2021年から2022年(対象:12月〜4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。インタビュー部門の第1位は、こちら!(初公開日 2022年1月9日/肩書などはすべて当時)。


「チームとして優勝して初めての雰囲気を味わえたというか、NWSL(アメリカ女子プロサッカーリーグ)には夢があるなと感じられた。すごくいい経験ができたと思います。それに、自分がまだまだやらなきゃいけないことがあるんだと突き付けられたし、世界にはすごい選手がいるんだということも痛感させられましたね」

 NWSLのワシントン・スピリットに所属する元サッカー女子日本代表FW横山久美(28歳)は、今季リーグ戦12試合に出場。チームは11月20日のファイナルを延長戦の末に制し、女王に輝いた。

NWSLプレーオフを制したワシントン・スピリット©️AP/AFLO

 サッカー選手として充実した時間を過ごした横山にとって、2021年はオフ・ザ・ピッチでも大きな転機となる1年だった。

 6月にはトランスジェンダーであることを公表し、11月には自身のインスタグラムで結婚を報告。写真の2人はとても幸せそうな笑顔を浮かべている。右手には結婚証明書、隣にはパートナー・なみさんの姿。

「表情が柔らかくなったね」

 パートナーの存在がそうさせているのだろう。最近、友人たちからよくこう声をかけられるのだという。

プロポーズはスタジアムで

 プロポーズは10月。なみさんを驚かせようと、スタジアムで行った。

「まずは指輪選びを知人に手伝ってもらって、プロポーズまでは自分の部屋に置いておけないからチームメイトの部屋に置かせてもらって。(プロポーズの時に)スタジアムを使うためにチームメイトに相談したり、チームのスタッフが動いてくれたり、本当にいろいろとみんなに助けてもらいました。だけど、本人は薄々感じていたようで……(笑)」

 それでも、彼女は泣いて喜んでくれた。横山本人はあまりにも緊張しすぎて、プロポーズで「ほとんど何を言ったか覚えていない」というが、返事は『YES』。翌日、練習に行くとロッカーにはシャンパンなどが置かれ、多くの人に祝福された。

本人のInstagramより Instagramより

 お互いの両親にもそれぞれ報告。パートナーであるなみさんの家族には以前、挨拶に行っている。

「すごく受け入れていただいている感じがあってうれしかった」

 結婚してからまだ日は浅く、「まだ実感はない」。ただ、一人暮らし時代とは異なり、パートナーのなみさんがアスリートである横山の体を気遣い、食事の管理をしてくれる。

「本当にありがたいですね。アメリカにいるときは日本のようにマッサージしてくれる方もいないので、彼女がやってくれることもあって。でも、甘えすぎちゃいけないとも思ってます。頼るところは頼って、頼られるところは頼られて、とお互い支え合いながら。今はその割合がうまくいっているような気がしますね」

 実は、結婚するまでは「そろそろ、サッカー選手を引退してもいいかな」と考えていたのだという。それを踏み止まらせてくれたのは、彼女の言葉や存在だった。

「年齢も年齢ですし、結婚する以上は相手や、相手の家族に対して責任を持たないといけない。彼女からも『まだ(サッカーを)やってほしい』と言われているので、もう少し頑張りたいなと。なにより、自分自身がサッカーをしている姿を彼女に見せたいので。今季、チームが優勝しましたが、まずはその時に間近で見せることができたのはよかったなと思います」

©︎USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

バイデン大統領も称賛したカミングアウト

 将来は男性として生きていきたい――。

 前述の通り、横山は永里優李の公式YouTubeで心と体の性が一致しないトランスジェンダーであることを公表した。このカミングアウトには、アメリカのバイデン大統領もツイッターで称賛するなど、大きな話題となった。

 幼い頃から自分は女の子だという感覚がなかった。中学生の頃から「自分はちょっと違うな」と女性の体へ違和感を覚え、トランスジェンダーという存在を知ると、自分もそうなのだと納得するようになった。女性としての未来は描けなかった。

