2021年から2022年(対象:12月〜4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。フィギュアスケート部門の第3位は、こちら!(初公開日 2021年12月30日/肩書などはすべて当時)。

 2021年12月23日から26日にかけて行なわれた全日本選手権は終了し、シングル、ペア、アイスダンスすべての北京五輪代表が決まった。

 そのリンクに立つことができなかった選手たちもいる。紀平梨花もその1人だった。

大会直前まで出場の可能性を探っていた

 開幕を翌々日に控える12月21日、欠場する見通しであることが報じられた。その後も欠場を伝えるニュースが次々に流れ始めた。

 だが、正式な欠場はアナウンスされないまま、時が過ぎた。やがて、ぎりぎりまで出場の可能性を探っているという話が伝わり、12月22日の公式練習に参加し、そこで最終判断をする可能性があるという話も出るようになった。欠場はアナウンスされず大会開幕前日の22日を迎え、だが12時45分から紀平が参加する予定だった公式練習を前に、正式に欠場が発表された。

 日本スケート連盟を通じ、コメントも発表した。

「この度、7月に発覚していた右足の距骨疲労骨折の回復が遅れ、全日本選手権を欠場することを決めました。

 少しでも早く氷上での元気な姿を見て頂けるよう、今は治療に専念することに致します。この様な状況の中、皆様の温かいメッセージは心の支えになっています。本当にありがとうございます。」

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 このとき、オリンピックの代表に選ばれる可能性もなくなった。全日本選手権出場が必須とされている中、世界選手権で表彰台に上がった実績がある選手は欠場しても考慮される可能性があることが選考基準に定められていたが、紀平は過去最高が4位。欠場は、すなわち五輪代表選考の対象にならなくなることを示していた。最後まで出場する可能性を探っていたのも無理はなかった。

北京五輪“金メダル”を目指してきた4年間

 平昌五輪の選考を兼ねた2017年の全日本選手権で3位と表彰台に上がった。オリンピックに参加できる年齢に達していなかったから選考対象外であったし、むろん、紀平本人もそれは分かっていた。それでも全日本選手権で表彰台に上がった経験に「この大きな試合でこれだけできたことは大きな自信になりました」と手ごたえを得つつ、次こそは、という思いを強めただろう。

 以降、着実に道を歩んできた。2018−2019シーズンにシニアに上がるとグランプリファイナル優勝を含め国際大会ではシーズン初戦から6大会連続優勝。世界選手権にも出場し4位となった。2019−2020シーズンは2年続けて進出したグランプリファイナルこそ4位だったが全日本選手権で初優勝し四大陸選手権では連覇を達成。コロナにより世界選手権が中止となり、シーズンを終えた。

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 昨シーズンは初戦となった全日本選手権で4回転サルコウを決め、日本女子史上2人目の4回転ジャンパーとなって連覇。世界選手権ではショートプログラム2位と好スタートを切ったが時差の調整などから来るピーキングの失敗からフリーでミスが出て7位にとどまった。

「こういうミスを二度としないよう、本気でやり直したいです」

 ロシア勢の表彰台独占に、「4回転ジャンプを2本入れるくらいの難しい構成を」と心に期した。

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 だが、今シーズンは怪我に苦しんだ。春以降は腰痛で練習を休まざるを得なかったり、ひと月ほどジャンプを跳べない期間もあった。7月に右足首を痛め、結果、グランプリシリーズは2大会ともに欠場を余儀なくされた。11月もリンク外での練習がメインとなるほど回復に至らなかった。可能性がわずかとなっても、ぎりぎりまでオリンピックへの道を模索していた。その末の決断だった。

「フィギュアスケートしかないと思っています」

 紀平はオリンピックをどんな舞台と意識して目指してきたのだろう。4年に一度の特別な場所であるのは言を俟たない。その上で頭をよぎるのは、取材での言葉だ。高難度ジャンプでフィギュア界を席巻するロシア勢への意識などについて語った紀平に、フィギュアスケートとは、と尋ねるとこう答えた。

「命懸けの存在というくらい(大切なもの)」

 そして続ける。

「お世話になった方などにお返しするには、フィギュアスケートしかないと思っています」

 そこにてらいはなかった。心からの思いがあった。そしてお返しできる最大の舞台はオリンピックにほかならない。

真摯に磨いてきた土台は決して失われない

 北京への出場はかなわなかった。ただ、その足取りをたどれば、女子の選手が突き当たる成長期を経ながらトリプルアクセルの精度を高め、4回転サルコウを成功させるに至った。ジャンプにとどまらず、スピンやステップ、表現の面も含め、総合的な力を備えてきた。真摯に磨いてきた土台は決して失われない。

2021年世界フィギュアスケート国別対抗戦にて ©Getty Images

 試合の場に立てないという、何にも増して悔しい思いを味わったはずの紀平は、12月25日の夜、女子フリー終了後に自身のツイッターに記した。

「大きなプレッシャーの中みんな本当におめでとう」

「私も早く怪我を完治させもっともっと強くなって戻ってきます!! わたしもがんばります!」

 紀平梨花の真がそこにあった。

文=松原孝臣

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