2021年から2022年(対象:12月〜4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。北京五輪部門の第2位は、こちら!(初公開日 2022年2月10日/肩書などはすべて当時)。

 2月4日に開会式が行なわれ、1日1日と競技が進められている北京五輪。さまざまな活躍が見られる一方で、いくつかのアクシデントが影を落としている。

 開会式前日の2月3日、スノーボード女子スロープスタイル、ビッグエアの2種目の代表だった芳家里菜が公式練習中に転倒。脊椎損傷の大怪我により欠場を余儀なくされた。芳家は幸いまひが残らず、当地で手術を行なったこと、治療ののち帰国することを報告している。

 2月5日にはスキー・フリースタイル女子の近藤心音がスロープスタイルの公式練習中に転倒、右膝外側側副靱帯損傷などの怪我を負った。そのため、7日に予選が行なわれるビッグエアを欠場し、13日に予選が行なわれるスロープスタイルについては出場を目指しているという。ただ、大きなハンディを負ったことに変わりはない。

ビッグエアは欠場となった近藤心音 ©Getty Images

人工雪と低い気温によって生じるリスク

 実は北京五輪には、大会の前から懸念されていることがあった。「人工雪」がベースになっていることだ。雪上競技が実施されるエリアは、北京からかなり離れたところにあるが、雪が少ない地域であるため人工雪を主にコースを仕立てることになっていた。人工雪自体はこれまでのオリンピックでも使用されてきてはいるが、北京五輪の雪上競技のエリアは非常に気温が低い地域でもある。人工雪と厳しい寒さ、ふたつの要素が重なる点は、他の大会と異なっている。

 おおまかに言えば、天然雪と比べ、ざらついた人工雪はクッション的な役割という面で劣ると指摘される。それに輪をかけて、マイナス20度前後まで下がる気温に冷やされ硬くなる。ビッグエアやスロープスタイルなどのように、大きなジャンプを行なう競技で転倒した際のリスクが懸念されていたのだ。

 いざ現地入りし、練習や試合を迎えた選手たちを苦しめているもうひとつの要素が、風の強さだ。4年前の平昌五輪では連日強風が吹く悪条件のため試合が順延され、それによって日程が詰まることで、予選と決勝をひとつにする実施形式の変更などを余儀なくされた。

 北京でも、風の影響は免れなかった。

「防弾氷のよう。絶対に転倒したくない」

 選手から、人工雪と低気温、風に対する心配の声が上がっていた。スノーボード女子スロープスタイルでソチ、平昌を連覇していたジェイミー・アンダーソン(アメリカ)は、試合に先立つ2月2日の記者会見でこう話している。

「大部分が人工雪だと思いますが、あまり理想的ではありません。(雪面は)防弾氷のようで、絶対に転倒したくありません」

競技を終えて舌を出すジェイミー・アンダーソン ©Getty Images

 今大会は9位に終わったが、試合のあと、寒さで体が動かずまた風もあって、「トリックをするのが怖かった」とコメントしている。

 同じくスロープスタイルで予選2位、決勝では10位の成績を残した村瀬心椛も予選後、風の影響について触れている。

「距離を飛べなかったり、あおられてしまったりしたところがありました」

予選を2位で通過した村瀬心椛だったが、決勝は転倒が響き10位となった ©Naoya Sanuki/JMPA

 人工雪と気象条件の影響は、ここまでの例にとどまらない。

 2月7日に行われたアルペンスキー・女子ジャイアントスラロームでは、硬いコースに苦しみ、6人が転倒するなどして途中棄権。ニーナ・オブライエン(アメリカ)は起き上がることができず、そりで運ばれる事態となった。

 それ以外の競技を含めても、雪面の硬さに対して「怖い」と語る選手がいたり、あるいは雪質の違いからいつもの滑りができず苦しむケースが見受けられた。

経験豊富な選手たちが「今までの大会でいちばん寒い」

 人工雪そのものについては、評価する意見もある。というのも、世界的な雪不足により、大会を開催できる地域は減少傾向にある。それを解決する方策となり得る点は大きなメリットだ。先に記したように、平昌をはじめ近年のオリンピックでも人工雪は用いられているほか、欧州での雪上競技でも導入されている。

人工雪のコースを滑り降りる女子モーグルの川村あんり ©Naoya Sanuki/JMPA

 ただ、北京五輪では、極度の低気温という条件が重なった。世界各国を転戦した経験が豊富な選手たちからも、「今までの大会でいちばん寒く感じる」という声が上がるほどの気温とあいまって、人工雪を主としたコースが恐怖心を抱かせる。風も体感温度の低さを助長する。恐怖、寒さ、雪質の違い、思うように動かない体……それらが負傷などのアクシデントや、万全のパフォーマンスを発揮できない状況を生み出している。

 北京五輪の雪上競技は、そうした難しいコンディションのもとで行なわれている。大会ではこれからも、さまざまな競技が実施される。

 北京ならではの難敵とも向き合い、選手たちは4年に1度の大舞台に挑むことになる。これ以上のアクシデントが生まれず、多くのアスリートが本来のパフォーマンスを発揮できるよう、祈りたい。

文=松原孝臣

photograph by AFLO