 友人たちの数人は横山がトランスジェンダーであることを知っていたが、「絶対に公にはできないと思っていたし、日本にいるときは絶対にカミングアウトはしない」と決めていたという。

 そんな横山がカミングアウトを考えるようになったのは、ドイツやアメリカなど海外で生活を始めるようになってからだ。

「(アメリカでは)チームメイトで女性の方と結婚している方もいれば、パートナーとして一緒に暮らしている人もいます。一般的にみれば、反対している人も実際はたくさんいるんでしょうけど、それを感じさせないぐらい理解があるし、温かいなと感じました。だから、みんな堂々としているなと感じます。そういう生き方はシンプルにカッコイイと思うし、否定的な言葉を投げかける人がいても、周囲が応援してくれているので。今はいい環境なのかなと感じています」

 パートナーのなみさんの言葉もカミングアウトを決意させるきっかけとなった。

「顔も名前も知られている分、隠していても生きづらさを感じるよと言われて。男性だろうが女性だろうが、自分は自分だ、と。ありのままの自分がいいよと言われ、カミングアウトに踏み切れた部分もありますね」

 反応が怖かったという父親からも、「母に確認したら、『YouTubeもニュースも見てるわよ』と言われ、あわてて父親にLINEを送りました。そしたら、『(今まで)つらかったね』『これから一緒に頑張ろう』みたいな言葉がかえってきました」

 あれから半年。今は「目に見えないものから解放されたというか、気持ちがすごく楽になりました」と話す。カミングアウト以前はSNSでプライベートのことを載せるのも躊躇することがあったが、今は気兼ねなく載せられるようになった。

©︎Getty Images

「全員が理解するのは無理だと思います」

 今回のカミングアウトにあたっては、否定的な言葉もあったが、予想以上に多くの人からポジティブなコメントが寄せられたという。

「『自分もそうです』という方々も本当に多かったんです。逆に『自分は隠しています』という声もありました。そう考えると、自分も影響力があるんだなって。ただ、カミングアウトする、しないは本当に人それぞれの自由で、したくない人はしなくていいと思います。カミングアウトしていいこともあれば悪いこともある。自分は悪いことを言ってくれることもありがたいなと思いますけどね。

 賛否両論がないと話し合いができないし、世の中すべていいことばかりが起きるわけでもないので。逆に、自分のためにもなるし、いろいろ学べるのかなって。ただ、考え方は人それぞれですから」

 世界が性の多様性を認めるような動きを見せるなかで、日本でもLGBTという言葉が一般的になりつつあるように、トランスジェンダーに対する理解は年々深まりつつある。彼らを取り巻く社会制度、環境は議論と対策が行われ、少しずつ変化の様相も見せている。一方で、戸籍変更や結婚のハードルは高く、まだまだ課題も多い。

「全員が全員、理解してほしいと期待するのは難しいというか、無理だと思います。これはトランスジェンダーに限らないこと。ただ、まずは知ってもらうことが大事だと思っていて。理解をしてほしいから頑張って動いたりすると、人間って、けっこう拒否反応が出てしまうんですよね。だから、『理解してください』というスタンスよりも、まずは『こういう人たちもいるんですよ』というスタンスで見ていただけるだけでもいいのかなと思います。自分がそこで何か協力、還元できることがあれば」

2021-22年 インタビュー部門 BEST5


1位:「将来は男性として生きていきたい」元なでしこ横山久美(28歳)が明かす新婚生活と、スタジアムでのサプライズプロポーズ
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2位:「別れるか、芸能界を辞めるか」大河内志保50歳が明かす“結婚を決断した瞬間”「私が『野球以外のことをする新庄剛志』になろうって」
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3位:JRA初の女性騎手・細江純子が告白する“現役生活5年間”の苦悩「ウワサ話が怖くて…」「相談しただけで恋愛関係だと誤解された」
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文=石井宏美

photograph by Getty Images