2021年から2022年(対象:12月〜4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。スポーツ総合部門の第4位は、こちら!(初公開日 2022年2月2日/肩書などはすべて当時)。

 卓球界の新年は「天皇杯・皇后杯 2022年全日本卓球選手権大会」(以下、全日本選手権)で幕を開けた。今年は4年ぶりに大阪から東京に舞台を戻し、1月24日から30日まで東京体育館で7日間にわたる熱戦が繰り広げられた。

 東京五輪日本代表ら有名選手の活躍は大々的に報じられるが、実際はそれよりもっと多くの学生や社会人がプロとも肩を並べて卓球日本一を競う。

 例えば、大会3日目のジュニア女子シングルス5回戦で注目を集めた「東京五輪メダリストの妹対決」も全日本選手権の多様性を映し出す一戦だった。

美和とは対照的なキャリアを歩く亜子

 東京五輪メダリストの妹対決とは、女子団体銀メダルの平野美宇の妹・亜子と、男子団体銅メダルの張本智和の妹・美和によるベスト8決定戦だ。

 亜子は17歳の高校2年生、美和は13歳の中学1年生。同じ舞台に立った2人だが、卓球とのかかわり方は大きく異なる。

 中学入学と同時に宮城県仙台市の実家を離れた美和は、Tリーグに参戦する木下グループの木下卓球アカデミー(神奈川県川崎市)に所属し、兄と同じプロの道を歩む。日本女子卓球の次世代を担うジュニアナショナルチームのメンバーでもあり、昨年12月、ポルトガルで開かれた世界ユース選手権では女子団体、女子シングルスおよびダブルス、混合ダブルスで優勝し4冠に輝いた。

 一方、山梨県の公立高校に通う亜子は学校の部活動と母・真理子の運営する卓球スクールで日夜練習に励む。進学校のため毎日こなさなければならない課題は多く、時間をやりくりして卓球と勉強の両立に努める。卓球の腕前は山梨県でトップクラスで、昨夏にはインターハイにも出場したが、基本的にはごく一般的な学生生活を送っている。

張本美和と対戦する平野亜子 (c)Naoki Nishimura/AFLO SPORT

 そんな2人の初対戦はストレート勝ちで美和に軍配が上がった。負けた亜子はベスト16で大会を終えたが、全日本選手権初出場だった昨年の1回戦敗退を大きく塗り替える結果だ。

 亜子は三姉妹の三女で、長女・美宇と次女・世和を姉に持つ。

 昨春、大学生になった世和も高校まで卓球をやっていて、物心ついた頃から「平野美宇の妹」という視線を浴びてきた。

 だが、2人とも有名人の美宇にコンプレックスはない。それは母・真理子の三人三様の子育てによるところが大きい。

 とりわけ亜子には発達障害があるが、それは個性であり「隠すことではない」と公にしている。美宇も同じ考えで、時々テレビ番組にも出演する妹たちの姿を微笑ましく見守る。

 障害の特性上、亜子は人とのコミニュケーションが得意ではない。全日本選手権の記者会見に登壇した際も受け答えに時間がかかり、言葉足らずなところもあったが、そこは試合のベンチコーチでもある真理子が付き添い、手助けした。

 高校生の子の記者会見に親が同席するケースは他になく、わが子はそういう場は不得手だからと断ることもできるだろう。しかし、平野親子はそれをしない。なぜなら記者会見に応じるのも大会に出場する選手の務めであり、姉妹で応援してもらっていることへの感謝と考えるからだ。

 メディア対応に関しては美宇も幼いうちから「負けた試合で記者さんの質問に答えたくないと思うなら、勝った試合でも答えるのをやめなさい」と母に言われてきた。自分にとって都合の良いことばかりしていては人として駄目だという戒めである。

卓球を通じて社会性を身につける

 平野三姉妹は卓球を通じて社会性を身につけてきたといっていい。

 とりわけ発達障害のある亜子は6歳で卓球を始めてから同世代の友達と日常的に交わり、卓球スクールにやってくる年長者ともかかわりながら自然とコミュニケーション能力を高めてきた。

 彼女の障害のことを知らない人は、亜子のつっけんどんな態度や言葉にたじろぐかもしれない。だが、母・真理子の運営する「平野卓球スクール」には身体障害のメンバーもいて、皆、一緒に卓球を楽しんでいる。そうした環境の中でスクールの生徒たちはごく自然に障害に対する認知・理解を深めていくのだ。もちろん美宇も実家にいた小学6年生まで同じ環境で育った。

平野亜子 (c)Naoki Nishimura/AFLO SPORT

 また真理子が元教員で、かつて特別支援学校に勤務した経験を持つことも大きい。障害のある子どもに関する見識が豊かで、そうした子を持つ親の気持ちがよくわかる。そのことが卓球スクールのインクルーシブな環境づくりに反映されている。

 亜子は全日本選手権を通して自身の力を120%出し切った。特にサーブが効いて、5回戦で対戦した美和も「(平野選手は)いろんな種類のサーブを持っていて、自分のレシーブミスが多かった。サーブが上手いと思った」と目を丸くした。

姉・美宇も刺激をもらったと妹の活躍を喜んだ (c)Naoki Nishimura/AFLO SPORT

 亜子本人も自分の出来に満足した様子。実は昨夏のインターハイで緊張と相手のレシーブ強打を恐れ、思い切りサーブを出せなかった反省があったのだ。

 そのためサーブ練習に力を入れ、「3つの的を置いて連続で倒さないと終わらない練習をしてきた。3つめはとても集中するので緊張感のある練習ができた」と強化秘話も披露。

 さらに修学旅行にラケットを持参しボールつきをして、打球の感覚を失わないようにも努めたという。

 こうした日々の積み重ねが全日本選手権での躍進につながった。1回戦の勝利は実に5年ぶりとなる全国大会の勝ち星だった。

 3回戦は相手選手の棄権で不戦勝だったが、5回戦まで勝ち上がりベスト16に入ったのは見事としか言いようがない。

「足りないところを強化して発揮することができて嬉しい」と笑顔の亜子。姉の美宇も「たくさん練習していたので、その成果を出せて良かった。妹の活躍に刺激をもらった」と亜子の大好物のチョコレートケーキを差し入れた。

 そして、亜子と全日本選手権を戦った母・真理子は、「何よりも亜子の笑顔が嬉しかった。もしも文武両道の全日本選手権があったとしたら、ひょっとしてチャンピオンになれるかも!?」と言って笑った。

 国内最高峰の全国大会である全日本選手権には、さまざまな境遇の選手が出場している。そして選手の数だけ知られざる物語がある。それら全てを受け入れるのが、卓球人の憧れである全日本選手権の懐の深さなのだ。

文=高樹ミナ

photograph by Naoki Nishimura/AFLO SPORT