中島翔哉の活躍で日本のサッカーファンの中で有名になったポルトガルのポルティモネンセ。ブラジル在住のライターが現地取材し、中島や中村航輔、さらには浦和レッズで活躍したロブソン・ポンテ副会長らに直撃した記事をお届けします(計4回/#2、#3、#4も)

 縦長の長方形のような形状をした欧州最西端の国ポルトガルの、底辺の左角に近い海沿いに、ポルティモンという人口6万人足らずの町がある。

「欧州で最も美しいビーチの1つ」(ガイドブック)が売り物のリゾート地で、中心部には小ぶりな港、中世に建てられた美しい教会、しゃれた遊歩道があり、落ち着いた街並みが広がる。町の人々は、素朴で人情味がある。

ポルティモネンの街並み ©Hiroaki Sawada

 この極めて居心地の良さそうな町に本拠を置くのが、ポルトガルリーグ1部で奮闘するポルティモネンセである。現在1部で戦うクラブの大半が北部と首都リスボン周辺に集中しており、リスボンより南にあるのは本土ではこのクラブだけだ。

 ポルトガル1部の優勝はほぼ常にポルト、スポルティング、ベンフィカの3強によって争われ、中位以下のクラブにもそれなりのヒエラルキーがある。ポルティモネンセにとってのノルマは、常に1部の舞台で戦い続けること、である。

 次回の記事で詳しく触れるが、ポルティモネンセはクラブのオーナー、会長、副会長が揃って日本と日本人と日本のフットボールを熟知するブラジル人。スポンサーに多くの日本企業を取り込み、日本人選手がトップチームに3人(元日本代表のFW中島翔哉とGK中村航輔、若手FW川崎修平)、U−23にも3人が在籍し、マッサージ師も日本人という欧州では異色のクラブである。

1万人弱の収容人数、日本企業の看板

 筆者は4月上旬から中旬にかけてポルティモンに滞在し、クラブとその関係者を取材してきた。

 4月9日夜、現地に到着して海が見えるアパートに落ち着くと、翌日、本拠地ポルティモン市営スタジアムで行なわれるポルトガルリーグ第29節のファマリコン戦の観戦に出かけた。

ポルティモネンセのホームスタジアム ©Hiroaki Sawada

 スタジアムの収容人数は、1万人弱。特に豪華ではなく、大きくもない。しかし、市の人口の約16%を収容する、と考えると印象が変わってくる。

 スタジアムの外壁には、スポンサーを務める日本企業の社名が書かれた看板が並ぶ。中には、表記が日本語のままのものもある。

「ああ、君が取材に来てくれた日本人記者か」

 クラブ広報を通じてメディアパスを申請していたのだが、スタジアムの受付へ着くと、偶然、ロジネイ・サンパイオ会長に出くわした。

 この時点ではまだ面識がなかったが、写真で顔を知っていたので「会長さんですよね」と思わず話しかけた。すると、「ああ、君が取材に来てくれた日本人記者か」と応じてくれ、頼みもしないのにその場で職員に命じて「カマロッチ・プレジデンシアル」(会長招待者用ボックス席)への招待状を発行してくれた。

 スタジアム脇のグッズショップに入ると、壁に笑顔でプレーする中島のパネルが掲げられていた。他にも、駐車場の壁やプレスルームの出入り口など至るところに中島の写真があり、このクラブにおける彼の存在の大きさを感じた(その理由については、次回の記事で説明する)。

©Hiroaki Sawada

「中島は攻撃の組み立て役としてよくやっている」

 この日の試合は、今季のポルティモネンセにとって極めて重要だった。

 ポルトガル1部は18チームで構成され、34節を戦う。17位以下が自動降格し、16位は残留を懸けて2部3位とプレーオフを行なう。

 試合前の時点で、ポルティモネンセは7勝8分13敗の勝ち点29で12位。ただし、16位との勝ち点差は4しかなかった。一方、対戦相手のファマリコンは勝ち点28の14位で、残留を争う直接のライバルである。

 この試合を含めて、残り6試合。ホームゲームでもあり、是が非でも勝ち点3を獲得して残留の可能性を大きく高めたいところだった。

ポルティモネンセの練習風景 ©Hiroaki Sawada

 クラブ職員に会長招待者用ボックス席まで案内してもらったが、試合までまだ1時間以上ある。1階上のメディア関係者席へ出向き、地元記者に話を聞くことにした。

 比較的暇そうにしている中年の男性に話しかけたら、この日の「ア・ボーラ」(ポルトガルの代表的スポーツ紙)で試合のプレビューを執筆したベテラン記者だった。

 今季のチームの出来、日本人選手について聞くと、こう返ってきた。

「前半は予想以上に健闘した。しかし、冬の移籍期間中に中心選手2人が移籍したのが痛かった。彼らの穴が埋まらず、以後、ズルズルと成績が落ちてきた。

 中島はまだ故障の影響が感じられるが(注:昨年2月、腓骨骨折と足首の靭帯損傷の大怪我をして手術を行ない、治療とリハビリに約8カ月かかった)、攻撃の組み立て役としてよくやっている。ただ、彼からの決定的なパスを決め切れる選手がいない」

 昨年1月に柏レイソルから移籍したものの、ここまで控えの立場に置かれているGK中村は「能力は高い。出場したときはよくやっている」。昨年8月に入団した川崎については「U−23のリーグに出場しているようだが、トップチームではまだプレーしていないのでどんな選手かわからない。クラブ関係者によれば優秀な若手だということなので、来季以降の活躍を期待している」ということだった。

中島はセカンドストライカーとして奮闘していた

 試合開始が近づき、両チームの先発メンバー表が配られた。中島は先発で、中村もベンチ入りしている。

 やがて、選手たちが入場してきた。身長164cmの中島は、ひときわ小さい。

 午後3時半、試合が始まった。

 ポルティモネンセのフォーメーションは4−4−1−1で、背番号10を付ける中島はセカンドストライカーとしてトップから中盤まで広く動き回る。パスを受けると、ダイレクトで叩いたり、あるいは巧みなトラップからの鋭いドリブルでマーカーを外して決定機を狙う。

 前半27分、CBからパスを受けたMFが右足で強烈なミドルシュートを放つ。右へ外れたが、スタンドから拍手が起きる。40分、ファマリコンは敵陣左からのスローインを頭でそらし、ゴール前でフリーになっていた選手が頭で狙う。これがクロスバーに当たり、その跳ね返りをポルティモネンセのブラジル人GKがキャッチした。

 その直後、ポルティモネンセが右サイドを崩し、クロス。これがゴール前ニアサイドへ走り込んだ中島の後方へ流れ、中島が右足のヒールで触れてわずかにコースが変わった。ファーサイドへ飛び込んだFWがスライディングしながら右足でシュート。これがゴールポストに当たって跳ね返ったところを頭で押し込んだ。

貴重な勝ち点3を手にして……

 地元チームの先制点に、スタンドから大きな歓声が上がった。

 後半、ポルティモネンセは中島の組み立てなどからチャンスを作るが、追加点をあげるには至らない。中島は後半38分に交代。スタンドから拍手を受けた。

 その後、ポルティモネンセはファマリコンの反撃を辛うじて凌ぎ切り、1−0で勝利を収めた。残留へ向けて貴重な勝ち点3を手にしたとあって、クラブ関係者は皆、大喜びだった。

 チームが勝つと、関係者の機嫌が良くなり、口が滑らかになる。これは取材する側にとっても好都合だ。翌日からの本格的な取材が楽しみになった。

<#2につづく>

文=沢田啓明

photograph by Global Imagens/AFLO