ。通算18期の大山康晴十五世名人を筆頭に、中原誠十六世名人(15期)に木村義雄十四世名人(8期)、現役棋士ながら永世名人の資格を持つ羽生善治九段(9期)、森内俊之九段(8期)、谷川浩司九段(5期)とそうそうたる顔ぶれが並ぶ中で……当代きっての最強棋士、渡辺明二冠はなぜか名人戦と縁がなかった。その渡辺が初の名人位を獲得したのは2020年度のことだった。

 コロナ禍によって将棋界も例年とは違うスケジュールで進んだため、渡辺は棋聖戦と名人戦を立て続けに戦った。さらに棋聖戦の対局相手となった藤井(当時17歳)の初タイトルなるかで世間は大きく注目するなかで、その藤井相手に初タイトルを献上した。

2020年の棋聖戦 ©日本将棋連盟

「過去にもタイトル戦で負けたことはあるけど、この人にはどうやってもかなわない、という負け方をしたことはありません。でも今回はそれに近かった」

 当時の棋聖戦について、渡辺はこのように振り返り、藤井の強さを認めていた。この敗戦は心身ともに大きなダメージがあったはずだが……それで終わらないのが渡辺の凄みだった。

 第78期名人戦、挑戦者の渡辺は令和初の「竜王名人」となった豊島将之に対して、このシリーズ4勝2敗で制して初の名人位を獲得したのだ。さらに翌年度は「西の王子」として気鋭の存在である挑戦者・斎藤慎太郎八段相手に4勝1敗で初防衛に成功。強靭な精神力に感服するばかりだ。

 第80期名人戦では2期連続で挑戦者となった斎藤と再び相まみえる。現名人がどんな盤面の攻防を見せるのか――こちらにも注目したい。

最年少名人・谷川浩司が語った「藤井将棋」

<名言3>
藤井さんの終盤力は明らかにナンバーワンです。
(谷川浩司/NumberWeb 2021年10月7日配信)
https://number.bunshun.jp/articles/-/850106

◇解説◇
 順位戦における藤井の活躍でついて回る「最年少名人」という表現。その記録保持者であるのが谷川だ。

 中学生棋士としてデビューした谷川。当時の棋士が思いつかない手順で相手方の玉に迫ることから、「光速の寄せ」と称されるスピード感あるスタイルで、1970年代後半から80年代前半の将棋界を席巻していく。

 その中でも特筆すべきは順位戦だった。

 デビュー1年目こそ昇級はならなかったものの、そこから4期連続で昇級を果たし、一気にA級棋士の座へとたどり着いた(1度しか“足踏み”しなかったという点では藤井と共通する)。さらには現在のA級順位戦にあたる「名人戦挑戦者決定リーグ戦」で7勝2敗の好成績を残す。

 同成績だった中原とのプレーオフを制して名人戦挑戦権を手に入れると、前期悲願の名人位を獲得した加藤一二三九段相手に4勝2敗で勝ち、初タイトルにして21歳での史上最年少名人となったのだ。

 そんな谷川は、2020年度の順位戦B級2組で藤井と対局した。その一局を前にして谷川は「イチロー選手も、大谷翔平の球を打ってみたかったと思うんです」と好きだという野球にたとえて語っていた。対局は藤井が76手で勝利したものの、世代を超えた天才同士の対決に胸を熱くしたファンは数多かった。そして冒頭の言葉は「光速流」と称された谷川の棋力、そして実際に盤面をはさんだからこそ分かる感覚なのだろう。

谷川は2021年度の王位戦第3局で立会人を務めた ©日本将棋連盟

藤井先生なら誰も見たことのない景色に……

<名言4>
藤井先生なら誰も見たことのない景色に連れていってくれるのでは――それを間近で見ることができるかもしれない。そういう楽しみはありますね。
(藤井奈々/Number1044号 2022年1月20日発売)

◇解説◇
 藤井の一局一局は、棋士はもちろんのこと、それを見つめる人々すら魅了する。女流棋士でありながら、観戦記者としても活動する藤井奈々女流初段もその1人だ。

 本業と並行して2020年から対局者の一挙手一投足を伝える立場にいる藤井奈々は、「締め切りもあって大変でツラいです」とこぼすこともあるが、これまで藤井聡太の対局を計3局担当。さらには奈々の地元・京都で開催された竜王戦第2局(仁和寺)に自ら足を運ぶなど、観戦記者としての責務を果たしている。

 そんな観戦記者・藤井の目を通して見た「竜王・藤井」は――ここ2年で質問に対する答えの“枝”が増えたそうだ。そんな人間性とともに、ますます磨かれていく藤井将棋の美しさと強さ。「誰も見たことのない景色」と評した藤井奈々の言葉のように、来期順位戦、そしてタイトル戦でもまた藤井の一手が輝きを放つのだろう。

文=NumberWeb編集部

photograph by JIJI PRESS